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Door to Door:遊び場を拡げる冒険

木村 大志  /  読み終えるまで11分  /  トレイルランニング

家を走り出して信越トレイルを巡り、175km走って帰ってくる。それはまるで、知らない道を自転車で走り回っていた子ども時代の冒険そのままだった。

急登が終わると山頂手前には苗場山特有の台地形が広がる。美しい景色や花に心癒される。

すべての写真:武部 努龍

私が住む長野県北部の”北信濃”には、新潟県と長野県の県境を繋ぐ「信越トレイル」というロングトレイルがある。2008年に誕生した信越トレイルは、斑尾山から天水山(雨水山)まで約80kmの距離だったが、2021年秋に天水山から苗場山までが開通し110kmに伸びた。既存の80kmはこれまでに何度も走ったことがあったが、「110kmすべてを踏破してみたい」そう思ったのが今回のチャレンジのきっかけだ。

しかし、信越トレイルではスタート地点とゴール地点が異なるため、スルーランすると前後の移動に時間がかかってしまう。そんなことを思いながら地図を眺めていたとき、弓形に伸びる信越トレイルと、私がいま住んでいる家とを結ぶとラウンドコースがつくれることに気づいた。「これなら家から走って帰ってこられるじゃないか!」。総距離175km累積標高8000m、トレイル率も高く、一気にチャレンジへの気持ちが高まっていった。

トレイルランナーとして山を走ることはもちろん好きなのだが、地図を見ながら思うままにルート取りをし、スケジュールを組み立てていく作業も実はとても好きだ。答えのない答えを探していくようなプロセスにワクワクしてしまう。

子ども時代から自転車で走り回っていた

思い起こせば、自分は子どもの頃から同じような遊びをしていた気がする。秋田県北東部の町に生まれ、5人兄弟の次男として育った私は、子どもの頃いつも自転車で近所を走り回っていた。新しい道を開拓し、自分の遊び場を少しずつ拡げていくことが何より楽しくて仕方なかったのだ。

Door to Door:遊び場を拡げる冒険

あずき坂、つづら折りの急登。ブナの巨木からなる明るい森。

学生時代はコンバインドの選手としてスキー競技に明け暮れ、20代になって、新潟県妙高市にある国際自然環境アウトドア専門学校に入学し、本格的に登山を始めることになる。学校の授業でも、初めて訪れる山の地形を覚えるのが得意だった。今回のように地図を頼りに見知らぬトレイルを走る挑戦は、どこか子ども時代の自転車遊びに似ている。

自分のテリトリーを拡げていくことが楽しかった子ども時代の遊びに、学生時代に体得した地図読み技術や地形をキャッチする感覚がプラスされ、そこにトレイルランニングが加わって、今回の冒険へと繋がっていった。必然といえば必然だったのかもしれない。

家から出発して再び家に戻るこの挑戦を「Door to Door」と名付けることにした。

Door to Door:遊び場を拡げる冒険

千曲川河川敷。電柱の影で休んでいると地元の人が優しく声をかけてくれた。

6月28日火曜日。日本観測史上、もっとも早い梅雨明け日ともいわれたこの日、私は朝4時に家を出発した。専門学校時代にトレイルランレースに目覚めた私にとって、これまでで一番長く走った距離は「上州武尊スカイビュートレイル」での130km。つまり今回は未知の距離に挑むことにもなる。

スタート前は少し緊張していたが、家からの出発ということもあって、どこか散歩に行くような心の軽やかさも感じていた。

Door to Door:遊び場を拡げる冒険

いつものトレーニングと同じように玄関のボックスに座りシューズを履く。

チャレンジ中はパタゴニアの八木康裕さんが補給のサポートしてくれることになった。さらに、私が所属している『ALP SKI TEAM』(長野県木島平のスポーツハイムアルプを拠点に活動するスキーチーム)の3人の仲間がペーサーを務めてくれる。前半80kmは、私が働いているペンションアルプのオーナーであり、トレイルランナーとして先輩でもある山田琢也さんと共に走った。

この区間には個人的に特別な思い入れがある。ひとつめの理由は、新しく信越トレイルに加わった苗場山から森ノ宮原駅までを通るということ。生まれたばかりのトレイルに期待が高まる。

