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大源太山西面:初滑降

島田 和彦  /  2017年12月28日  /  スノー, スポーツ

大源太山(標高1598m)は木材を指す方言「ゲンタ」から名付けられたとされ、南北方面から見ると鋭い槍のようなそれは「上越のマッターホルン」の異名をもち、谷川連峰のなかでも際立った個性だ。首都圏からのアクセスもいいので、これまで落とされていないのは不思議な話だが、主脈縦走路から離れて標高も低いので、魅力に欠けているのかもしれない。西方の湯沢方面からは甲斐駒ケ岳のようにどっしりとして見え、また違った雰囲気を漂わせている。その大源太山西面の山頂直下から流れ落ちるラインはふたつ。「サギノ首沢からヤスケ沢へとつなぎ大源太キャニオンへ抜けるライン」と「本谷から北沢、夏山登山道へとつなぐライン」。いつか狙おうとリストに入れていたラインだ。

2017年1月22日
メンバー:近藤達也、片桐星彦、島田
午前6時50分スタート。旭原村落から北沢をつめていく夏山登山道上をのんびりと、地形をくまなく偵察しながらシールを滑らせる。ほどなく夏山登山道から左に外れ、ヤスケ尾根に早めに取り付く。今日の気温は低い。しかし前日の降雪量が意外と多かったのか雪が深く、ももまでのラッセルに汗が滴る。ヤスケ尾根に上がり、さっそくヤスケ沢をチェックしようと覗いたが、まったく見えない。北沢方面は滑る価値なしと決めつけ、チェックすらしていない。

6時間40分が経過し、同行者の体力と残り時間を考えて、1240m付近からドロップすることに決めた。幸いにも、ここの涸沢を降りてヤスケ沢に合流する場所がゴルジュ状、L字の屈曲点となっていて、雪付きなどをチェックしたいと考えていた。ライン上で事前に確認したかった重要な場所だ。

滑走の準備を整え、僕が最初に飛び込む。入りの斜度は48度くらいで、予想どおり雪は深い。細いトンネル形状のルンゼ内ではスラフが力強く走る。うまくかわしながら無事ヤスケ沢に降り立つと、そこは絶壁に囲まれた暗い場所だった。だが一筋の白い雪は止まることなく、L字の狭まった屈曲部を走り抜けて下部へとつながっている。ところによって小さく露出していた滝はジャンプで切り抜け、顔を出していた大栗沢との合流部手前の15mの滝は、右岸を高巻いて難なくかわし、安全圏にすり抜けることができた。下部は問題なし。山頂直下のドロップポイントであるサギノ首沢への入り口だけがまだ明確でないが、ワンデイで行けると判断した。(行動9時間20分)

3月1日
偵察日以降は一日も早く大源太山に戻りたいと願ったが、仕事の関係でメンバーとの都合がつかず、あっさりと2月が過ぎ去った。天気予報とにらめっこを続けてきたが、予定していた3月2日は残念ながらよくない。一度は中止とメンバーに連絡したが、それでも諦めきれない。午後の天気予報の結果、最後のトライをすることに決め、メンバーに「今日の夜、仕事が終わったら出発」と告げた。

3月2日
メンバー:近藤達也、松岡祥子、島田
旭原村落を午前2時55分、ヘッドランプスタート。今回は北沢から延びるヤスケ尾根の支尾根であるムラキ尾根から取り付き、コルのアップダウンを最小限にして、最短距離で山頂へつなげるルートを取る。天気予報は午前11時から雨。南風が不気味に弱く吹いている。ドロップを8時前後と決めた。

取り付きからはシールがまったく効かず、すぐにアイゼンに履き替える。前回と違って雪が硬い分、ペースは順調だが、サギノ首沢内に軟らかい雪は期待できないと考えると、少しナーバスになった。ヤスケ尾根に合流し、前回のドロップポイントである涸沢への入り口を通過。まだ南風は弱風。ルートの修正と雪の条件により、いまのところ前回より3時間以上もペースは速い。

6時15分ごろ、朝日が差し、あたりはピンク色に染まった。ここから山頂まではヤセ尾根が続く。山頂付近を滑る僕らをヤスケ尾根上から狙うため、1370m付近に撮影ポイントをセットすることにした。松岡と別れ、近藤と2人で距離を取りながら、さらに傾斜が増し、大きなクラックが不気味に走る雪稜に向かって、慎重にアイゼンを蹴り込んでいく。そして先行する僕が1518m付近の崩れ落ちそうなナイフエッジに乗ると、ようやく眼下にサギノ首沢が見えた。

山頂付近に8時20分到着。周囲は太陽の光を浴び、山々は光り輝く。空は依然青く、雲はほとんどない。サギノ首沢とは、5月ごろに旭原方面から見ると鷺の首のように細い雪渓が沢筋に残るところから名づけられたという。

入り口は問題なく稜線からつながっていた。すぐにバインディングに足を通し、スプリットボードを雪面に押し付けたが、滑走が無理なことを悟った。斜度は50度前後、エッジがかからない。松岡に無線を飛ばし、ドロップの中止を告げる。太陽はさらに高さを増している。気温が高くなると思うと怖い。選択肢は北沢を滑って難なく帰るか、クライムダウンでサギノ首沢に入るかだが、ここまで来て入らずに帰るわけにはいかない。アイゼンで硬い雪面を蹴り続けるうちに両足がつった。睡眠不足の影響か、ずっと体が重い。それでも一刻も早く抜け出すには、休むわけにいかない。

ようやく少し雪の軟らかい場所を見つけ、そこから滑走開始。強いターンを残すため、できるだけ板を縦に落とし、硬い雪面に波状のエッジを立て続けた。リグループポイントで打ち合わせどおりに3人が合流。その後、工事現場のようなすごい大きさのデブリ地帯をどうにかくぐり抜け、今季2度目となる大栗沢との出合付近の安全圏に無事抜けた。時計を見ると10時。気づくと空の光は消え、雲が音もなく押し寄せてきていた。(行動8時間15分)

この記事の初出は『ROCK & SNOW winter issue dec.2017 』 です。

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