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水田のリジェネラティブ・オーガニックを探究する

パタゴニア  /  2022年9月9日  /  読み終えるまで13分  /  食品, フットプリント

日本の多機能な生産基盤である水田の営みを全体論で捉えなおす。

水田は日本の気候風土に適し、風土をつちかってきた。しかし、気候が変わり、社会情勢や人口分布、農業に関わる人々も変化を続けている。コウノトリ育む農法の水田で外来雑草の草取り。坪口農事未来研究所。写真:新井 ‘Lai' 政廣

世界の作物生産農地の約9割は畑(草地を含む)で占められ、近年、畑におけるリジェネラティブな取り組みが世界的に広がりつつあります。パタゴニアが取り組むリジェネラティブ・オーガニック(RO)による農業の転換もその大きな潮流の中の一つと言えるでしょう。しかし、私たちが暮らすアジアモンスーン地域に目を向けてみると、農地の捉え方は大きく異なります。それはアジアモンスーン地域には世界の水田面積の87%、世界のコメ生産量の90%が集中しており(FAOSTAT 2017)、日本においても農地面積の半分以上を水田が占めているためです。日本の農業の原風景を思い浮かべてみてください。あなたの心像にある風景に「水田」にまつわる情景が描かれているのではないでしょうか。

パタゴニア日本支社は、日本の農業や社会において無視することのできない「水田」のROにも着目し、日本の食と農業の転換を推進しています。現在、RO認証(Regenerative Organic Certified™:ROC™)取得に向けて4件の生産者と協同し、有機水田稲作の側面で仁井田本家坪口農事未来研究所と取り組みを進めています。世界の作物生産農地に対する水田の割合が表しているように、水田におけるRO農法の実証例は少なく、その方法論は確立されていません。そこで、私たちはROアライアンスと協議を進めながら、日本の気候風土に適したRO水田管理のあり方を探求しています。そして、協同生産者をはじめ、国内の研究者、有機稲作や水田の生物多様性を育む活動を推進している方々らと共に歩みを進めています。

水田のリジェネラティブ・オーガニックを探究する

「日本の田んぼを守る酒蔵」を目指す仁井田本家。田んぼは、稲だけでなく土や水、森林やそこに棲まう生き物たち、さらに景観やコミュニティを育む場でもある。

水田の特長と特性

農用地は土地の特性上、「畑」と「水田」の2つに分類され、その大きく異なる点として水資源の利用が挙げられます。それにより農地管理のあり方が根源的に異なります。
「水田」をより理解するために、まずは「畑」について考えてみましょう。

畑は、天水や灌漑などの限られた量の水資源で管理を行なうため、土壌中になるべく多く水分を蓄えることが大切となります。そのため、健全に土壌機能(保水性など)を向上させることが重要となり、土壌侵食の抑制や土壌有機物を増やす管理を行うことが推奨されます。また、1枚の区画の大きさに制限はなく、数㎡の家庭菜園から数十ヘクタールの広大な畑まで作ることができます。そのため、集約的で効率的な管理を行うことが可能となり、ゾーニングや農地拡大が容易です。このように、畑は周辺の外部環境に強く依存することなく、自立的に管理できることが特長と言えます。それにより、農地の敷地内に意識を向けて、畑の時空間デザインや動植物管理の工夫を行うことができるのです。

水田のリジェネラティブ・オーガニックを探究する

国土に占める農地の割合が小さい日本は、繁栄するために狭い農用適地(利用可能な傾斜地)を再生産性の高い水田にして生産性を向上させた。広大な森林などの恵みを活用し、自然の多面的な機能を損なわない範囲で「自然に根ざした農業」を営もうとしてきた。

一方で水田は、水を湛えるために土地をならして造成されるため、土壌の侵食が起こりにくいのが特長です。地形を読み解きながら整備を行なう水田は、急傾斜地では棚田のような小さな区画、平地では大きな区画となります。また、水田の水資源は上流から流れる水を河川や水路で導水し利用するため、小高い丘にポツンと水田がつくられることはなく、上流から下流(森林から海)に流れる水のネットワークの中でのみ水田が形成されるなど、その土地の地形条件や水利条件によって区画の形や大きさが異なります。したがって、水田は農地の外部環境とも密接に連帯しながら存在しているのです。

