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おさがりのおくるみ

尾日向 梨沙  /  読み終えるまで8分  /  Worn Wear

友人から譲ってもらったおくるみ。初めての育児に奮闘しながらも、あたたかいおくるみに何度も救われた。母の想いが詰まった着ることについてのストーリー。

たくさんの思い出が詰まっているベビーおくるみをタンスから引き出す丸山春菜。写真:伊藤 剛

12月、スキー場のオープン日に合わせるかのようにまとまった雪が積もり、いよいよ本格的な冬がやってくるという朝。北信濃の小高い丘は、一面真っ白に塗り替えられ、雪化粧をしたリンゴの木が朝日を浴びてキラキラと光っていた。

おさがりのおくるみ

春菜の子どもが通う幼稚園は、果樹園と水田と雑木林に囲まれた里山に溶け込むように佇む。写真:伊藤 剛

認定こども園「大地」に登園する子どもたちもみんなスノーウエアに身を包み、雪遊びを心待ちにしているかのよう。スノーボーダーの丸山春菜は、2歳の息子ケイトとともに、たくさんの荷物を抱えてやってきた。この日は保護者同士でおさがりの交換会が開催されるのだ。

豊かな自然に囲まれた環境に、手作りの園舎や五右衛門風呂、6000冊以上の絵本を備えた図書室などの施設を備えた「大地」は、四季折々の野外活動を中心とした自然保育を実践。その方針に共感し、子どもを通わせたいと県外からやってくる親子もいる。

雪の上で焚き火を囲う子どもたちに、園長先生の声が響く。
「みんなー! これからケイトのママが滑るぞー! ケイトのママはスノーボードの選手なんだぞ〜!」
「わー!!すごーい!」

子どもたちの大きな歓声のなか、園舎から続くスロープにゆっくりとターンを刻む春菜ママ。最後に転倒し、場を盛り上げるのもお約束。助けに行くクロカンスキーを履いた園長先生も転び、園児たちは大笑いしながら一斉に駆け寄る。

おさがりのおくるみ

転んでしまった大人たちを助けに駆け寄る子どもたち。五感による実体験が幼児期の豊かな心を養う。写真:伊藤 剛

20cmは積もっただろうか、ふかふかの新雪のなかを転がるように走る子どもに、むしゃむしゃ雪を食べる子ども、雪玉を投げ合う子ども。雪は子どもたちにとって最高の遊び道具だ。

そんな和やかな光景を窓から眺めつつ、保護者たちの交換会もスタート。日頃からサイズが合わなくなった子ども服を持ち寄り、保護者同士で譲り合っているのだ。ニット帽にジャケット、つなぎのウエアやアームウォーマー、スノーシューズなどなど、雪国の子どもたちに必須のアイテムが並ぶ交換会は和気あいあいと繰り広げられる。

おさがりのおくるみ

雪国ならではのアイテムが集まる交換会。新米ママには先輩のアドバイス付きだ。写真:伊藤 剛

この日、春菜はタンスに仕舞っていた大切な“おくるみ”を持ってきた。これはケイトが生まれたときに友人家族から譲ってもらったもの。その友人は20年前に、アメリカを旅していたときにこのおくるみに出会い、「いつか自分に子どもができたらこれを着せよう」と購入したもの。何年か後に、2人の子どもを授かり、どちらも冬生まれだったので、おくるみを着せてあちこち出かけたという思い出のアイテム。友人の子どもたちは大きくなり、2年前、1月に出産を控えた春菜の元に、このおくるみが贈られた。

おさがりのおくるみ

春菜におさがりのおくるみをプレゼントした友人ファミリー。スノーボードを愛する両親は、赤ちゃんをくるみ、滑りに出かけたことも。

「息子は大雪の日に生まれました。初めての子育てで、どこに行くにも何をするにもハラハラ、ドキドキ。初めてのお散歩に、初めての雪山。いつもこのおくるみを着せて出かけていました。不安はあったけれども、あたたかいおくるみを着ているから大丈夫、出かけてみよう!といつも背中を押してもらっていたんです。このおくるみを見ると、そんなひとつひとつの出来事を鮮明に思い出します」

おさがりのおくるみ

友人家族をトレースし、まだ小さな息子におくるみを着せて、散歩に出かける春菜。

滋賀県出身の丸山春菜は、子どもの頃から家族でスキーに出かけるのが一番の楽しみだった。中学3年生の頃、父の影響でスノーボードを始める。誰かと競い合うことよりも、自分だけのラインを見つけるフリーライディングに夢中になり、以来スノーボードは彼女の暮らしの中心にある。

