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何者でもない私は気候変動に声を上げる

鈴木 弥也子  /  読み終えるまで9分  /  アクティビズム

2020年9月 横須賀石炭火力発電所の前でプラカードに「Beyond Coal Yokosuka(石炭の先へ 横須賀)」を掲げてフォトアクション。アクションは楽しくなくっちゃ。写真:鈴木 弥也子

パタゴニアの優れた教書『草の根活動家のためのパタゴニアのツール会議』に収められているケーススタディにこんなものがある。

アメリカ合衆国に本部をおく自然保護団体であるシエラクラブは、「Beyond Coal(石炭の先へ)」と呼ばれるキャンペーンにより、アメリカの180を超える石炭火力発電所の建設計画を取り消した。キャンペーン開始から10年以上を経て、50の団体と数千人の協力を得て、市議会はその発電所での石炭使用中止を発表するにいたったのである。

気候変動ムーブメントに関わる私にとって、180を超える石炭火力発電所の建設計画を取り消すこと自体、衝撃ではあったのだが、同時にこのキャンペーンが「NoCoal(石炭反対)」ではなく、「BeyondCoal(石炭の先へ)」である意味を考えるようになった。そしてわかったのは、石炭の先にある未来こそが私が望む未来である、ということだった。

石炭の先の未来とは、どんな未来なのだろう。大量の二酸化炭素を排出し、気候変動を加速させる石炭火力発電所が廃止する未来ということは、たとえば、気候変動を危機だと捉え、再生可能エネルギーと化石燃料について正しい理解をする人が増え、議論がされる未来。たとえば、より透明化された政策決定プロセスのなかで、若い世代の声が政策に反映されている未来。たとえば、気候変動問題が選挙の争点になって、若者の投票率が上がる未来。あるいは、いまより多くの芸能人やアーティストが気候変動や社会問題を発信している未来。そして、Fridays For Futureのムーブメントがいまの10倍以上に広がっている未来。

つまり、石炭の先にあるものは、石炭火力発電の廃止だけではない。その過程で起こる変化も含まれる。私がオーガナイザーとして気候変動に声を上げるのは、「自分ごときが行動しても、変わらない」「デモなんて意味がない」「自分とは関係ない」といった固定観念、閉塞感、無力感を覆したいからだ。それができれば、気候変動に関わらず、私たちが直面している問題に目を向けて声を上げる同世代が増えると思う。

何者でもない私は気候変動に声を上げる

2019年11月世界一斉グローバル気候マーチにて、FFF Tokyoの仲間とコールをあげる。「What do you want?」「Climate justice!」「When do you want it?」「Now!」写真:鈴木 弥也子

気候変動問題のひとつ――石炭火力発電。発電時に大量の二酸化酸素を排出する石炭火力発電は、気候変動を加速させる要因になる。発電コストも、再生可能エネルギーが急速に安価になるなか、石炭火力の新設・維持は投資回収ができず、座礁資産になると指摘されている。世界の気温上昇を1.5度に抑えるために、日本を含むOECD諸国は2030年までに、それ以外の国でも2040年までに、石炭を廃止しなければならないと言われているなかで、神奈川県横須賀市では現在、石炭火力発電所が建設されており、それは2023年から稼働される。完成するとその後30〜40年稼働し続けないと、採算がとれない。つまり、数十年にわたって二酸化炭素を大量に排出してしまう。

その石炭火力発電所は、東京電力と中部電力が共同出資して設立された株式会社JERAが2019年2月に環境への影響を調査する環境アセスメントの手続きを終え、同年8月から建設を進めている。環境アセスメントでは長期計画停止していた既存設備の更新と位置づけられ、通常のプロセスよりも簡易な形で実施された。本来行うべき既存設備の解体工事も環境アセスメントの手続きなしで行われ、住民への説明も不十分なまま解体がはじまっている。石炭火力発電所のなかでは非常に規模の大きな発電所になるため、二酸化炭素排出量も多く、年間726万トンのCO2(2015年における神奈川県のCO2排出量の10%弱)にものぼる。大気汚染の問題もある。横須賀市はもちろん、隣接する横浜市、逗子市、三浦市、三浦郡葉山町だけでなく、東京都や千葉県などをも含めた関東一円にPM2.5、SOx、NOxなどが降り注ぐと予想されている。

それにもかかわらず、2018年に国際環境NGOグリーンピース・ジャパンが、横須賀市周辺の住民1000人を対象に意識調査を行なった結果、75%がこの建設計画を「知らない」と答えていた。さらに45%が、「石炭火力が火力発電のなかでもっとも二酸化炭素を排出(単位あたり)することを知らない」と答えている。多くの住民が、石炭火力発電による大気汚染や気候変動への影響を、あるいは存在すら知らされないまま、それが建設されていく。この問題の深刻性を理解している私たちの世代が、知らないふりをして行動を起こさなければ、そのツケは、大人になった私や、私の子供の世代に、気候変動の被害としてきっと返ってくるだろう。

