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バハマのボーンフィッシュ保護

ニック・ロバーツ  /  2018年8月3日  /  読み終えるまで11分  /  フライフィッシング

Photo: Justin Lewis

最近私は、世界をリードするボーンフィッシュ(ソトイワシ)の研究者2人に連れられて、グランド・バハマ島にあるイースト・エンド・ロッジ近くの海へ週末の釣りに出かけた。アーロン・アダムズ博士は、Bonefish & Tarpon Trust(BTT)のサイエンス・アンド・コンサベーション・ ディレクターだ。マイアミに拠点を置く非営利団体のBTTは、ボーンフィッシュやターポン、パーミット、およびその生息環境の保護に取り組んでいる。経験豊富な海釣師でもあるアダムズ博士は、それをテーマに3冊の本を著している。

「子どものころから私は、釣りや魚の捕獲に関する謎に興味を持っていた。だから私にとって長い間、科学と釣りは互いに絡まり合ったものだった」とアダムズ博士はティペットを結びながら話した。「サンゴ礁に住む魚の研究をしていた頃、休日は浅瀬で釣りをして過ごしていた。そのうちにサンゴ礁の魚の研究が減って、私は自分の科学的な興味と浅瀬の魚への情熱を組み合わせた」

バハマのナショナルラグビーチームの一員であり、BTTのバハマ・イニシアチブ・マネージャーでもあるジャスティン・ルイスはフリーポート出身だ。バハマの島々を巡り、ボーンフィッシュのタグ付けや産卵場所の特定、さらにはBahamas National Trust(BNT)などの機関と提携した教育支援を含むBTTの保護活動を率いている。

「海の近くで育ったから、フィッシングや海への情熱は幼いころから芽生えていたよ」ルイスは砂が積もる浅瀬で私たちを乗せた舟を操りながら言った。「最初に釣りを始めたのは実家近くの海岸で、泳いでいるものはなんでも釣っていた。そして歳を重ねるにつれて、浅瀬でのフィッシングや保護に対する情熱は高まっていった。ボーンフィッシュには昔から特別な愛着を感じているんだ」

ルイスはバハマを離れてカナダの東海岸にある聖フランシスコ・ザビエル大学に入学し、そこで海洋生物学と公共政策学を学んだ。在学中の研究で、ルイスはカリブ海でのさまざまな保護活動に参加し、BTTによるボーンフィッシュのタグ付けプログラムやその稚魚研究でBTTをサポートした。卒業後もルイスは大西洋の向こう側で学習を続け、ヨーク大学で海洋環境管理の修士号を取得した後、BTTと共にボーンフィッシュ漁業の保護を行うため故郷に戻った。

バハマのボーンフィッシュ保護

浅瀬のグレーゴーストでボーンフィッシュをリリースするアーロン・アダムズ博士。グランド バハマ島。Photo: Justin Lewis

20年前、フロリダキーズで起こっていたボーンフィッシュの急速な減少に対応するためにBTTが設立されたときには、産卵方法やその時期、場所など、ボーンフィッシュの生態に関する公開された情報はほとんど何もなかった。それ以来BTTは、生態学的にも経済的にも重要なこの種について多くを学び、さらなる研究と保護に向けた基礎を築いてきた。その発展の多くは、BTTがバハマでBNTやThe Nature Conservancyなどの組織と関与し、提携してきた結果だ。

「BTTはずっと以前から、魚の豊富な生息数と健全な生息環境を持つバハマでの研究に2つの目的を見出していた」とアダムズ博士は話す。「もちろん、一つはバハマにおける浅瀬の保護活動への貢献。そしてもう一つ、フロリダキーズの釣り人たちにとって最も重要なのは、バハマでの活動によりフロリダキーズだけで活動した場合よりもずっと早く、より詳細にBTTがボーンフィッシュの生態について学ぶことができた、ということだ。今では、バハマで得た知識がフロリダキーズでのボーンフィッシュ保護に役立ち始めている」