もうひとつの理由は、琢也さんがプロデューサーを務め、私がコースディレクターを担っている100kmのトレイルランレース『奥信濃100』のために整備した本沢川沿いのトレイルが、この区間に含まれていることだ。ここは、昨年立ち上げた『奥信濃100』の中でも、もっともトレイルランナーたちに走ってもらいたい美しい場所。大会を開催するまでは鬱蒼と藪に覆われていて、トレイルを歩くよりも川の中を通った方が早い “忘れられたトレイル” だった。

Door to Door:遊び場を拡げる冒険

本沢川トレイル。初めてここを歩いた時はいまの倍の時間をかけて隣の沢を歩いた。

そんな本沢川トレイルに足繁く通い、私たちはたくさんの方の力を借りて倒木を切り、草を刈り、石をよける作業を重ねた。人が歩かず、整備されなくなったトレイルはすぐ元の姿に戻ろうとする。二度目の開催となる今年の大会で約1000人のランナーが通ってくれたことで、ようやく川の中を歩くよりも早く移動できる、しっかりとしたトレイルが復活し始めた。

「まだまだ整備しなければならない箇所はたくさんあるな〜」などと琢也さんと話しながら走っているうち、あっという間にカヤの平へ到着した。

秘境・秋山郷の集落を抜けて

ここからは日本の原風景が残る秋山郷エリアに向かって、ロードをひた走る。標高2,000m以上の山に挟まれ、中津川が流れる秋山郷は、全国各地の気温が35度を上回る真夏でも涼しかった。そこから、信越トレイルの起点であり、日本百名山のひとつでもある苗場山へと登っていく。

ひたすら続く急登はなかなかしびれたが、山頂付近までくると残雪があり、苗場山特有の冬の名残の風景に一気に気持ちが高まった。苗場山山頂には予定通りの11時に到着した。

Door to Door:遊び場を拡げる冒険

苗場山の残雪。照り返しが眩しく目を細める。初夏の青空と白い雪のコントラストが美しい。

苗場山を下ると茅葺き屋根の家々が現れ、集落と集落をつなぐ古道を進む。山々に囲まれた決して広くはない平地の中に畑や田んぼが効率よくつくられているのを見ながら、豊かな自然とそこで暮らす人々の営みを感じた。

秋山郷の結東集落で補給をした後、あずき坂とよばれる美しいブナの森を登っていく。登りながら、「ここは冬に来たら気持ち良く滑れるだろうな〜」などと琢也さんと話す。木島平出身の琢也さんも子どもの頃からクロスカントリースキーヤーだから、いい地形を見ると、ついついスキーの話になってしまう。

いま私が拠点にしている北信濃は日本有数の豪雪地帯で、春から秋まではトレイルランニング、冬はバックカントリースキーやクロスカントリースキーが楽しめる。私にとっては夢のような環境なのだ。

Door to Door:遊び場を拡げる冒険

森の中にひっそりと架かる見倉橋。

あずき坂を登り切った先には台地があり、広大な牧場ときっちり区画された大きな田んぼや畑が広がっていた。狭い盆地に工夫しながら田畑をつくっている秋山郷との違いに驚く。

その後、森宮ノ原のサポートポイントに18時30分に到着。ここからは夜間走行になるため、補給と着替えを行い、しっかりと休憩をとった。琢也さんとはここでお別れだ。

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睡魔でブナの木々に足をとられる

森宮ノ原からは、同世代のトレイルランナー長野安那さんがペーサーを務めてくれたのだが、ここからが本当にきつかった……。豪雪地帯の木々は半年もの間、雪の重みに耐えながら雪解けを待ち、根曲がっていく。そんな根曲がったブナの木が所々でトレイルを塞いでいるのだ。

Door to Door:遊び場を拡げる冒険

80km地点の道の駅信越さかえ。完璧なサポートと仲間との楽しい会話でついつい休み過ぎてしまう。

またげる木はまたぎ、くぐれる木はくぐって進んでいく。自然の姿をできるだけ残しながら整備しているのが信越トレイルの魅力のひとつなのだが、100km走って睡魔にも襲われている状態では、残念ながらそんな自然が生み出す造形を楽しむ余裕はなかった。

