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僕らが住む土地のために

フェリペ・カンシーノ  /  2021年9月22日  /  読み終えるまで10分  /  アクティビズム, トレイルランニング

チリのマイポ渓谷のコミュニティは、不要な水力発電プロジェクトによって環境が脅かされている。

アルト・マイポ・パイプラインを辿って120キロ走った後、フェリペ・カンシーノは、この巨大水力発電プロジェクトの開発に晒された場所に及ぼす影響について考え座り込む。チリ、マイポ渓谷のヴァレ・デ・ラス・アレナス。Photo:Rodrigo Manns

家に戻るたびに僕は稜線を見つめ、上流の渓谷から吹き下ろす風を感じ、川を見渡してはこの場所が、あとどのくらいこのまま残されるのか、あとどれだけ流れる川を眺めることができるのかと想像してしまう。その答えが、「ずっと長い間」であることを望みながら、日を追うごとにそれがより不明確になっていると感じている。

あまりにも短い期間でこの渓谷が大きく変化しているのを目の当たりにしてきた。それは人間の野心や欲望に対して渓谷が抵抗しているかのようだった。歴史的にこの生態系を少しずつ剥奪し、それをビジネスと企業の利益のために変えてきた、多くの採取活動が複合的に影響している。さらに、この地域が経験している強烈な干ばつに気候変動の影響も加わり、この渓谷が、今後どれだけ耐えられるのかは僕らには分からない。しかし、マイポ渓谷が苦境に立たされていることは明らかだ。

チリで最も人口の多いサンチアゴの近隣にあるマイポ渓谷は、歴史的に天然資源の供給地として指定されてきた。鉱業、水力発電所、骨材の採取は流域の上流に集中している。「採取、採取、採取」は長い間、チリ経済の理論かつマントラであり、この渓谷が負った傷跡はその影響を完璧に表している。

この渓谷の健全性を脅かす産業の中で、とどめを刺すことのできるものがひとつある。それが「アルト・マイポ」だ。アルト・マイポは、米国を拠点とするAESアンデス(旧名AES Gener)社とオーストリアの技術会社ストラバグ社が経営する巨大水力発電所だ。このプロジェクトの目的は、マイポ川に流れる3つの主要な流域の水を利用し、山域の地下に掘った一連のトンネルに流し込み、電力を生産するのが目的だ。過去10年間の建設中に地元地域の強烈な反対に直面したにもかかわらず、アルト・マイポ・プロジェクトは完成に近づいている。現在、チリにはこの電力を利用する消費者需要は存在しない。実際に電力は供給過多の状態にある。そして、このプロジェクトの潜在的なエネルギーは、この地域で将来的に予想される採掘プロジェクトのためのもので、それはこの地域にさらなる悪影響をもたらす。アルト・マイポは、チリのこの地域における未来の採掘プロジェクトの氷山の一角に過ぎないのだ。

ここでは少し背景を説明したい。マイポ渓谷は山間部に位置し、チリで最も人口の多い都市サンチアゴに密接している。マイポ渓谷はこの地域全体で生態学的に重要な役割を果たしている。サンチアゴに飲用水を供給し、きれいな空気、そして渓谷の作物に水を提供することによって、流域全体として何百万人もの命と生活を支えている。これらの水は、この渓谷の山々の何百もの氷河と主要な帯水層、高山の湖、そして河川に蓄えられている。

人間の人口、この地域の多様な植物相と動物相は河川の生態系に依存しているが、いまこのバランスが崩れかけている。簡単に言えば、アルト・マイポの巨大水力発電所はこの地域が有史以来最も強烈な干ばつに襲われる中で稼働しようとしている。それは、生息する生態系に取り返しのつかない危害を加えることになる。気候変動と10年来の強烈な干ばつの真っ只中に、この流域から水を奪うことは、生態系破壊のように思える。これは明らかに社会・環境的な正義が欠如している例だ。マイポ渓谷の土地と人々は、遠くの企業の利害と利益や大都市のためだけに、この土地に高い環境コストを支払うことはできないし、そうすべきでもない。

