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農園のアクティビスト

倉石 綾子  /  読み終えるまで11分  /  ワークウェア

ゼロ・ウェイストにコミュニティベース、オフグリッド……意欲的なチャレンジで知られる農園「SHO Farm」が、不耕起栽培とフェミニズムに取り組む。

生き生きとした植物で覆われた、美しい畑で収穫作業に励む「SHO Farm」代表の仲野晶子さん。写真:五十嵐一晴

全ての写真:五十嵐 一晴

神奈川県横須賀市で「千年続く農業」という哲学を掲げ、無農薬・無化学肥料に取り組む農園がある。「SHO Farm」は社会や環境のための取り組みに意欲的なことで知られるユニークな生産者でありアクティビストだ。農園の代表を務める仲野晶子さんは、筑波大学大学院で土壌化学を修了し、中学校の理科教師を務めた後に農業の道へ。2014年に夫の翔さんとともに「SHO Farm」を開園した。同じ筑波大学で農業経済を学んだ翔さんは卒業後、日本政策金融公庫で働き、農業経営アドバイザーの資格も有する農業経営とマネジメントのプロフェッショナル。食糧の生産を担う農村から社会のあり方を変えようと、持続可能な有機農業を志した対称的な2人が、二人三脚で営んできたのが「SHO Farm」である。

農園のアクティビスト

いち早くゼロ・ウェイストを取り入れた「SHO Farm」の直営販売所の様子。

就農当初は一般的な有機農法に取り組んでいたが、「興味のあるものはすぐに試してみる性質なので」と晶子さんが言うように、そのスタイルや手法は年々変化し、さらに深化している。肥料は、緑肥(収穫を目的とする作物でなく、土壌改良の目的で栽培する作物)と地元の有機質資源だけを最小限に。土地に合った品種を次の世代へ残すため、可能な限り自家採種した在来種や固定種を栽培する。農園では、水は天水を利用し、電力は自家発電の太陽光、熱源は地域の間伐材や廃材でまかない、トイレはコンポストという完全オフグリッドを採用。配送にかかる環境負荷を抑えるため、野菜定期便の販売は神奈川県東部のみに限っている。地域社会の課題にも貢献したいと、自宅の庭先で卵の自給を目的とした自然養鶏を広める活動にも携わった。ゼロ・ウェイストにもいち早く取り組み、生産時にプラスチック資材を使用しないのはもちろん、マルシェや「SHO Farm」内の直営販売所では、量り売り&パッケージや容器はリターナブルという方針を徹底して貫いている。

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捨てない・買わないを徹底する直営販売所では、配達に使う新聞紙も卵をいれる紙パックも空き瓶もすべてリユースしている。使用後の空き瓶はこちらに戻すシステムだ。

農園のアクティビスト

「野菜のおいしさは鮮度が8割」が信条。だからここに並ぶのは販売する当日、遅くとも前日に収穫されたばかりの野菜だ。

あらためて話を聞いてみると「SHO Farm」の活動の軸となるキーワードは、開園当初から変わらず“オーガニック”である。「本来のオーガニックは、内面や社会に本質的な豊かさをもたらすものであるはずなのに、近頃は言葉そのものが消費尽くされ、資本主義に飲まれてしまったように思います」と晶子さんは言う。一般に、“オーガニック”という言葉は農薬や化学的に合成された肥料を用いずに栽培された農産物に用いられるが、2人にとっての“オーガニック”とは、食品や農法を指す言葉ではない。オーガニックとは社会的な正義を実現するために存在する、生活や思想にまつわる概念であり、マイノリティを巻き込む社会運動なのだ。オーガニックを志す活動を通じて2人が目指すのは、経済至上主義や大量消費のシステムを変えること。必要なもの・ほしいものは自らの手を動かして作るというパラダイムシフトを農村から起こすこと。社会を変えるためには関心のない層にこそ思いを広めて取り込んでいくことが必要だから、「SHO Farm」では地域コミュニティに扉を開き、あらゆる人を招き入れるイベントやワークショップを行っている。思想を同じにする人ばかりが集まる“同好会”になってはいけないというのが2人の信念だ。このように環境になるべく負荷をかけないで食物を生み出し、思いを伝える方法を試行錯誤する「SHO Farm」は、2人の理想や正義を実践する場なのである。

