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ハッチはどこへ行った?

スティーブン・ソートナー  /  2023年5月25日  /  読み終えるまで14分  /  フライフィッシング

気になる水生昆虫の減少。

映画のような晩夏の夕暮れの光が、ミズーリ・リバーの早瀬の上を飛ぶトビケラの群れを照らす。この川は吹雪のようなハッチと、それを狙う大型のトラウトで知られている。写真 : Jessica McGlothlin

トラウト・フライフィッシャーは、「イブニングライズ」についてうやうやしく語る。それは水の冷たい川が豊富な水生昆虫を自然界と分かち合う、神秘現象だといっても過言ではない。あたかもドラマと美と性と死を盛り込んだ劇舞台のようなその様子を目の当たりにするのは、フライフィッシングにおける最高の壮観のひとつだ。

それは太陽が沈みかけ、空が黄金に変わるときにはじまる。薄明光線が空中で求愛のダンスをするカゲロウの成虫たち――サルファー、ドレイク、マーチブラウンなど――の透き通った羽を照らす。ゴールデンストーンフライは羽を広げて重たそうに動きまわると、川面に腹打ちして卵塊を落とす。水面のすぐ上では、トビケラが竜巻のごとく旋回する。

ツバメはまるでオキアミを食べるザトウクジラのように大きく口を開けたまま、ジグザグやバレルロール飛行を展開する。ムシクイ、レンジャク、ネコマネドリは、それぞれの獲物に目をつける。鳥たちは、止まり木から飛び立っては動きの鈍い不運な虫を捕まえる。トンボも巡回している。カゲロウの群れに横から飛び込んだトンボがその1匹をかっさらうと、体を食べられてしまったカゲロウの一対の羽だけがヘリコプターのように下降する。

ハッチはどこへ行った?

アイダホ州ヘンリーズ・フォークでの1日の終わりに、さらにねばってキャスティングを数回繰りかえすミリー・パイニ。ほとんどのアングラーが去ってからしばらく経った川では、しばしば活発に羽化する水生昆虫とそれに貪りつくトラウトを見ることができる。写真:Bryan Gregson

昨年6月、私は地元のデラウェア・リバーのイースト・ブランチでお決まりの岩に座り、このパフォーマンスを待っていた。日差しは和らぎ、川の水は涼しく流れ、舞台準備は完璧だった。私の背後ではムシクイとツグミが期待満々にさえずっていた。だが、何かが欠けていた。虫だ。もちろん、何匹かのカゲロウや黒いトビケラが水面のすぐ上を幽霊のように漂っているのは見かけたが、積乱雲級であるはずの虫の行動は霞にも満たなかった。たしかにトラウトは水面のそこかしこに姿を現し、私はスパークル・ダンを使って、イースト・ブランチの規制内である16インチ(約40センチ)の野生のブラウントラウトをなんとか釣り上げもした。それでも間違いなく、何かがおかしかった。

そしてそれは、はじめてのことではなかった。むしろ、しばらくつづいていたことだ。ここ数シーズンのあいだ、私が20年近く釣りをしてきた川のこの辺りで、水生昆虫の羽化が減少しているのには気づいていた。ハッチが起きてトラウトが水面から姿を現す日もないわけではない。そんな日は、この世はすべて正常だという気分になる。しかしたいていの場合は、ハッチの一貫性と継続時間は大幅に落ちている。3週間にわたるヘンドリクソンの羽化は不規則な1週間半に減り、並外れて豊富ではないがいつも予測可能で安定していたマーチブラウンは、いまでは所々にちらほら現れるだけ。吹雪のようだったトビケラのハッチもほんの粉雪程度に降格した。最近では、岩に座った私は肩をすぼめてひたすら待ってはみるが、結局ふてくされて暗闇のなかを車へと戻るだけ。まるで恋人に振られたかのように。

こうした現象には別の川でも気づいていた。ペンシルベニアのブロッドヘッド・クリークでのサルファーのハッチは以前はあまりにも密集していて、まるでマットのように川面を覆って流れる本物の虫たちに、フライで張り合うのは到底不可能というほどだった。