このような違いも含め、畑作文化の国々が多い国際社会においては、水田に対する理解が十分であるとは言えません。例えば、アジアモンスーン地域を中心に30億人の主食を支えることのできる生産性の高さ、土壌劣化の起きにくい農地利用の持続性、さまざまな水辺を提供する生物多様性への寄与、連作可能なイネの特性などは、水田農業に馴染みがなければ理解しにくいことです。

自然に根ざしていた水田とその乖離

日本の水田は、自然の働きを活かしながら地形や自然環境を巧みに利用し整備されました。そのため、農地としての生産機能だけでなく、自然災害に対してもレジリエントな機能を発揮し、国土保全の基盤としての役割を果たしてきました。そして、人工的に造成された環境でありながらも、水田や周辺の水域環境と、畦畔や民家、森林などの陸域環境とが複雑に入り組むことで、自然や生きものたちと調和した豊かな生態系を育んできました。そのようにして水田で育まれる生態系は、生きものたちの賑わう空間を提供してきました。この共栄関係は、数百年、数千年という長い年月をかけて、人間の営みと共に歩んできたのです。

水田のリジェネラティブ・オーガニックを探究する

仁井田本家では、蔵人が夏場の稲作作業を行なう。自社の水田は手押しの除草機を用いて蔵人たちが同じリズムで、共同して作業にあたる。生き物の声や水の音のなかに身を置いての作業だ。

しかし、この共栄関係も近代化の流れとともに崩れはじめました。近代の圃場整備事業による乾田化や用排水路の分離、コンクリート化などの水路構造の変化、ため池などの水域環境の消失、農薬や化学肥料の利用、田植え機やコンバインの普及などの機械化に合わせた水田管理の変更など、このような急激かつ広大な変化は、水田という基盤そのものに対して大きな打撃を与えています。

これらの農業の近代化や水域環境の変化は、作業の省力化と生産性の向上をもたらしました。しかしながら、水田生態系を取り巻く環境は劣化の道を転がり始め、賑わいを見せていた水田に静けさが広がりつつあります。

水田のリジェネラティブ・オーガニックを探究する

水路が整備されたことで、水は必要な時期に利用することができるようになった。しかし、湿地に広がっていた水田地帯でさえ、近年では生き物が利用可能な通年的かつ連続的な水域環境が稀少になりつつある。

それまでの水田農業は「イネを育てること」と「生態系を豊かにすること」がおのずと両立される関係にあり、水田の豊かな生態系を維持してきましたが、その関係が崩れた現在、両者の関係は乖離が進んでいます。この現在の関係に対して歯止めをかけるとともに、現状に適したリジェネラティブな取り組みを積極的に水田でも進めていく局面を私たちは迎えています。

RO水田管理の探究から、気候変動への対策と生物多様性の促進を目指す
~水田と自然環境の新たな共栄関係~

私たちは有機農業の推進を基本としながら、気候変動対策や生物多様性の促進を進めると同時に、水田においては連帯する健全な生態系ネットワークを修復し再生していきたいと考えています。

気候変動対策の取り組みは、1枚1枚の水田の中で行うことができる
気候変動が解決すべき最重要課題の1つとされる現代では、農業による土壌への炭素貯留効果の期待が高まっています。しかしその一方で、水田は温室効果ガス(GHG)のメタンガス発生源であることがよく知られ、その削減努力が求められています。これらの一見すると相反するように見える2つの関係性をどのように理解し、バランスを取っていけばよいのでしょうか?

