クリーネストライン


8,000キロメートル以上の距離をこのジーンズで旅し、さらに記録更新中のマーク・リトル。毎日の通勤の往復16キロメートルを含め、2年半近くずっとはきつづけた。Photo : Tim Davis
8,000キロメートル以上の距離をこのジーンズで旅し、さらに記録更新中のマーク・リトル。毎日の通勤の往復16キロメートルを含め、2年半近くずっとはきつづけた。Photo : Tim Davis

未完の仕事

By レイチェル・G・クラーク   |   2021/09/14 2021年9月14日

スポーツウェア&サーフ製品ラインを監督するマーク・リトルが、年季の入った1本のジーンズを披露しました。製品チームが2015年にデザインして以来、マークはこのジーンズを2年半、ほぼ毎日はいていたと。ライターでありスポーツウェア&キッズ部門のエディターであるレイチェル・G・クラークに、そう自慢げに告げました。

マーク:これは仕事着で、部屋着で、旅行着でもあるんだ。2年半のあいだに洗ったのはたぶん5回。

レイチェル:えっ、たった5回しか洗ってないの?

マーク:うん。

レイチェル:どうやって……というか、どうして?

マーク:パタゴニアが採用した新しい染料の特徴で、できたてのジーンズはなんとなく紫色っぽかったんだ。このジーンズは普通のジーンズのようにはき込んで色落ちさせたりビンテージ感を出せるようにはならないと、製品チームは考えていた。それで僕は、そうじゃないことを実証しようと思ったんだ。

レイチェル:冷凍庫で凍らせることもしなかったの?

マーク:うん、吊るして風を通して乾かすだけ。でもいまでもかなりきれいだよ。

レイチェル:本当に?

マーク:うん、だってまだうちの奥さんに家から追い出されてないからね。

マークは微笑んで、個性豊かな濃淡のあるライトブルーの色合いや、酷使されてできたいくつかの穴や、かぎ裂きや染みを見せてくれました。それは16キロメートルの自転車通勤や長時間労働といった日々の使用と、多くの旅で得た勲章でした。ドロミテで日の出を拝み、ロンドンの街を歩き、飛行機でパリへ飛び、ジョン・ミューア・ウィルダネスでハイキングをし、東京と京都でのディナーでも、このジーンズは一緒でした。

1998年にはじめてジーンズの製造を手がけて以来、デニム製品の製造は山あり谷ありの道のりでした。パタゴニアはジーンズにオーガニックコットンを使用した最初のブランドのひとつでしたが、インディゴ染色の過程で発生する廃棄物や、エネルギーを大量消費する仕上げ加工など、デニムの製造における環境的および人的コストについて多くを学びました。たとえ一般的なコットンに代わってオーガニックコットンという責任ある素材を選択しても、デニムが汚いビジネスであることに変わりはないのです。それで私たちは製品ラインからジーンズを外すという決断を下したのち、仕事に戻りました。2015年にようやく自慢できるジーンズが完成し、販売を再開。オーガニックコットンを使用しつつ、フェアトレード・サーティファイドの縫製を採用し、新たに水とエネルギーの使用量を削減する「アドバンスト・デニム」という硫化染料による工程を取り入れたものでした。

従来のデニム製造では、一般的に10~15の槽を並べて染料液に糸をくぐらせます。使用済みの溶液は処理後(または未処理で)水路に流され、そしてまた槽に染料液が入れられます。新しい染色工程では、再利用可能な槽が1つ必要なだけで、従来の染色によるデニムに比べて水の使用量を79%、電力消費量を20%、二酸化炭素排出量を25%削減することができました。ところが、この染色方法には大きな問題が1つありました。それはデニムが紫がかった色合いになり、色落ちしにくいために、従来の方法で染色したジーンズのようにはき込んでなじませるのが難しいかもしれないということでした。

ある過程から有害なものを取り除くと、新たな問題が発生することは多々あります。環境への影響と製品の品質および寿命のバランスをどう取るかは、デザインチームとパタゴニアがつねに直面する最大の課題です。紫色のジーンズを作りつづけても、着用者がジーンズを好みの色合いにしようと、マークのように2年半も毎日熱心にはくとはかぎらないことはわかっていました。つまりジーンズは十分に愛されず、着用されることなく終わるかもしれないということです。また、ジーンズは誰もがクローゼットに入れている定番であり、1本がいかに長持ちするかが真に責任あるジーンズの決め手となり、毎日着用できる見た目の良さと、ずっとはきつづけられる耐久性が欠かせないこともわかっていました。

何年も染色の実験を繰りかえしたのち、私たちはようやく答えを見つけました。それは水を必要としない、泡を使う新たなインディゴ染色溶液でした。これによりエネルギーと水の使用量を抑えながら、従来のブルージーンズに近い色を実現することができました。一連の染料液に糸をくぐらせる代わりに、泡沫染色は素材に直に施すことができるので、液体に浸さなくても色が染み込みます。染め上がりは見事に鮮やかなダークブルーで、着用者は日常的に使用してときどき洗濯すると、自然にはき込んだ風合いになります。ところで不思議に思うかもしれませんが、パタゴニアのジーンズは1色しかありません。それにはまた理由があります。

「少年時代から楽器を弾いていて」と語るのはマーク。「自分はバンドマンになるだろうといつも思っていたけど、結局その道には進まなかった」Photo : Tim Davis
「少年時代から楽器を弾いていて」と語るのはマーク。「自分はバンドマンになるだろうといつも思っていたけど、結局その道には進まなかった」Photo : Tim Davis