農園のアクティビスト

晶子さん・翔さんの仲野夫妻(中央)と、有機農家としての独立を目指し、研修を兼ねて働いている若いスタッフ。現在はこの4人を主軸に、出荷のパートスタッフや農福連携の人材やボランティアの手を借りて切り盛りしている。

「SHO Farm」がいま、全力で取り組んでいることが2つある。一つは、昨年新たに始めた不耕起栽培だ。不耕起栽培とは、作物を栽培する際に行う耕起(土壌を掘り起こしてかき混ぜる)のプロセスを省略する手法のことをいう。刈り取った後の作物やワラなどを農地の表面に残した状態で次の作物を栽培する不耕起栽培は労働時間を大幅に短縮できるばかりか、耕起を抑えることで炭素を土壌に留め、土壌生物と植物の根のネットワークを育むことで土壌の生物多様性を高めると注目されている。おまけに、健全な土壌を育み、植物が取り込んだ炭素を大気中に戻さず土中に貯めることができれば、農地は巨大な炭素吸収源として機能するかもしれない。農業は気候変動の影響を受けやすい産業であると同時に気候変動を促す産業の一つとされており、こうした課題解決に向けて農地や森林、海洋の生態系による二酸化炭素吸収の取り組みが進められているところだが、不耕起栽培にも同様の効果が期待されているのだ。

「以前から土壌の健康を考えて省耕起を心がけてきましたが、農園に遊びに来てくれたパタゴニアのスタッフの言葉をきっかけに不耕起栽培に出合い、すぐに導入しようと決めました。土壌学に基づく土壌生成の観点からもこの手法は正しいと感じたからです」(翔さん)

農園のアクティビスト

収穫した白菜のできを確認する翔さん。

耕起しない、つまり自然の状態そのままの土壌に向き合う手法は、土壌学を学んだ晶子さんにとって農業の真髄そのものといえるだろう。
「土壌学というのは、土壌がどのように生成し変化していくのかを純粋に観察していく学問です。大学進学当初はバイオテクノロジーを用いた国際協力を志していたのですが、インドの科学者で環境活動家のヴァンダナ・シヴァの考えに影響を受け、近代農学とは、土壌からいかに効率よく栄養を収奪するかという人間本位の学問だと考えるようになりました。誰かからなにかを搾取するようなライフスタイルはもうやめよう、そう決意したときに土からの収奪を目的とせず、ただただ土を敬い、土を守る土壌学のありかたに共感したのです」(晶子さん)

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廃材を利用してDIYしたという「SHO Farm」の作業小屋はオフグリッドで機能する。小屋に用いた廃材はすべて地域で集めたもの。「近隣で人間関係が築けていないと廃材だって集まらない。地域あっての農業なんです」

土壌に本来備わっている力を生かすことを前提に、さまざまな工夫を凝らしてみたという不耕起栽培。国内では実践例が少なく、道具も実践的なノウハウも広まっていなかったので「この一年はすべてが手探りだった」と晶子さん。失敗や反省点は数えられないほどあるけれど、不耕起栽培したセロリのできは「SHO Farm」史上最高だったとか、ビーツも想像以上によくできたとか、うれしい振り返りもたくさんあった。

農園のアクティビスト

初挑戦した不耕起栽培ではうまくいったことも反省点もあったけれど、緑肥に覆われた畑と収穫物がモチベーションになる。

「良かったことは、2人の間でこれまで何度も議論していた脱トラクターを実現できたこと。これまでは、時間に追われる中でとりあえず耕うんしておこうとトラクターを入れてしまい、土壌表面が露出する畑になってしまっていた」(翔さん)
「たとえば、ニンジンを収穫したらそこにライ麦の種を蒔いて草をかぶせるんですね。土壌をむき出しにしないように、土壌生物と植物の根のネットワークを絶やさないように。そんな風に緑肥で畑を覆ったら農園の景観が格段に美しくなって、その風景にも手応えを感じました」(晶子さん)

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耕起せずとも、ブロードフォークを使って土中に空気を入れ、土を柔らかくする。