BTTは収集した貴重なデータや情報を、提携する組織や政府の資源管理機関に提供している。バハマにおけるBTTの主な目的が、浅瀬の漁場の健全な状態維持を確実にすることだからだ。美しい浅瀬で、尾を揺らすボーンフィッシュをフライで釣るという体験は、毎年何千人もの釣り人を世界中からこの諸島へ引き寄せ、年間で1億4千万ドルを超す経済効果を生み出している。キャッチ&リリースのフィッシングは、釣り小屋やガイドだけではなく、全コミュニティを支え、特にアウト諸島ではそれが顕著だ。例えばアンドロスでは、島の観光経費合計のなんと81%を浅瀬でのフィッシングが占める。バハマで2番目に人口の多いグランド・バハマ島の東端にあるマクリーンズタウンのコミュニティは、釣り小屋に絶え間なく訪れる釣り人たちに支えられている。この国にとってボーンフィッシュがどれだけ重要かを知るには、バハマの10セント硬貨を見るだけで足りる。月桂樹に囲まれた2匹のグレーゴーストが、ひとつひとつの10セント硬貨に刻まれているのだ。

ボーンフィッシュはその文化に欠かせない一部でもある。フィッシングガイドの職は代々家に伝わる場合が多く、同時に生涯をかけて得た貴重な知識も伝えられる。ルイスはバハマ・イニシアチブ・マネージャーとして保護の最前線にいるガイドたちのコミュニティと密接に連携し、危機的なボーンフィッシュの生息地や産卵集団の特定をサポートしてもらっている。

ルイスはこう話す。「ガイドたちはバハマの浅瀬フィッシング産業の礎石だ。彼らは魚やその生息環境について膨大な知識を集めてきた。その知識と科学的な研究の組み合わせが、バハマでのBTTの保護活動の成功を支えている」

何十年にもわたるフィッシングの経験とボーンフィッシュの研究を併せ持つルイスとアダムズ博士は、この浅瀬では危険な2人組だ。彼らは魚の行動、動きのパターン、食性を理解し、加えて釣りのスキルも高い。私のような「素人」の釣り人とはまったく違う。アダムズ博士は、フィッシングに使うフライの形を小エビに似たものにするか、カニに似たものにするかを決めるヒントは砂に開いた穴の形から得られる、と指摘する。どちらもボーンフィッシュの主な餌で、シャコの穴は丸く、ストーンクラブの穴はより楕円形に近い。餌を食べる魚の群れにしのび寄ったときに、ルイスはこんな話をした。ボーンフィッシュをフライで釣るには、魚のボディーランゲージの解読がすべてだ。フライをどのように魚に見せ、どのようにフライを回収するかは、それで決まる。魚が素早く動いていれば、数フィート(1~2メートル)先に入れる。ゆっくりと動き、活発に餌を食べていれば、フライは魚の頭近くに入れる。フライを追っていても食いつかない場合は、少しフライを止め、それからゆっくりと長めに引く。

バハマのボーンフィッシュ保護

わずか数インチ(5~6センチ)の透明な水の中で餌をとるボーンフィッシュと繋がるアーロン・アダムズ博士。グランド バハマ島。Photo: Justin Lewis

「多くの釣り人が知らないことだが」と、小川の河口を横切りながらアダムズ博士は私に言った。「群れの中で最大のボーンフィッシュは潮が引くときに、マングローブを離れる魚たちの最後に出てくるってことがよくある。だから、じっくり待つといい」

確かにその日しばらくたって、ルイスはマングローブが茂る海岸線で身をくねらせながら泳ぐ1匹のボーンフィッシュを巧みに捕まえた。魚を水からあげると、ルイスとアダムズ博士は計測を行った後、固有のID番号がコード化されているプラスチック製の小さなタグを、背びれのそばに挿入した。こうすればその魚がルイスや、趣味として楽しむ他の釣り人に再び捕まえられたときに、魚がタグを挿入された場所からどのくらい移動したか、どのくらい成長したかを知ることができる(釣り人はBTTのウェブサイトから捕獲の情報を報告できる)。2009年にタグ付けと再捕獲のプログラムが開始して以来、BTTとその共同研究者は、アバコ、アンドロス、エリューセラ、エクスマ、グランド バハマやロング・アイランドなどさまざまな場所で、12,590匹を超えるボーンフィッシュへタグ付けを行ってきた。

「私たちが集めたデータは、ボーンフィッシュが行動する生息域、産卵時の移動経路、産卵場所などを特定し、それらの生息域を保護するために不可欠だ」とルイスは説明する。「この貴重な情報はすでに、グランド・バハマとアバコで6つの新しい国立公園創設に貢献し、そこでボーンフィッシュの生息域保護が行われている。さらに多くの国立公園設立計画も進行中だ」