しかしいまやそれも散発的に起きるのがせいぜいで、かつて流域全体のどこにでもいたカゲロウの姿は乏しくなっていた。だがもしかすると、問題は虫ではなく私自身なのかもしれない。ここ数年間、地元の川でたまたま運とタイミングが悪かったんじゃないか。釣りの常套句のように、「昨日ここに来れば釣れたのに」ってことだ。たぶん私も、昨日ここに来ればよかったんだ……2015年からずっと。そこで私はソーシャルメディアに投稿し、他のアングラーたちも虫の活動不足に気づいているかどうかを聞いてみた。それに対する返信は、手応えのあるものだった。

「カゲロウのハッチははるかに減ってる気がする。アッパー・デラウェア流域で親父と一緒に釣ってた1980年代には、ハッチは雪が降ってるみたいだった……でもそんな現象はもう見ない」

「フーサトニックでの待望のヘンドリクソンのハッチは、ほぼ皆無となってしまったようだ」

一方で、私が目にするのとは相反する回答もあったが、それにも注意書がついている。「ペンズ・クリークじゃシーズン中ずっとしっかりハッチがあるよ。古株たちに言わせると昔ほどじゃないらしいけど……」

やがて、米国環境保護庁に勤務するという科学者の個人アカウントから、いちばんよくまとめられた回答が届いた。「全米の多数の流域で見られる現象ですが、それが不鮮明な流域もあります。残念ながら、生態学的および文化的に重要なこれらの水生昆虫に関して、基本的な質問に答えるための精密な観察は実施されていません」。

昆虫の世界的減少に関する科学情報は、この不鮮明さを裏づけている。2017年にドイツの科学者チームは、現地の自然保護区における昆虫の75パーセントの大規模消滅を記録した驚くべき調査結果を公表した。これをもとに『ニューヨーク・タイムズ』は、「虫の黙示録到来」という記事を掲載した。この記事は、ドイツでの27年来の昆虫の減少と比較する基準値となるべき過去の証拠の欠落に留意しながらも、手がかりとなり得る長期間忘れられていたデータを寄せ集める取り組みがなされたことを説明し、その他の地域でも科学者は昆虫の減少に気づいていると指摘した。その約3年後『サイエンス』に掲載された調査では、10年ごとに陸生昆虫が9パーセント減少した一方、水生昆虫が11パーセント増加していることを明らかにした。しかし、これは世界各地の既存の調査を再調査した「メタ分析」であり、独自のフィールド調査を新たに実施したものではない。執筆者たちは、水生昆虫の増加は湖や川がきれいになっている一般的な傾向、または気候変動に関連する栄養素の増加によるかもしれないと言っている。対象範囲は同様に広いものの、より限定的な調査もあった。2019年のある報告書は、世界の昆虫の40パーセントが今後20〜30年で消滅し得ると述べた。しかしこの調査はおもに蝶、蛾、蜂、トンボ、甲虫を考察して達した悲惨な結論だった。科学者のなかには全体的な証拠に欠けるとして、この結論に異議を唱える者もいた。そして2年前『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載された、レーダー観測を使ったより詳細な調査では、ミシシッピ・リバー上流とレイク・エリー西部盆地のヘキサジェニア属のカゲロウの年次羽化が半減していたことが究明された。

自分が育った地元や、毎夏キャンプに行った場所を思い浮かべてほしい。あるいは、祖母の家の玄関灯はどうだろう。そこにたかっていた蛾、ホタルやキリギリスなどを覚えているだろうか。それらは昔に比べて少なくなっているだろうか。『ニューヨーク・タイムズ』の記事に引用されたひとつの基準は、車のフロントガラスに虫が衝突する「スプラッター効果」で、それが減少傾向にあるというものだ。玄関灯の基準を使った個人的な見解では、ニューヨーク州北部の森にある私の山小屋の電灯のまわりを渦巻いていた虫の大群は、近年では弱々しい少数に減ってしまった。かつてオオミズアオ、セクロピアサン、ポリフェムスなどの大型の蛾は夏に数回現れる素晴らしい光景だったが、いまでは1年おきに1回現れるかどうかだ。これはプロの評論の対象となる科学か、と言えばそうではない。しかし、昆虫学者が観察している現状には間違いなく合致している。