まず、水田の土壌炭素貯留能力に注目すると、水田は世界の作物生産農地の8.9%の面積割合で、14.2%の炭素貯留量を誇ります(Liu et al. 2021)。つまり、水田は畑よりも有機物の分解が進みにくいために、水田土壌は炭素貯留能力が高いということです(Chen et al. 2021)。

一方でGHGに注目すると、水田稲作は世界において農業分野の約10%日本においては農林水産分野の約24%のGHG排出量を占めています(*日本のGHG総排出量に占める、水田稲作由来の割合は約1%)。これは、水田稲作では暖かい時期に肥沃な(土壌有機物が豊富な)水田土壌に水を張るため、メタンガスが生成されやすい環境条件となるためです。

水田のリジェネラティブ・オーガニックを探究する

水田から発生するGHG(主にメタンガス)を採集する福島大学の研究チーム。水田や酒蔵から出るもみ殻、コメヌカ、稲わら、落ち葉、酒粕などを用いた植物性堆肥づくりを行ない、そのよく分解された堆肥を水田に還元した際の収量の変化とGHG発生量の調査を行なう。仁井田本家の水田。

水田における土壌炭素貯留とGHG排出という2つの関係性は、生態学的に自然な物質循環であると同時に複雑であり、トレードオフに近い関係性があります。なぜなら、(メタンガスの基質となる)有機物が水田土壌に増えれば、土壌が豊かになるとともに、GHG発生量も増えることが想定されるからです(Liu et al. 2021)。そこで、GHG削減管理として間断灌漑や中干しなど、水田土壌を乾かす管理が推奨されています。中干しは水田から水を抜いて土壌を乾かす行為であり、それまで湛水状態で嫌気的だった土壌に空気が供給されることによってメタンガスの発生量を抑えることができ、さらに、その中干し期間を長くすることでメタンガスの発生をより削減することができます(Itoh et al. 2011マニュアル)。

(留意事項:GHG削減効果のみに注目して中干しを行なうと、変態前のカエルなど、水田内の生き物たちを干上がらせてしまいます。そのため、後述するように中干しのタイミングや工夫など、生き物や生態系にも配慮して実施できる管理アイディアの導入も重要です)

水田生態系を育むためには、水田の外と連帯した取り組みが必要
水田における気候変動対策が主に1枚1枚の水田の中で実践できるのに対して、水田の生態系を豊かにするためにはより広いスケールで農地の中と外の双方で連帯した積極的な取り組みを行なう必要があります。

日本では有機稲作とともに、水田の「生物多様性に配慮した農法」が素晴らしい農家や先進的な自治体を中心に広がりつつあります。その一つの代表例として、兵庫県豊岡市の「コウノトリ育む農法」の取り組みが知られています。具体的には、有機稲作の推進や農薬・化学肥料の削減に加え、生き物に配慮した中干しの実施、冬に水を張る冬期湛水、春先に早めに水を張る早期湛水および魚道の設置などです。また、水田内に江(温水路・水田内ビオトープなど、各地で呼び名多数)を設置する実証事業も始まるなど、これらの取り組みは営農を行ないながらも、水田生態系や地域社会の再生を目指す取り組みとなっています。このような生物多様性に配慮した農法の保全効果に関する研究も進みつつあり(片山ら2020)、どのような管理がどのような生き物を保全するのに有効なのか、そのガイドラインが示されつつあります(例:農研機構2020マニュアル)。

水田のリジェネラティブ・オーガニックを探究する

豊岡市の坪口農事未来研究所では、コウノトリ育む農法の一部の苗を水田に並べ環境に順化させている。人手の必要な作業ではあるが、同時に市民との交流ができるよい機会になる。

水田のリジェネラティブ・オーガニックを探究する

豊岡市の方々との生きもの調査。どのような生き物がいるのか、どのような管理を行なえるとそのような生き物を増やすことに繋がるのか。「生物多様性の保全」が「特定の生き物たちだけの保全」とならないよう、広い視座で取り組みを進めていく必要がある。写真:新井 ‘Lai’ 政廣