僕らが住む土地のために

マイポ渓谷には何世代にもわたる乗馬の伝統がある。ラバ追いはかつて手付かずだった景観へのアルト・マイポの影響を目の当たりにしてきた。チリ、マイポ渓谷のラグナ・ロ・エンカナド地域。写真:Rodrigo Manns

僕らの世代とチリの人口の大多数が望んでいることを反映してはいない。このようなやり方でこの地が開発されるのを見たくはない。地元民は現在そして未来もこの渓谷がもっと多くの恩恵をもたらすと信じている。僕らは採取産業の先を夢見ているのだ。

この地域に生まれた人のほとんどは、マイポ渓谷ははじめて大自然を経験した場所である可能性が高い。そして、ここはチリ中部に住む700万人以上の人のリクレーションの中心地で、この地域の住人だけでなく、何百万人もの旅行者や観光客にとって美しい場所なのだ。僕が幼少期にはじめて大自然を経験したのも、このマイポ渓谷だった。ここは僕がはじめて登山をした場所でもある。僕の過去と現在はつながっていて、はじめてのキャンプの経験も僕がいま住むこの場所に根差している。

しかし、時が経つにつれ、この地域の機能は変化し、そのアイデンティティも変容した。この地域に住むすべての人が、その生態系の健全性に依存している。また、山岳地帯の流域の上流部に住むわずかな人々は、外国が支援する採掘プロジェクトの直接的な影響をさらに受けやすくなっている。マイポ渓谷は、この地域を形成するコミュニティがあり、特別な故郷なのだ。

この場所は、この土地で生まれた人の故郷であり、渓谷の下流域にある農村と山間部の暮らしには確固たる伝統がある。その暮らしはシンプルで、収入は土地利用と家畜を放牧する草原に直接的に依存している。彼らは山の水不足の証人かつ犠牲者であり、その生活は悪影響を受けている。彼らは干ばつと産業の影響を最も直接的に受ける、主なグループなのだ。

この渓谷には、夢を追う人たちも住んでいる。それは、自然とのつながりを再び取り戻すために都市から離れた人や静かな場所で異なる生活を求める人たちだ。また彼らは、自らビジネスをはじめたり、自然や環境を保護するために一歩踏み出した人たちもいる。僕らは彼らから多くのことを学ぶ必要がある。

マイポ渓谷には、たくさんの小さなコミュニティが集まっている。自然環境へのアクセスが良く山脈と氷河、河川に囲まれた景観は、この場所を世界的な観光地にしている。そして、多くの人がこの地域でエコツーリズム産業のビジネスを築く機会を見出し、行動に移してきた。ここにはアウトドア・レクリエーションと観光で知られる渓谷で地元経済を発展させた起業家精神に溢れた個人や家族がいる。これらの人々も、またその仕事やビジネス、生活を生態系とその健全性に頼っている。

この場所は、自然のエネルギーに溢れた土地でもあり、多くの芸術家、著作家、アートクリエイター、音楽家、そして異なる周波数に同調することで創造性を見出す人々のインスピレーションの源でもある。彼らはたいてい「ヒッピー」と呼ばれているが、僕は彼らから、そして現代社会が切り離してしまった自然とのつながりを彼らから多くを学ばねばならないと思う。

山と川へのアクセスの良さは、この渓谷でスポーツと活動を楽しみ、野生の場所とのつながりを経験したいアウトドア愛好家とアスリートを惹きつける。残念なことに彼らの活動もまた影響を受けている。この地域の様々な産業と企業によってバックカントリーへのアクセスが制限されているのだ。僕の住むコロラド川の上流には5,000メートル峰が28と300の氷河がある。この142,000ヘクタールの土地は、チリ中央に存在する最大の公有地で、そのアクセスはアルト・マイポ・プロジェクトの陰に潜む企業AESアンデス社によってコントロールされている。僕は最近、こっそり潜入してこの渓谷の山々で30日間の遠征に赴いた。それがこの信じられないエリアへ入る唯一の方法だったからだ。

