ダムネーション:アラスカ、(サステナブルでない)スシトナ川の巨大ダム建設案
スシトナ川は不屈のアラスカ山脈から流れ出る氷河性大河だ。地平線にはデナリがそびえ立つ。アメリカにわずかに残されたダムのない野生の大河のひとつで、キングサーモン、ベニザケ、ピンクサーモン、ギンザケ、シロザケが大量に生息する。これらの魚は激流をさかのぼり、澄んだ支流へと産卵に向かう。スシトナ川、通称「スー川」では、アラスカで4番目の規模のキングサーモンの遡上が見られる。毎年何十万匹もが力強く川を上っていくのだ。
そしてアラスカ州は、このスシトナ川に全米第4の高さとなる224メートルの水力発電ダム建設を企てている。スー川での水力発電案が持ち上がったのは今回がはじめてではなく、1950年代と1980年代にダム建設の可能性が調査された。しかしいずれも経済的意味がないとみなされ、実現には至らなかった。
いまもその状況に変わりはなく、アラスカ州と提携してダム建設に興味を示す民間投資家はいない。この事実はプロジェクトの経済的無意味さを語っている。ダム建設に必要な推定総工費51.9億ドルは、アラスカ州の年度予算を上回り、アラスカ住民ひとり当たりの負担額は7,000ドル以上という計算になる。にもかかわらず、ダムの最大発電量は推測300メガワットに留まる(グランド・クーリー・ダムの電力生産量は7,000メガワット)。
つまりこのダムは、消費者の電気料金を下げることもなければ、アラスカでは重要な暖房に役立つこともない。環境的影響はといえば、現在タービンを稼働させて家庭を温めている豊富な天然ガスよりもはるかに悪い。そして潮力発電、風力発電、地熱発電が将来的な代替エネルギー源の可能性を提供している。
いつの日かダムの貯水池に沈んでしまうかもしれない川の68キロ区間を下るため、僕らはアラスカへ飛び、ダム建設予定地を訪れた。そして氷河の堆積物に埋もれることになるあれこれを記録した。月並みな表現ではあるが、スシトナ川はまさにアラスカ級の大地を流れている。小さなものは一切ない。
川の下流へはジェットボートでアクセスできる。上流ではデナリ・ハイウェイが横断する場所が1か所あるだけだ。ダム建設予定地は上流からも下流からもはなれた遠隔地に位置し、僕らの目的はここを訪れることだった。
マクラレン川の合流点から5日間川を下り、デビルズ・キャニオンの入り口に来た。ここでは岩盤渓谷によって川幅が狭まり、北米最大級かつ最も困難なホワイトウォーターが発生する。ボートで160キロ以上を下りながら、川がカーブする度にいくつものカリブーの群れを見た。群れはときに数百頭を超えた。川べりにはオオカミやクマの痕跡があるだけで、人っ子一人としていない。ただ、ダム建設予定地の調査に雇われたヘリコプターが毎日頭上でうるさく舞うだけ。
僕らはデビルズ・キャニオンとダム建設予定地の上流にある、水晶ほどに澄み切った支流を探検した。世界有数のカワヒメマスの漁場があり、60メートル級の滝が流れ、川岸の崖にはハヤブサがいた。広大な氾濫原と生い茂る森林の川岸地帯でさらに数百頭のカリブーを見た。ダムの貯水予定地内にある広い砂州はカリブーの決闘場であるらしく、6頭の巨大な雄ジカが壮大な枝角をぶつけ合いながら一騎打ちをし、百頭あまりの雌ジカが円を描きながらそれを見ていた。
薄れゆくピンクと紫色の空の下、コシーナ・クリーク河口に近いキャンプ地でウイスキーをすすりながら、次々と対岸に現れるカリブーの群れが幅800メートルの凍てつく川を泳いで渡り、僕らの両側に上陸するのを眺めた。デビルズ・キャニオンを力強くさかのぼり、この美しい支流で産卵する強靭なキングサーモンに関する調査書や報告書を読んだり聞いたりはしていたが、ここがまさに北米最難関のサケの遡上のひとつであることは明らかだった。
強大なスシトナ川を制御しようとするのは愚かであり、とくに1年の大半、氷の下に葬られているこの川ではなおさらだ。ダム建設予定地の調査のためにお金で雇われた「科学者」がこの場所を「生物学的砂漠」と呼ぶのも、「グリーン・エネルギー」の名のもとに川を破壊しようとするいかなる政府機関も、どちらもあまりにも馬鹿げていて理解不可能だ。しかしそれは実際に口にされ、予定されていることなのである。 アラスカ州は連邦エネルギー規制委員会の優先認可手続きを使ってプロジェクトを推し進めるべく、1億6,500万ドルの支出を認可した。まったくでたらめな話だが、このプロジェクトは現実なのだ。
川岸に妻と暮らすマイク・ウッドは「親友が末期がんと診断されたのを知ったようなものだ」と言った。デビルズ・キャニオンの初期のホワイトウォーター・カヤックの映像はこちら:
近年のデビルズ・キャニオンのホワイトウォーター・カヤックはこちら:
行動に参加し、反対を訴えよう
• ダム建設反対運動を率先するアラスカの同盟:stopthedam.org
• アラスカ州エネルギー委員会:susitna-watanahydro.org
マット・シュテッカーは〈Soecker Ecological〉のオーナー、〈Beyond Searsville Dam〉のディレクター、ダムネーションのプロデューサー兼水中写真家
トラビス・ラメルは〈Felt Soul Media〉の共同創始者、ダムネーションのディレクター兼プロデューサー