アマチュア養蜂や蝶の収集を除けば、フライフィッシングほど直接虫に頼り、虫を崇め、虫を称えるアウトドア活動はない。アングラーはうきうきしながらマニアックに虫の学名を覚え、独自のスラングさえ作る。イソニキアバイカラー(別名スレート・ドレイク)は「アイソス」、トリコリトデス属は「トライコス」、さらにクールに呼びたかったら「トライクス」、前述のヘキサジェニアは短縮して超カッコいい「ヘックス」という具合に。以前には「BAETIS」というバニティ・プレートを掲げた車を見たことがある。これはブルーウイングド・オリーブが属するコカゲロウの学名だ。私たちはさまざまな水生昆虫ごとに、それぞれの羽化ステージにマッチしたフライを苦心して巻く。たとえばエッグ・レイイング・カディス、マーチブラウン、サルファ―・ダン・イマージャーといったフライだ。そして目当ての川の目当てのハッチに合わせて休暇を取る。グリーン・ドレイクが現れる5月末の「バグ・ウィーク(昆虫週間)」にキャッツキルで宿を予約したり、サーモンフライのハッチの時期にマディソン・リバーのプールを独占しようと考えたりしているなら、せいぜい頑張ってくれ。もしもまとまった数のハッチがなかったら、フライフィッシャー、とくにトラウト・フライフィッシャーはゴルフでもはじめた方がいい。

ハッチはどこへ行った?

カゲロウとのご対面。カゲロウの成虫は大きな複眼と短い触角をもつ。幼虫から羽化するとカゲロウの口は退化して餌を食べることができない。その代わりに、トラウトの空腹を満たす好物となる。写真:Trey Wardlaw

ここで一旦フライフィッシングは脇に置こう。水生昆虫に依存するその他の糸を手繰り寄せはじめると、事態はかなりゾッとするものとなる。北米のトラウトフィッシングに適したほとんどの川では、春や秋に渡り鳥が脱皮中のカゲロウ、休息中のトビケラやカワゲラを捕らえたり、そして言うまでもなく毛虫や尺取り虫や油虫をついばむ姿が見られる。渡り鳥のなかにはこの季節の恵みを大いに利用するため、アンデス山脈という遥か彼方からやってくるものもある。もしも鳥がいなくなれば、自然の害虫管理者であり種子散布者である重要な存在を失うことになる。そうなれば、森が病気や侵入生物種の影響を受け、炭素隔離は低下し、水域を守れなくなることを予期しなければならない。この減少に蜂が加われば授粉など、生態系に貢献するその他の機能も失われる。言い方を変えるなら、パッとしないヘンドリクソンのハッチはもっと恐ろしい何かの予言かもしれないのだ。

では、私たちにはいったい何ができるのだろうか。じつのところ、虫の減少のたしかな原因はわかっていない。それでも、殺虫剤の広範な使用は他の要因と相まって減少に関与することが知られている。PNASの調査の執筆者たちは、ヘキサジェニア属のカゲロウの消失を、気候変動による水温の上昇にともなう溶存酸素の低下と、農場からの肥料の流出が発生させる有毒藻の発生に関連づけている。

殺虫剤と肥料に関しては大規模農業を非難でき、また非難すべきである。しかし、自分の家の庭についても考えてほしい。私が住むニュージャージーの郊外では芝生管理業者が幅をきかせ、毎年春になると肥料をどっさり落とし、雑草であろうと昆虫であろうと(その多くは有益であるにもかかわらず)「有害生物」駆除として除草剤や殺虫剤を撒き散らす。これに炭素を噴き出す強力なリーフブロワーと軍用級の芝刈り機を加えれば、生息環境への徹底攻撃だ。皮肉にも芝生管理業者を雇う家庭の多くは電気自動車を運転し、ソーラーパネルを設置しているのだから、ここには明らかにズレがある。ところで、私の郊外の家の玄関灯はまったく惨めなもので、最も蒸し暑く、最も虫が多いはずの夜でさえ、ほんの1〜2匹の蛾と、道に迷った数匹の羽虫が飛びまわっているだけだ。すべての家庭に芝生があるわけではないが、ある場合は芝生管理業者を見限って、熊手やバッテリー駆動の手押し芝刈り機を使うべきだ。それか、芝生の代わりに自生植物の種を撒けば、自然と雑草に負けない庭になる。そしてタンポポの花は、蜂や蝶にとっては季節初めの食べ物であり花粉源でもある。

都会に住んでいるのなら、オーガニック食品や無農薬野菜を購入することも昆虫支持を示すひとつの方法だ。そしてもちろん、自然保護に賛成票を投じるなど、個人のカーボンフットプリントを削減できるあらゆる機会は、もしカゲロウに口があったなら笑顔をもたらすことだろう(ちなみにカゲロウの成虫には口がない)。

ハッチはどこへ行った?

