漁網に恋して
ジャクリーヌ・サングエサは、必要に迫られて、海を愛する前に漁網を愛した。
全ての写真:Jürgen Westermeyer
ジャクリーヌ・サングエサがアンドリュー・オライリーに語った言葉。
これまで一緒に仕事をしてきた人々の多くは、海への愛情や船に乗っている間に感じる平穏、あるいは海との精神的なつながりを大切に想っています。しかし、私はそうではありません。私が漁網産業に携わるようになったのは、もっと現実的で、必要に迫られていたからです。
そもそも、私は海の近くで生まれたわけではありません。太平洋から100kmほど離れたモンテ・アギラというチリの小さな田舎町で生まれ、一番近い水辺と言えば町の北部を流れる小さな川でした。その田舎町にはあまり仕事がなかったので、子どもの頃に家族でコンセプシオンへ引っ越しました。しかし、移住して間もなく不運に見舞われました。まずは父親が失踪し、その後に唯一の兄がバイク事故で亡くなりました。それ以降、母と私と3人の姉妹は、生活費を稼ぐのに必死でした。
「必要に迫られたから漁網産業で働きはじめた」という言葉の裏側には、そのような背景があります。漁網や海は、私たち家族に生活費をもたらし、お腹を満たしてくれます。だから、私は家族のために、船の洗浄から荷下ろし、網の掃除、積み込みまで、できることは何でもやりました。それはとても厳しい生活でしたが、家族が暮らしていくために、私はやり続けました。今では、この業界に携わり、もう30年近くになります。
何度もやめたいと思ったし、すべてを投げ出したいと思いました。しかし、時が経つにつれ、自分の仕事に愛着を持つようになりました。それは、網を作り、修理し、漁獲トン数に耐えられる強度を確保するための熟練した職人技です。よりによって恋に落ちた相手が漁網だったとは、馬鹿みたいに思われるかもしれませんが、私は好きになってしまったのです。
チリの漁師と仕事をしている間に、私はこの業界の良くも悪くも様々な変化を見てきました。漁業はより商業化が進み、業界ははるかに大規模になりました。それはチリに巨額の資金をもたらすと同時に環境への大きな影響も与えました。海へ投棄されるゴミや化学物質は、漁業の成長とともに増えるばかりです。それは海の環境に大きな影響を与えていますが、業界自体がその影響に気付いていません。なぜなら、より多くの漁網、より多くの漁獲、より多くの利益というように、業界は物質的なものに焦点を当てているからです。
私がブレオと協力し「使用済み」の漁網に次のリサイクルプロセスを準備しているのは、この業界の物質主義的な動機やその浪費を目の当たりにしたからです。はじめは、古すぎたり、傷みがひどすぎた修理不可能な漁網は、使い道がないのでブレオに引き渡していましたが、やがてブレオの取り組みや、彼らが廃棄されるはずの漁網を、美しい衣類やスケートボードに変える過程を知るにつれて、もっとブレオをサポートしたいと思うようになりました。
ありがたいことに、自分自身の漁網修繕のビジネスを継続しながら、廃棄される漁網の仕分け・裁断・洗浄を行うチームを率いる仕事を担当しています。自分が情熱を傾けているビジネスを続けられる上に、漁網を修繕し、廃棄される網をブレオに引き渡すことで、チリの海洋生物の保護に貢献できるのだから、私にとってWin-Winの状況となりました。
30年前の自分を振り返ると、思わず笑ってしまいます。私は海に関心もなく、ただ生活費を稼いで家族を助けたと思っていた少女でした。しかし、いま海への想いをたずねられたら、こう言うでしょう。チリにあるすばらしい場所の中でも、海は私にとって「最も特別な場所である」と。海は私たちの生活に欠かすことのできない生態系であり、私はその生態系と非常に密接な関係を育んできた。しかし、そこは私たちの保護と保全を最も必要としている場所でもあります。
リサイクル漁網が消費財にどのように活用されるか、興味を持っていただけたでしょうか。ブレオのネットプラス素材は、例えばパタゴニアの衣類や帽子のつば、Costaのサングラス、Carverのスケートボード、Trekの自転車部品、Futuresのサーフフィン、さらにはジェンガゲームにいたるまで、さまざまな製品に利用されています。