プロスノーボーダーの丸山隼人と結婚し、雪深い長野県信濃町に居を構え、毎日滑ることが当たり前という生活。ケイトが生まれるシーズン、当たり前の毎日が変わる覚悟をした。それでもやはり雪山への想いは強く、3月には雪山復帰。

「生後2ヶ月のケイトにおくるみを着せて出かけ、夫と下で待っていてもらいました。私はひとりでほんの数本だけ。息子が気になって仕方なかったのですが、滑り出したら、滑り手としての自分に戻れて、やっぱり自分にはスノーボードが必要だと再認識しました」

それからは、4月に白馬に出かけたり、5月には首が座ったケイトを抱っこして一緒に滑ったり、限られた時間のなかでの新しい楽しみ方を見出している。

おさがりのおくるみ

2歳になった息子とは一緒にスノーボードを楽しめるようになった。写真:伊藤 剛

「毎日必死だけれども、とっても充実しています。たった1時間だけでも雪山に行くだけで気持ちがリフレッシュできるし、1本1本が貴重に感じられます」

初めての育児を支えてくれたおくるみは、同じ幼稚園に通う友人に引き継がれる。春に千葉から移住してきた大津賀さんは、2人目の赤ちゃんが生まれたばかり。初めての冬を信濃町で迎える。

おさがりのおくるみ

雪の世界をたくさん楽しんでほしい、という想いを乗せて、おくるみを引き継ぐ。写真:伊藤 剛

春菜は生後2ヶ月のまやのちゃんに、おくるみを着せながら、語りかける。

「ケイトも冬の間、ずっとこれを着ていてたくさん助けられたの。移住して初めての冬って言っていたから、使ってほしくて。おくるみを着て、いろんなところに行きましょうね!」

初めての洋服は嫌がることも多いというまやのちゃん、たくさんの赤ちゃんがくるまれてきた優しさに包まれて、気持ち良さそうな表情を見せてくれた。

おさがりのおくるみ

このおくるみにとっては、4人目の赤ちゃん。優しい着心地は変わらない。写真:伊藤 剛

ケイトが普段着ている服もほとんどが友人から譲ってもらったもの。春菜自身も、ウエアやスノーボードはメンテナンスをしながらできるだけ長く使い続けられるよう心がけている。ただ、子どもの服だけはあっという間にサイズが変わってしまうから、こうしておさがりに助けられ、また次の子どもへとタスキをつなぐ。

「おさがりって人から人へ、思い出ごと受け継がれるから、新しいものでは感じられない温かみがありますよね」

おさがりのおくるみ

おくるみのバトンを受け取ったまやのちゃんは、程なくしてスヤスヤと眠ってしまった。

春菜の物を大切にする精神や、自然環境へ配慮する行動は、子を持つ母になり、より一層強くなったという。長く、フィールドでの活動を続けるなかで、年々雪の降り方が変わってきたり、自然のリズムが崩れてきていることを肌で感じている。

「子どもを授かってより、子どもたちの未来が心配になって、何かしたいという気持ちが強くなりました。自分にできることは小さいとは思うけれど、楽しみながら続けていけることを考えています」

自然に負荷をかけない暮らしや、環境に優しい製品の選択にとどまらず、夫婦で運営するスノーボードのキャンプやレッスンの年間売上の1%を環境団体に寄付したり、参加費の全てをPOW Japanに寄付するチャリティーセッションを開催、オーガニックやリユースをテーマとしたグリーンマーケットを主催するなど、次から次へと活動の輪を広げている。

「本当に心からスノーボードを滑ることが大好きなので、だから自然環境を、雪を守りたいという気持ちが自然と湧いてくる。全然特別なことではないんです、私のなかでは」

自分自身が子どもの頃に雪からたくさんのことを学び、喜びを与えてもらった記憶。その恩恵に感謝するかのように、地元の人々にも、身近にある自然でもっと遊んでほしい、と想いを形にする春菜。おくるみを譲った親子にもスノーボードを伝授したいと考えている。

自然に寄り添う人が増えれば、自然を守りたいという気持ちが芽生えることを知っているから。

おさがりのおくるみ

「子どもが雪まみれになって、子どもらしく自由に成長していくのを見るのが幸せ」と話す春菜。おくるみを受け取った子どもに夢を託して。写真:伊藤 剛

たくさんの家族の思い出が詰まったおくるみは、次の家族とともに、新たな冬の記憶をつないでいく。

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