暗闇からいきなり現れるブナの木々に足を止められ、なかなか走るリズムが掴めない。前を歩く長野さんのヘッドライトの光にただついていくだけで、思ったように進めない辛い時間帯が続いた。途中からは、あまりの眠気に30分毎にトレイル上に横たわり、5分間だけ目を瞑った。

結局、深夜の補給ポイントに到着したのは、予定時刻を3時間もオーバーした頃だった。

Door to Door:遊び場を拡げる冒険

関田峠。長い長い夜間パート、エイドでみんなの顔を見てほっとする。

「帰ってきた」と安堵に包まれた斑尾の森

午前3時。3人目のパートナー、トレイルランナーの小林海仁君と合流する。

「流れ星が見えますよ!」なんて言葉をもらい、知らぬ間に肩に入っていた力が抜ける。こんな時間から一緒に走ってくれる仲間に感謝だ。次第に空が明るくなり、元気も出てきた。

Door to Door:遊び場を拡げる冒険

涌井峠。ここまで何キロ走ってきたかとか睡魔とかは小林君にはまったく関係ないようだ。あまりに楽しそうに前を走るので、自分もつられてスピードに乗った。

小林君とは何を話したか忘れてしまったが、元気になりすぎたのか、補給ポイントに到着すると鼻血が出ていた。ここから先は、北信濃の中でもとくに好きな斑尾エリアへと入っていく。

残り40km、斑尾から家までは一人旅だ。

斑尾を初めて走ったのは7年前、専門学校に入った年だった。ブナが立ち並ぶ斑尾の森はどこか明るい印象で、軽めの1時間のジョギングから50kmのロングトレーニングまで、とにかくたくさん走ってきた。いくつものトレイルがあり、何度走っても飽きることがない。そんな大好きな斑尾だったが、130km走ってきた身体にはさすがにきつい。いつもなら軽く走れる登りも、テクニカルで楽しい下りも思うように身体が動かない。それでも「帰ってきた!」という安堵感が満ちてきた。

Door to Door:遊び場を拡げる冒険

斑尾山頂手前。ぐんぐん気温も上がる。

斑尾山から下りてくると、飯山市内は灼熱地獄。道路の温度計は35度を示している。途中の水浴びや汗によってふやけた足裏が敏感になっていて、焼けるように熱く痛い。昨日から走ってきた山々を見ながら気を紛らわせ、足を進めた。

スタートから35時間37分、フィニッシュ地点の自宅玄関に辿り着く。「Door to Door」の旅が終わった。

Door to Door:遊び場を拡げる冒険

希望湖と斑尾山。

暮らしに溶け込んだトレイルは森にも馴染んでいる

初めて通ったトレイルが多かった今回の旅で、とくに印象深かったのは、苗場山とそこからの下りだ。初夏にも関わらず、山頂には豪雪地帯らしい残雪の風景が広がっていた。そして山頂からの下りには、なんともいえない森に馴染んだ走りやすいトレイルが続いていた。

自分がこの地に暮らし、大会準備のためにトレイル整備をするようになって気づいたのは、もともと生活のためにつくられた古道は無駄のないルート取りをしているということ。さらに人々の暮らしの中で使われ続けてきたトレイルは、切り拓いたばかりのトレイルと違って、山や森にしっくり馴染んでいるということだ。

こうしたことは、地図を見ただけは感じることができない。自分の足で走ったからこそ発見できる喜びだと思う。

Door to Door:遊び場を拡げる冒険

自宅に戻り、安心感でいっぱいに。この旅でまたこの地域が好きになった。

もう一つ印象的だったのは日の出。150km走ってきてからの家までのラスト20km、疲れ切った身体で大好きな斑尾エリアを走りながら、前日に登った苗場山の方向から登る太陽を見て、なんとも幸せな気持ちに包まれた。「ここで暮らすようになって本当によかった!」と心から思った。

地図と想像力を頼りに、日常の遊び場を拡げていく「Door to Door」という冒険が自分にもたらしてくれたものは何だろう。また時間を見つけて、思いつくままに地図に線を引き、見たことのない景色と出合うトレイルランニングの旅を楽しみたい。

Door to Door:遊び場を拡げる冒険

ブナの原生林が広がるカヤの平にて。

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