僕らが住む土地のために

環境を保護するためにはどんな活動であっても試みる価値がある。『流域を救うために走る』の撮影でマイポの山々を駆け巡るフェリペ・カンシーノ。Photo:Rodrigo Manns

アクセスが禁じられているもうひとつの象徴的な地域に、2つの壮大かつ大規模な高山湖があり、その場所はアルト・マイポにも関わっている飲料水を供給するアグアス・アンディナス社によって管理され、この地域への立ち入りは完全に禁じられている。さらには32の異なる立ち入りに関する問題が存在し、僕らがレクリエーションとスポーツを楽しむ場所はいま大きく脅かされている。

自然保護主義者、環境保護主義者、草の根活動家は、この渓谷の環境と故郷の保護を提唱する大きな役割を果たすもう一つのグループだ。彼らの情熱的な活動と努力のおかげで、現在ではいくつかの保護区が設けられ、環境のために、そしてこれらの大企業の採取プロジェクトに反対を呼びかけるキャンペーン、環境保護を教育や地元の持続可能な経済と結びつけるためのさまざまな計画も存在する。ラグニジャスとカスカダ・デ・ラス・アニマスの2つの私有地は、生態系の回復と生物多様性を保護するために人々が懸命に取り組む保護区だ。そこには多くの絶滅危惧に瀕する植物と動物が生息している。

さらにまたケレモス・パルケ、文字通り「僕らは公園が欲しい」と呼ばれるとても大きなキャンペーンも行われている。その主な目的はこの巨大な公有地を保護し、周囲にあるその他の保護区とつなげて多くの種のための生態系回廊を設定することにある。僕はこのような地域がまさに僕の裏庭であることをとても幸運に感じている。僕と同様、未来の世代もこの場所を楽しむことができるように、これらの地域を保護することを望んでいる。

これは相互に関連する環境だ。ここに住むコミュニティの生活は、直接この場所の健全性に依存している。マイポ渓谷に住む僕らは観光、アウトドア・レクリエーション、教育、自然保護などの活動もその健全性に依存している。それは大規模な採取プロジェクトの脅威とは明らかに対照的で、この場所の独特なアイデンティティを与えている。これらの地元のコミュニティにとって、環境を大切にすることは最優先事項だ。この国の方向転換を願う僕ら国民は、この場所と土地を守るために団結している。マイポ渓谷のコミュニティは環境との関係を取り戻すために一所懸命に取り組んできた。それこそいま僕らの惑星が最も必要としていることだ。僕らは将来を再考し、経済を転換させ、「開発」という名のもとに採取と破壊を行うという、かつてのやり方から移行する必要がある。

次の疑問は「じゃあこれからどうする?」だ。

僕らがマイポ渓谷で直面する環境問題は、多くの意味でチリ全土で起きていることの縮図である。チリには概ね外国企業が所有し投資する鉱業、水力発電、鉱物採取などのプロジェクトに脅かされているたくさんの地域コミュニティが存在する。この国においてこの流域がいかに戦略的なものであるかを考えるとき、アルト・マイポは僕らが直面する経済と未来の核心のシンボルだ。僕らは環境を犠牲にして搾取しつづけるのか、ゲームのルールを完全に変えるのかのどちらかを選ばねばならない。この決断は渓谷の未来にとって極めて重要なもののように思える。国としてこの水力発電所を許してしまったら、僕らの生態系は社会としての怠慢の結果を被ることになる。しかし僕らにはこれまでの方向性を見直し、手遅れになる前にアルト・マイポをギリギリのところで阻止するチャンスがあるのだ。

僕ら全員がこれらの変化を起こし、環境のために声を上げることができる。マイポのコミュニティの大部分がすでにそうしているように。

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