「ほとんどのジーンズは(ライトブルーやただのブルーも)最初はダークブルーなのです」と言うのはマーク。「新品でもはき込んだような見た目にするために、大量の化学溶液で洗ったり、ストーンウォッシュしたり、わざと裾を少し破ったりしているんです」このような工程は染色後に行われるため、さらに多くのエネルギーと水が無駄になります。国際固形廃棄物協会が委託した2013年の報告によると、環境コストが高いうえにジーンズの寿命を大幅に縮めるこの工程は、しばしばジーンズの製造において最も有害であることを示しています。「仕上げ加工は生産サイクルのなかで最悪の損害を与える工程で、生地の強度を半分以下に落とし、ジーンズの寿命を縮めます」とマークは付け加えます。

“「そのような仕上げ加工にたずさわるのは、パタゴニアの価値観とそぐわないのです。僕にとってジーンズは歩く日記のようなものです。僕がやったように偽りなくはき込めば、ジーンズは体になじみ、体の一部となります。着る人に自分のジーンズを自身で『仕上げ』てほしいのです」”

マーク・リトル

このダメージ仕上げ加工をしないこと、その作業を着用者にまかせることは、これまでもこれからも、私たちにとって重要です。「そのような仕上げ加工にたずさわるのは、パタゴニアの価値観とそぐわないのです。僕にとってジーンズは歩く日記のようなものです。僕がやったように偽りなくはき込めば、ジーンズは体になじみ、体の一部となります。着る人に自分のジーンズを自身で『仕上げ』てほしいのです」と、マークは語ります。

次の課題は、素材の再考でした。私たちは1998年以来オーガニックコットンを使用していますが、さらに環境への影響が最も少なく、長持ちする丈夫な生地となる繊維の混紡を見極めたいと思いました。

「炭素排出量に関していえば、最も責任ある素材はリサイクル・コットン100%です」と語るのは、パタゴニアの素材開発を率先するサラ・ヘイズ。「でもウェアを長持ちさせ、廃棄物の流れに入れたくないのであれば、リサイクル・コットン100%ではバージン繊維との混紡素材に比べて耐久性に欠けます。それで私たちは、炭素排出量の削減とコットンの端切れの再利用とリジェネラティブ・オーガニック農業の利点を比較検討し、品質を損なうことなく最大限に改善できる混紡素材を選択しました。だから皆さんはこのジーンズをずっとはくことができます」

サラによると、現時点で可能なかぎり最も責任ある素材として最終的に選んだのは、リジェネラティブ・オーガニック・サーティファイド・パイロット・コットン78%、リサイクル・コットン20%、ポリウレタン2%の混紡素材です。

「長年培った独自のデータは、オーガニックコットン、あるいはリジェネラティブ・オーガニック・コットンとリサイクル・コットンの混紡素材は、温室効果ガスの排出量と水の使用量の削減に関して素晴らしい組み合わせであることを示しています」と述べるのは、パタゴニアの環境研究者、ステファニー・カーバ。「エネルギーと水を節約すると同時に農業を営む地域を支援する最善の方法だと考え、その実現を目指しました」

1.「僕には濡れた手をジーンズで拭くという悪い癖がある。だからそのあたりが擦り切れやすいんだ。少なくとも僕が手を洗うってことはわかってもらえると思うけど」


2.「自転車のサドルでかなり破けてきた。それが致命傷だった。そこがほつれだしたとき、このジーンズの寿命は限られていると悟ったよ」

3.「膝の穴は、しょっちゅう職場で床に膝をついて製品をチェックしたり、愛犬たちと遊んだときに開いたものだと思う」

1.「僕には濡れた手をジーンズで拭くという悪い癖がある。だからそのあたりが擦り切れやすいんだ。少なくとも僕が手を洗うってことはわかってもらえると思うけど」

2.「自転車のサドルでかなり破けてきた。それが致命傷だった。そこがほつれだしたとき、このジーンズの寿命は限られていると悟ったよ」

3.「膝の穴は、しょっちゅう職場で床に膝をついて製品をチェックしたり、愛犬たちと遊んだときに開いたものだと思う」

最後の問題は、影響力でした。デニム産業の大手ではない私たちが、デニムの製造方法を世界規模でどう改善できるのかということです。

「とりあえず、実践可能であることを示すしかありません。パタゴニアに送りかえされてくることのないジーンズを作ることが可能だという、最終的な目標をもちながら」と語るのは、パタゴニアの素材開発者、ニコラス・ハートリー。「いまから40年あるいはそれ以上のちに、お尻のポケットに財布の形が残るほどしっかりはき込まれて年季の入ったパタゴニア製ジーンズが、その個性からネットオークションでいまの価値以上で売られるのが私の望みです」

多くのデニムブランドが直面する量産にともなう困難や従来のビジネスモデルの制約を受けない、たしかな興奮と好奇心がパタゴニアのデニム開発チームにはあります。まるで大人がデザインする遊び場のような雰囲気が漂います。染めないデニムも、いつか実現するかもしれません。混作を利用したリジェネラティブ・オーガニック・コットンやインディゴにも、取り組んでいるところです。何かに構うことなく、今後に向けたあらゆる改良ができそうです。

「これは現時点で私たちが知るかぎり最高のデニムです」と、パタゴニアのライフ・アウトドア事業を率いるヘレナ・バーバーは言います。「そして私は楽天的なので、ちょっと先にはさらに良いものがあるだろうと信じています」

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