22枚ある畑のほとんどすべてを不耕起栽培に変えた2021年の経験から、晶子さんがあらためて感じたのは、植物・土壌・土壌生物は土にとっての“三位一体”であり、3つが相互に作用し合い、素晴らしいバランスを保っている状態こそが土の健康である、ということだった。このトライアングルがいいバランスを保っているときは丈夫な植物がすくすくと育ち、土の肥沃度も土中の生物量もぐっと上がるのだから。晶子さんいわく、「“三位一体”を保つキーワードは、土壌有機物と生物多様性」。だから今年のチャレンジは、土壌有機物と多様性に着目しながら緑肥の活かし方と混植をさらに研究すること。そして、そうしてできた作物を通じて土の健康の重要性を伝えていくこと。

農園のアクティビスト

木のチップと米ヌカ、近隣で伐採された竹を燃やしてできた炭を混ぜ、2週間ほど発酵させた土。白い菌糸が見える。

「元来、耕起は男性の仕事とされてきました。農業において最も大きく重量のある機械――トラクターや大きな耕運機を操るからです。この作業を省けるようになることは、農業分野における女性参画のハードルを下げることにもなります。それは女性が農業のイニシアチブを取っていくうえでも重要なのではないでしょうか。もちろん男性にとっても機械作業が短縮され、機械に対する農業投資を抑えられるのは大きなメリットになるはずです」
このように労力を抑えて効果を望める不耕起栽培のチャレンジが実を結べば、新規就農を志す人や女性も積極的にこれを取り入れるようになるだろう。家庭農園やコミュニティ農園にも広がっていくかもしれない。こうして育まれた健康な土壌は健全な生態系を保全し、地球環境や地域コミュニティを豊かにし、あらゆる生物の健康を向上させる。それこそ「SHO Farm」が夢見る、市民のためのオーガニックの理想像なのである。
「だから私たちの究極のゴールは、誰もが野菜を自宅で栽培し、食べるものを自給する社会を実現し、いつか『SHO Farm』を解散すること。仲野家の家庭菜園として自分たちが食べる分だけをほそぼそと育てている、そんな未来をかなえたいと思っています」(晶子さん)

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都心からわずか1時間ほどの距離ながら、豊かな自然環境に恵まれている横須賀市。この地域の自然もコミュニティも、「SHO Farm」に欠かせないものだ。

このように“男性性”や“破壊”を象徴するトラクターから解放される不耕起栽培は、土壌や環境の再生はもちろん、ジェンダーフリーをも促す大きな転換点になるかもしれない、と晶子さんは言う。というのも、「SHO Farm」が昨年から新たに取り組み始めたもう一つのチャレンジが、晶子さんがいまもっとも力を注いでいるフェミニズムなのだ。開園以来「SHO Farm」の方針は2人で議論を重ねて決定し、二人三脚でその運営を行ってきたにも関わらず、いつしか「農園の主役は翔さん、晶子さんは補助」と認知されるようになってしまった。これは2人が築いてきた農園の本質とは大きく乖離している。以前から、有機農業にかかわる女性はたくさんいるのに、メディアなどで取り上げられるのは男性ばかりであることに違和感を感じていたという晶子さんは、自分たちを取り巻く現状にも大きな問題意識を覚えるようになっていた。
「1年間フェミニズムを学んできて、これは社会に横たわる大きな問題であるというだけでなく、自分の話であることにようやく気づくことができたんです。社会にも自分たちの中にも当たり前のように刷り込まれている男女差別の構造を改革しなくてはと思って、昨年、代表を翔から晶子に交代しました」

農園のアクティビスト

1年間フェミニズムを学び「これは自分ごとなのだと実感した」と晶子さん。昨年末から「SHO Farm」の改革に乗り出した。

男性が主体となりがちな農業の世界で女性が代表を務めるのは大きなチャレンジだが、エコロジーとフェミニズムはとても近い概念であり、「男尊女卑に立脚したエコロジーも、環境を破壊するフェミニズムも存在しない」というのが晶子さんの持論だ。
「私たちが目指すのは、性をはじめとしたさまざまなアイデンティティで区別されることなく誰もが対等に価値を認められる社会の実現です。私たちはエコロジーとフェミニズムを体現する農園としてジェンダー平等にも真剣に取り組んでいきます」

環境に対する取り組みと同じくらい価値のある挑戦に、一歩を踏み出した「SHO Farm」。環境問題、フェミニズム、あらゆる社会問題を包括する“オーガニック”のアクティビストとして、晶子さんと翔さんのポジティブなチャレンジは続いていく。

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