バハマのボーンフィッシュ保護

ボーンフィッシュの背びれの横にタグを付けるジャスティン・ルイスとアーロン・アダムズ博士。グランド バハマ。Photo: Nick Roberts

再捕獲によって得たデータは、ボーンフィッシュの行動圏が小さいことを示した。実際のところ、タグ付けしたボーンフィッシュの70%以上が、タグを付けた場所から1km以内で再捕獲され、地域レベルでの生息域保護の重要性が強調された。しかし、データとガイドからの報告により、ボーンフィッシュは産卵のために浅瀬を離れ、長距離を移動することも分かっている。つまり、浅瀬だけではなく、産卵場所とそこに至る経路の保護も必要なのだ。ボーンフィッシュは10月後半から4月にかけて、新月と満月の周期中に産卵前集団として知られる大きな群れをなし、そして沖の深海で産卵することを私たちは知っている。数千匹の群れで夜、沖を目指して泳ぎ出すと、魚たちは水面で空気を吸い込み浮袋を満たす。そして200フィート(61メートル)以上の深さへと潜っていく。得られる限りの科学的情報から考えられるのは、魚が急速に水面に向かって浮上すると、圧力の変化により浮袋が膨らみ、それが卵や精子の放出を引き起こす、という仕組みだ。受精と孵化は約25時間で起こり、その後レプトセファルスとして知られる非常に珍しい幼生が41日から71日の間、外洋を漂う。砂、あるいは泥が堆積した浅瀬の湾に幼生がたどり着くと、幼生は親魚の小型版のような小さな稚魚へと変態する。

バハマのボーンフィッシュや、その産卵を成功に対する脅威には、産卵移動経路での浚渫、海岸の栄養分、その他の種類の生息環境の劣化などがある。また、ボーンフィッシュの網漁は違法だが、いまだにその群れは狙われているし、商業目的の網漁で混獲されがちだ。重要なボーンフィッシュの生息域や産卵場所保護のための、BNTによるさらなる国立公園設立の支援に加え、BTTも危機的状況にある生息域の回復活動を行っている。BTTは、BNTやバハマ政府と連携して島の東端の古い伐採道路の撤去を行っており、それによって50年以上も断片化されていた本来の水の流れが復元され、魚はマングローブの水路に入れるようになる。

釣り人も自然保護の役割を果たすことができる。適切なキャッチ&リリース方法の実行や、サメが食餌している浅瀬ではボーンフィッシュを釣らないなどの倫理的なフィッシングの実践だ。BTTはバハマ国内の釣り小屋と協働して、釣り人やガイドコミュニティにボーンフィッシュを扱う最善の方法を伝えている。最も重要なことは、魚を水中に保つことだ。ボーンフィッシュを水から15秒以上あげたままにしておくと、リリース後に死ぬ確率が6倍に増加してしまうのだ。

浅瀬は海が陸と出会い、海水と真水が混ざるダイナミックな場所で、その生態系は魅力的であると同時にもろい。そこに住む魚も同じだ。浅瀬で潮の干満に乗り、海草、マングローブ、泥や白砂の中を泳ぎ回る。もし幸運にもグレーゴーストを釣ることができたら、特別な魚を扱っているのだと知って欲しい。その魚が成魚になるまでに乗り越えてきた勝算の低い戦いを考えると、その存在自体が奇跡にも思える。海岸から離れた深海で産卵され、大洋の海流に流されて幼生形のまま1か月以上を漂流する。運よく捕食性の魚や鳥を避け、やがて保護された浅い水域にたどり着くと、数年にわたって成熟に向かう厳しい戦いを続ける。そして世界で7番目に速い魚、糸を引くようなスピードの最高時速40マイル(64キロメートル)を出せる銀の弾丸へと成長するのだ。今、このつかの間の瞬間に、風や太陽の中、マングローブに縁どられた海岸に打ち付ける波の音に囲まれたこの場所で、あなたと交わったのだ。

国全体の象徴でもあるこの魚は、何千人もの人が家族やコミュニティを支えるために依存している水産業の一部であり、あなたもその一端を担っている。注意深く扱ってほしい。なぜなら、この驚くべき種の未来は、釣り人やガイド コミュニティ、BTT、その提携機関であるNGO、そしてバハマ政府にかかっているからだ。その全員がともに働き、私たち自身や次に来る世代のために、ボーンフィッシュやその生態系の保護を行っている。

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