何者でもない私は気候変動に声を上げる

横須賀市議会前でのスピーチアクションのあと、コロナ禍でも2023年の稼働に向けて着々と建設されている横須賀石炭火力発電所。FFF Yokosukaとアクションに参加してくれた仲間とともに。写真:鈴木 弥也子

そんな危機感から、Fridays For Future Japan(FFFJ)の仲間と石炭火力発電に声を上げはじめたのは2020年2月のことだった。翌3月には、市議会議員の人に私たちの存在を知ってもらうため、横須賀市議会の前でスピーチアクションを行った。そして5月、横須賀を含む全国の石炭火力発電所の廃止を求めて、200通ほどの手紙を横須賀出身の小泉環境大臣(環境省)に送った。後日、大臣は会見でその手紙の束を掲げ、「大変心強い。皆さんの声を受け止める」と言った。彼の地元で建設中の発電所については触れなかったけれど。その翌月には、FFFJのメンバーが小泉環境大臣と対談し、横須賀の石炭火力発電について質問した。さらに10月には、同市の新しい温暖化対策計画に対する意見募集に合わせて、意見メールをオンラインで募集。SNSなどでこの募集を呼び掛けたところ、石炭火力や再生可能エネルギーに関連した約200通のメールが届いた。

気づけば、私がFFFのオーガナイザーになった2019年の10月から、まだわずか1年ちょっとしか経っていない。まさか私が気候変動ムーブメントに関わるなんて、数年前は想像すらしていなかった。環境問題は「理科で習った教科書の話」程度にしか考えていなかった私がこうして変わる分岐点となったのは、3か月間カナダ・バンクーバーの自然のなかで、10か国以上から集まった同世代や子どもたちとキャンプをした経験だった。文化も考え方もまったく違う彼らと過ごした日々は、私の見える世界をぐっと豊かにし、日本や世界が抱えている多くの問題をクリアにしてくれた。帰国してから、停滞しているものが動き出すような感覚に突き動かされて、気になるイベントや講演に片っ端から参加した。そこで同世代で気候変動に声を上げている若者がすでにいることを知り、気がつけば彼らの仲間に加わっていた。

何者でもない私は気候変動に声を上げる

レバノン、コロンビア、チェコ、アルゼンチン、マダガスカルなど10か国から集まった家族のような仲間と濃密で刺激的な3か月を過ごした。写真:鈴木 弥也子

私はとにかく自然が大好きだ。気候変動ムーブメントに関わりつづけているいちばんの理由はそれだと思う。たとえば、海。美しい海に潜ったときに、スーッと溶けていくような、この自然の一部になれるような感覚がたまらなく好きで、それは私に「次の世代もこの景色を見てほしい」「この珊瑚礁や生き物が100年先も元気に生きつづけてほしい」と思わせてくれる。サンゴ礁は世界の平均気温が2度上昇しただけでほぼ死滅してしまう。だがこのままいくと今世紀末には、2度どころか最悪4度、上昇すると言われている。自然のフィールドを守りたい、そこで遊びたい。そんな単純な理由がいつも私の活動の根っこにある。

何者でもない私は気候変動に声を上げる

沖縄県宮古島の海に潜るために1か月ほど滞在。「昔はもっとサンゴが元気で何倍も綺麗だった」とよく聞かされた。写真:鈴木 弥也子

ふたつ目の理由は、どこかの国のどこかの偉い為政者が私たちの未来のために必死になっているから、待っていれば自然と明るい未来が約束されている――なんてことはない、と知ったからだ。たとえば、温室効果ガス削減目標や石炭・再生可能エネルギーなどの電源構成の行方を左右する「エネルギー基本計画」の見直しが2020年10月から本格的にはじまったが、これからの日本の気候変動対策に直結する会議の構成メンバーは、化石燃料を基盤とする産業界や経済界に近しい出席者が多い。どういった基準で出席者を選定しているのかも不透明だ。少なくとも数十年後、より深刻な気候変動の被害を受ける若者世代の意思が反映されにくいプロセスで、今後の日本のエネルギー政策が決められていることに、私たちは声を上げるべきだと思う。

横須賀の石炭火力発電所は、「たかが横須賀だけ」の問題だけではない。日本のエネルギー基本計画に大きく左右されるため、国全体の問題でもある。つまり、横須賀の石炭火力発電所が廃止される時は日本のエネルギー基本計画及び温室効果ガス排出削減目標が大幅に見直された時かもしれない。去年、菅首相が掲げた「2050年カーボンニュートラル宣言」が一人歩きしないように、次の世代の為にも、私たちは意思表示をし続ける責任がある。

私は前に立って声を上げるタイプではない。ましてや環境活動家でもないし、なる必要もないと思っている。何者でもないただの若者として、気候変動に対して行動しているだけだ。なぜなら私たちは気候変動を止められる最後の世代だからだ。何者でもない多くの若者(に限らず、欲を言えば地球に住む人々皆)が考え、行動を起こすことこそが必要なのだ。私たちの未来を気候変動から守るために。

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