ディナーの時間。アイダホ州シルバー・クリークで、食欲旺盛なレインボートラウトから逃れ損ねた不運なイトトンボ。写真:Nick Price

光について言えば、『バイオロジカル・コンサベーション』という学術雑誌に掲載された2020年の調査で、街灯からガス井の炎まで夜間の人工光が無数の昆虫を破滅している可能性が指摘されている。ガソリンスタンドやショッピングセンターにずらりと並ぶ高出力の蛍光灯や、郊外の住宅の屋外照明の増加が、虫たちに打撃を与えているかもしれないのだ。トラウトが生息する川の近くの人工光は、昆虫を交配と産卵という重要な職務から引き離している(生物学的保存の研究に関する『スミソニアン』の記事は、路上の反射光によりカゲロウは水上ではなくアスファルト上で産卵していることに言及していた)。翌朝、電灯のまわりには死んだ虫が積み重なっている。コンビニエンスストアの看板を延々と周回してエネルギーを使い果たした結果だ。たとえコンビニのオーナーではないとしても、私たちは就寝前に家の玄関灯を消し忘れていないだろうか。

このすべては、古き良き時代を懐古しながら涙をフロータントで乾かそうとしている、ほんの数人のフライフィッシャーの悲観論でしかないのだろうか。ではネバーシンクに目を向けてみよう。それはキャッツキル山地の最高峰であるスライド・マウンテンを水源地とし、デラウェアまで100キロメートルあまりを流れる名高いトラウトフィッシングの川だ。ドライフライの先駆者だったセオドア・ゴードンとエドワード・ヒューイットは、1世紀以上前にここではじめてキャストしたという。噂によればかつてはグリーン・ドレイクのハッチが見られ、その動きの鈍い大型のカゲロウを狙って、川中のありとあらゆるトラウトがライズすることで有名だった。しかしこの川も明らかにダム建設や森林破壊、土地開発の犠牲となったようだ。5月下旬から6月上旬にかけてネバーシンクで釣りをしていると、「コフィンフライ」と呼ばれることもあるグリーン・ドレイクの成虫(スピナー)を数匹見かけるかもしれない。夕暮れどきに上流へと飛んでいくグリーン・ドレイクの長く白い腹部が、黄昏の薄明かりに輝いて見える。だがそれももはや、鳥やコウモリ、トラウトやフォールフィッシュ、クモやトンボが健康な川のご馳走にありつく本来の「ハッチ」には見えない。残存のドレイクは過去からの幻影に過ぎない。死んだ虫が飛んでいるようなものだ。

ハッチはどこへ行った?

ディナーはまだ。アイダホ州スネーク・リバーのヘンリーズ・フォークで、脱出速度に達した幸運なブラウン・ドレイク。写真:Jeremiah Watt

保全生物学者は個体の健康が個体群密度に直接左右されるという「アリー効果」に注目する。リョコウバトは種として存続するために、数十億という文字どおり莫大な個体数を必要とした。乱獲と原生林の皆伐で個体数が一定値を下まわると、リョコウバトは数十年におよぶ死のスパイラルに陥った。やがて最後のリョコウバト――かつて北米そしておそらく地球上に最も多く存在した鳥――は、1914年に動物園で死んだ。圧倒的な個体数という強みが存続の戦略だと思われる数々の昆虫のハッチが、すでにその臨界点に到達しているかどうかはまだわからない。

人類には昆虫の減少を覆すことができるだろうか。フライフィッシャーは生来楽天的だ。キャスティングは1回ごとに希望の物理的発現であり、自分が結ぶ新たなフライのどれもが確実に暗号を解く「選ばれしもの」だと信じる。私たちはこの楽観主義を擁護活動、少なくとも個人の行動に転換し、各自の虫殺しのフットプリントを削減しなければならない。スティールヘッドフィッシャーがダム反対派でなければならないのと同じように、トラウト・フライフィッシャーは昆虫賛成派でなければならない。「トライコスを救え」をトレンドにしよう。春が来たら、私はまたイースト・ブランチの例の岩に向かう予定だ。虫たちが戻ってくることをこれまでどおりに期待して。もう言ったとは思うが、ハッチがはじまり、ムシクイがさえずり、トンボがブンブン飛び交い、トラウトがライズする世界は美しい――それは、闘って守る価値のある場所だ。

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