小さな町の新たなビート

アゴスティーニ・ペトローニ  /  読み終えるまで9分  /  アクティビズム

過疎化の進むイタリアの小さな町を再生するために、住民たちが着目したのは再生可能エネルギーだった。

2080年までに居住者がいなくなる運命にあったイタリアの町ボルッタは、コミュニティが主導する再生可能エネルギープロジェクトに新たな活路を見いだそうとしている。

全ての写真:Richard Felderer

イタリア、サルデーニャ島北部の丘陵地帯にある小さな町ボルッタ。野生のオリーブと地中海性の低木帯が生い茂り、丘に囲まれたその場所に複合学校施設はある。赤いレンガ色の屋根の上には太陽光発電のソーラーパネルが3列に並び、太陽光で輝いている。現在、この建物は全住民のためのソーシャルセンター、図書館、ジム、イベント会場などとして利用され、屋上のパネルが供給する毎時25キロワットの電力は、それら施設の電力需要をまかなうには十分だ。

廃校となった小学校を再利用する取り組みの一環として3年前にパネルが設置された。1993年、この小学校で最後の授業が行われ、それ以降、学校を維持するだけの子どもはいなくなってしまった。100年前には700人を超えていた町の人口は、今ではわずか285人。イタリアでは多くの町が国内移住と高齢化により過疎化が進んでいるが、ボルッタは長期戦略を策定し低迷する地元経済を立て直すことで、町に新たな鼓動を与えようとしている。町の行政は、自分たちで再生可能エネルギーをつくりだし、それを全住民に無料で利用できるように、エネルギーコミュニティ「Comunità Energetica」の設立に乗り出した。学校の屋上に設置されたソーラーパネルは、サルデーニャの小さな町を再生へと導く可能性を秘めたプロジェクトの兆しだ。

ボルッタの町の周囲には、古火山やヌラーゲ遺跡(紀元前1500年頃にヌラーゲ文明によって築かれた円錐型の建造物)、ロマネスク教会などがある。島のビーチから数十キロ離れた家々の地下室は、地元産のペコリーノチーズや保存肉、オーガニック農産物で満たされている。教会、男子修道院(数人のベネディクト会修道士がいて旅行者に空き部屋を貸してくれる)、薬局、カフェ、そして夜にはお年寄りがおしゃべりに集まるソーシャル・クラブがある。ボルッタでの生活は、ゆったりとはしているものの退屈することはない。

20世紀を通じて、イタリアの小規模な農業の町は、人口減少に見舞われていた。多くの人々が、新たな技術産業や自動車産業が繁栄し労働需要が増加して急成長する北イタリアの都市に移住したからだ。この国の「経済ブーム」に乗ろうとする農民たちは、大都市に一筋の希望の光を見いだした。そして残った人々が歳をとり、町はすぐにゴーストタウンと化した。

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静かな暮らし:高齢化する町民が、かつて賑わっていた通りをそぞろ歩き、腰をおろす。ボルッタでの日々はゆっくりと過ぎてゆく。

イタリアには廃墟となった町が6,000以上あり、生き残った町もこの40年間で人口が60%減少している。ボルッタも、サルデーニャの他の30の町と同じく、住民の転出は不可逆的と思われ、2080年までに無人になる運命にあった。

しかし、ボルッタの行政はあきらめることなく、2012年から廃村にならないための挑戦を開始した。ほかの町は空き家を1ドルという象徴的価格で販売することで人々の興味を引こうとしたが、ボルッタは将来に向けて賭けに出たのだ。その賭けとは、町の活性化のために、再生可能エネルギーの発電によるエネルギーの自給自足に着手することだった。

まず町の行政は、再生可能エネルギーによって町に経済的価値をもたらす方法を模索し始めた。彼らが描いた構想は、ソーラーパネルによる再生可能エネルギー発電システムで住民の電力をまかない、さらに余剰電力を国の送電網に供給するというものだ。それは「Piano d’Azione per l’Energia Sostenibile:PAES(持続可能なエネルギー行動計画)」と呼ばれる国家計画に沿っていた。この計画は欧州連合の規制下で、全般的な化石燃料の消費削減を目的に、地域社会のエネルギー自給自足を支援しようというものだ。

シルヴァーノ・キリコ・サルヴァトーレ・アルーは、2011年からボルッタの町長を務めている。人口12万7,000人を超えるこの島で2番目に大きな都市サッサリ生まれだが、20年前にサッサリを離れてボルッタに移住する異例の決心をした。アルーは新たな「ふるさと」にたちまち魅了され、町を蘇らせる手段を考え始めた。

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ボルッタの町長アルーは、都市再生計画の立役者である。エネルギーの自給自足化を目前に控えて、アルーは電力を町内に分配するインフラも買い取りたいと考えている。

