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パタゴニア・アンバサダー横山 勝丘、マウント・ローガン南東壁を初登

読み終えるまで6分  /  クライミング

写真: 雨宮 千佳

パタゴニア・アンバサダー横山 勝丘、マウント・ローガン南東壁を初登

写真: 雨宮 千佳

この秋新たなパタゴニアのアルパインクライミング・アンバサダーとなった横山勝丘が、2010年5月、カナダ最高峰のマウント・ローガン南東壁を初登しました。この見事な登攀記録により、彼とパートナーの岡田康氏は第5回ピオレドール・アジア賞を受賞。登頂までの数時間を描いた横山勝丘によるエッセイ「感じる ~山頂をめぐる逡巡~」をお楽しみください。

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「おいおい、嘘でしょ!」 テントから顔を出した瞬間に視界に入った青空を見て、僕はそう叫んでいた。最低最悪。この山の天気をひと言で表わすなら、これが最もふさわしい。なのにちょうど僕たちのクライミングに合わせたかのように、スカッ晴れが5日間もつづいている。「きっと何か落とし穴があるに違いない」 「そうやすやすと甘い罠には堕ちないぜ」 素直に喜べばいいものを、あまのじゃくな2人はやけに慎重だ。

「でもちょっとだけ行ってみようか」 クライマーは単純な生き物。目の前に宝物があれば、つい引き寄せられてしまう。そう、やっぱり山頂は外せない。「でも、タイムリミットだけは決めておこう」 「少しでも状況が悪くなったらすぐに逃げよう」 不安はやっぱり残る。だから「つねに冷静たれ」と言い聞かせる。それでも空はかぎりなく青。風もなく、暖かい。僕たちを邪魔する要素など、何ひとつないように思えた。

パタゴニア・アンバサダー横山 勝丘、マウント・ローガン南東壁を初登

クライミング4日目、ローガン東峰に向けて歩く岡田。写真: 横山 勝丘

「うーん、ちょっとまずいかなあ」 遅々として進まない歩みに、焦りを覚えはじめる。おぼつかない足取りは、それまでの登攀からくる疲労と、慣れない標高での酸素欠乏の表れだろう。前を行くパートナーの上下に動く肩越しに、心の葛藤はすぐに見て取れた。ひとたび芽生えはじめた心の不安は、また別の不安を増長させていく。山頂へと向かう最後のコルにたどり着くころには、2人が定めたタイムリミットは刻々と近づいてきていた。

「もう無理だと思う」 パートナーのその言葉を脳みそに取り入れて噛み砕くのに、苦労した。その言葉が理解できなかったわけではなかった。酸素不足で頭がボーッとしていたし、そして何よりも、それは僕の心の葛藤そのものだったから。「いつ天気が崩れるかわからない」 「俺たちの持っている食料と燃料では、次の嵐をやり過ごせない」 たたみかけるようにパートナーの口から言葉がでる。「いやいや、まだ・・・」 何かしらの反抗を試みるが、何も言えない。彼の言うことは理解できたし、理論的に考えればそれは正しい判断だから。「でも上まで行きたくない?」と僕。「ああ、俺も行きたい」 そう、本当は2人とも山頂まで行きたかった。

冷静さを失ったら、次に待ち受けているのは死かもしれない。クライマーはつねにそうやって考え、より良い選択肢を見出そうとする。しかしその決断が、いつも冷静な判断の基に導き出されたものかどうかは疑わしい。「うーん、山頂まで行きたかったけど、いまは冷静にならなきゃ」 それは、疲労した自分への言い訳かもしれない。「もう壁は登り切っているんだから誰も文句言わないよな・・・」 支離滅裂。あなたは誰のために登っているのですか?

「よし、帰るか」 30分にわたる議論の末、僕たちは帰ることに決めた。疲労、食料・燃料の不備、天候悪化の恐れ・・・それに、もう壁は登っている。理論的に考えて、至極まっとうな判断だ。「もう何も言うな、決めたことだ」 考えること、話し合うこと、その決断を全面的に共有すること。それが大切。

それなのに、僕はいざ帰ろうというその瞬間、つい言ってしまった。いや、口から「音」が漏れてしまったと言ったほうが妥当かもしれないが。「ハァ・・・」 次の瞬間、ハッと我に返ったようにパートナーの口から言葉が出た。
「これじゃだめだ、やっぱり行こう!」
「あとで後悔するようじゃ遅いんだ」
「こうなったら、とことんハマろうじゃないですか!」
こうして、冷静な判断は一瞬にして崩れ去り、その3時間後、言葉では言い表せないほどの感情とともに僕たちは山頂に立っていた。空はまだ、青いままだった。

パタゴニア・アンバサダー横山 勝丘、マウント・ローガン南東壁を初登

横山(左)と岡田(右)。ローガン東峰山頂にて。写真: 横山 勝丘

「なんだ、ただ結果的に天気が良かっただけじゃないか」 たしかに。多少冷静さを欠いていたかもしれない。でも、「もしあのとき天気が崩れていたら?」とはあまり思わないし、「天気が良かったから行って当然だった」とも思わない。最終的に「やっぱり行こう」と思えるようになるまでのあいだ、シリアスな状況だったのは天気でも装備でもなくて、2人の心理的疲労だった。

「おいおい、本当に大丈夫なんだろうな・・・」 今朝、テントから顔を出した瞬間から山頂に立つまでのあいだ、どれだけの気持ちの変化があっただろうか。こんなこと、普段の生活でやっていたら「優柔不断」と一笑に付されるだろう。でも、その都度考えたことはすべて間違っていないと思うし、その都度2人で話し合った時間も大切だ。考えること、話し合うこと、その決断を全面的に共有すること。きっとそれは僕たちの身を守る術だし、人生をより良い方向に導いてくれる。でも、それが最良の瞬間に導いてくれるとは限らない。

感じること。そうやすやすと本能的に何かを感じ取ることができるほど、僕は多感ではない。仮に感じることができたとしても、それが正しいと胸を張って言うこともできない。でも、その先には何かちょっと特別な世界があるかもしれない。最後の最後に口から漏れたため息を、僕は理論的には説明できない。きっとそれまでのあいだに考えて、迷って、話し合って、さらに考え抜いた先に、僕たちは何かを感じ取ることができた。それが、あのため息となって現われたんじゃないだろうか。さもなければ、山頂での最良の瞬間も訪れなかった。次にそんな瞬間が訪れるのはいつだろうか。あえて求めもしない。でも、山の世界で本気で遊んでいれば、またいつかそんな最良の瞬間に出会えるかもしれない。

横山勝丘によるスピーカーシリーズ「糸 ~岩、山、人~」を12月3日(金) 渋谷ストア、9日(木) 横浜ストア、10日(金) 大阪ストア、15日(水) 仙台ストア、2011年2月10日(木) 札幌北ストアで開催します。こちらもぜひお越しください。お問い合わせ/ご予約は各ストアまでお願いいたします。

パタゴニアの直営店ではさまざまなイベントを予定しています。詳細はパタゴニアウェブサイトのストアイベントをご覧ください。

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