水田は現代においても各地域で面的に存在する場合が多いです。そのため、このような生物多様性に配慮した取り組みが水域全体に連続的に広がれば、営農を行ないながらも水田と連帯する生態系を再生することができ、これからの食料生産と生態系保全の新たな共栄の構築に期待ができます。

気候変動対策と生物多様性の両立は可能
ここまで見てきた通り、水田における主な気候変動対策は農地の中で行うことができ、他方で生物多様性は農地の中に「場」を提供するとともに、農地の外とのネットワークを保全、創生することが大切であると考えることができます。したがって、私たちは水田における気候変動対策と生物多様性の両立は可能であると考え、それらの管理の工夫やアイディアを増やしていきながら、国内の水田でRO農法の探究と検証を進めます。
例えば、以下のような取り組みを協同者らとともに検討し進めていきます。

  1. 水田への有機物供給量が最も多い稲わらを堆肥化などでよく分解させてから湛水に臨むことで、メタンガス削減効果を検証する
  2. 有機水田や冬水田んぼでより多いとされる水生ミミズの働きに着目した生物学的なメタンガス削減効果(参考:Mitra & Kaneko, 2017)や物質循環、食物網などを検証する
  3. 水田内の一部に江(水田内ビオトープなど)を設けることで、生き物たちに水域環境を提供しながら中干しを実施できる環境を創り、生態系保全とGHG削減、収量の維持/向上を目指す
  4. 水田内で通年維持される水域環境と水路や河川とを連続的かつ定常的に繋いでコリドー(回廊)化を目指す

これらの取り組みは、将来的に国内で有機農業やRO、自然と共生する社会づくりを面的に広げることを想定した際に、先駆的かつ拡張性のある事例としての役割を果たします。

私たちは協同者らと共に、全体からある一部分を切り離して最適化を目指すのではなく、全体をひとつのシステムとして捉えたまま、全体論的に自然に則した水田の営みを試みることで、RO認証取得に向けた取り組みを進めます。

水田のリジェネラティブ・オーガニックを探究する
水田のリジェネラティブ・オーガニックを探究する

「テミ」(温水路、江)の改修作業。寒冷な地域では水温が低いため、多くの地域で水を常温化させるための温水路(迂回水路)が見られる。温水路は土水路であることが多く、水路を深く掘り下げ、改修することで通年湿地帯を連続的に形成することもできる。福島県、仁井田本家の水田。

日本の基盤である水田を、次の未来に繋ぐために培う

農業は気候変動による多大な影響を受ける産業です。特に、日本の水田農業は水を豊富に利用できる気候や土地条件に基づいて営まれてきました。これからの時代は気温の変動や、降雨・降雪量などの水循環の不規則性や局所性が高まるなど、気候変動の影響を常に受け続けることが推測されています。しかし、そのような状況下においても、1つの解決策として、世界や日本の食と農業の転換を進めていかなくてはいけません。これは大変困難なことではあります。しかし、日本において水田は国土保全の基盤でもあるため、水田を全体論的にリジェネラティブに活用していくことは有効なはずです。

農業は文化の源であり、社会の基盤です。気候危機や食料問題をはじめとする様々な環境社会問題を解決しなくてはならない現代においても、また、私たちの希望通り、それらを解決した先に待つ未来の社会においても、水田は日本に暮らす人々を支え続けてくれます。その基盤をROへと変えていくことができれば、これから先も人々や生態系、社会や国土の健全な繁栄を支える大切な基盤として機能し続けてくれることでしょう。パタゴニア日本支社は日本の気候風土に適したRO水田のあり方を協同者らとともに探究を続け、その実現を目指すとともに、故郷である日本と地球を救うために、食と農業の転換の観点からも国内の取り組みを進めます。

水田のリジェネラティブ・オーガニックを探究する

水田は大変な重労働をともないながらも「次の世代のために」と受け継がれ、これまでの農業者によって管理され、保全されてきた。私たちにとって「当たり前」にさえ感じる、この脈々と受け継がれてきた事実に対して、感謝と敬意を表する。そして、これからの水田利用について、ともに考え、行動していきたい。

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