「この町には数千年前にさかのぼる歴史がある。もし町が滅んだら、その歴史や文化も失われてしまう」とアルーは言う。

しかし、ボルッタの果敢な構想は官僚主義により停滞した。2020年になってようやく動きはじめ、通称「Milleproroghe(ミレプロロジェ法)」と呼ばれるイタリア政府の政令で、エネルギーコミュニティの法人格が認められ条例が施行された。そして、このプロジェクトに最初の許可が降りたのだ。ボルッタはさっそく、町のすぐそばの2ヘクタールの土地に、1.2メガワットの太陽光発電所を建設し始めた。

「こうしてボルッタの全町民が、エネルギーコミュニティの一員となり、そして発電されるエネルギーを消費することで、大きな経済的利益を得ることになるんだよ」とアルーは言った。

彼によれば、ボルッタの全町民は年間に3,000~4,000ユーロを節約できるようになる。イタリアの年間家計費の平均が18,000ユーロであるから、その金額の影響は大きい。太陽光エネルギーを照明、暖房、調理、給湯をはじめとして、電力を必要とするさまざまな活動に利用すれば、家庭の経済的負担を軽減することができる。

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コミュニティの公共施設にソーラーパネルが誇らしげに並ぶ。

プロジェクトが数年間停滞していた間に、ボルッタの自治体はクリーンエネルギーへの転換を開始し、学校や博物館、図書館、高齢者施設、信号機、公共の電動自転車など、すべての公共施設にソーラーパネルを設置していった。この10年間に行政は毎年積み立てし、太陽光発電所の建設に必要な150万ユーロを蓄えた。アルーによると、太陽光発電所は本来すでに稼働していたはずだが、パンデミックの影響でプロジェクトが停滞し開業日が延期されている。

2年前、44歳のツアーガイド、ジョヴァンナ・デマルティスは、夫と共に母親の家に戻ることを決心した。彼女は沿岸都市のアルゲーロに住み、仕事に就いていたが、ボルッタのより静か環境と生活費を抑える暮らしがとても魅力的に映ったのだった。

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再生可能エネルギーに頼る町の移動手段と言えば、やはりこれだろう。

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静かな田舎暮らしと生活費の安さにひかれて、ジョヴァンナとパートナーは、多くの人々と同様に、かつて親が暮らしていた丘の上の空き家に戻ろうとしている。

「もう電気代を払わなくていいというのは、ボルッタに戻る大きな動機よ」と弾んだ様子で彼女は言った。「空き家になった親の家に帰ろうとしている人たちが、すでにほかにもいるわ」

アルーによれば、今回のパンデミックは、景気低迷期の都市での生活がどれほど厳しいものかを示した。仕事がなく、支払うべき請求書と養うべき家族があるとき、どんな経済支援策も歓迎だ。まして、これから一緒に生活をスタートしようとする若いカップルであればなおさら。

「電気代を節約できれば、住宅ローンを組んで家を購入する気になれる」とアルーは言った。しかもボルッタでは住宅が信じられないほど安く、改装前の物件なら1万ユーロ未満であるとも。さらにエネルギー効率の高い住宅にするためのリフォーム費用が税額控除されるという政府のボーナスもあるらしい。

しかし、この町には現在、いくつかのサービスが欠けている。この数年間に商店が閉業し、ボルッタにはもうスーパーマーケットがない。食料品を買うために最も近いスーパーマーケットまで車を2km走らせなければならない。

「このプロジェクト(エネルギーコミュニティ)は、商業や近隣の町など、地域のほかの部分にも波及効果をもたらすだろう」ボルッタで暮らす45歳の農夫、コスタンゾ・デマルティスは言った。「金があれば、自分のために肉と、それからたぶんワインの1本くらい買うことができるさ」

この農夫はいずれ自身の14ヘクタールの農場にも送電網が届くことを願っている。彼はそこで豚を飼い、ブドウやオリーブを育てている。「エネルギーの自給自足は、農業に従事する者にとって重要なものとなるだろう。灌漑システムは大量の電力を消費するからね」

ボルッタが近々エネルギーの自給自足を実現するというニュースはイタリア全土に広がり、今や町長のもとには、転入に関心のある人々から問い合わせが寄せられている。アルーは、ボルッタが美食の町になり、それが地元の小規模農家の支援につながることを期待している。

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家畜はボルッタ地方が日照に恵まれた土地であることを物語る。農夫のコスタンゾ・デマルティスは、電力をフル活用する彼の農場にも、エネルギーの自給自足が訪れることを願っている。

「この小さな町では、手つかずの自然が残る集落で暮らすことができるから、生活の質はすばらしい」とアルーは言った。太陽光発電が軌道に乗ったあかつきには、町内に電力を送電するインフラを購入することがアルーの目標だ。なぜなら太陽光エネルギーによってまかなえているのは、まだ電気料金の一部である。このエネルギーコミュニティが送電網を購入するには、少なくともあと2年かかるだろうと彼は言った。

「大都市の郊外で名もなき人生を生きるよりも、小さな町の主人公でありたいと私は思うよ」

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