高電圧
1時間ほど眠ったあと、デッキに打ちつける大粒の雨の音で目が覚める。その音はすぐに耳をつんざくような豪雨へと発展し、私はソファから起き上がって階段を登る。登りながらレーダーの画面に目をやると、巨大なスコールがレーダーの観測範囲である8マイル四方の画面いっぱいに、真っ黒に覆っているのがわかる。
「これって普通なの?」とジェイクが尋ねる。
「ううーん、あまりよくないわねえ」と私はつぶやき、全周囲の水平線に閃く稲妻を観察する。最近聞いた話によると、落雷で、ある夫婦の船の船体に穴が貫通し、その数分後に沈没したらしい。避雷接地板が機能してくれることを切に祈る。
嵐はあらゆる方角から迫り来るようだ。レーダーがその中に示す小さな隙間に舵を取ろうとするが、私の努力はむなしい。帆は渦巻く大気の対流によって、無力状態だ。
「金属には触らないで!」 稲妻がどんどんと近づくなか、私は警告する。雷鳴が威圧するように轟き、あたり一面を引き裂く稲妻の白い爪が、私たちの悲惨な現実を照らし出す。パニックのなか、私はラジオのプラグを抜くために身をかがめ、震える指で勢いよくコードを引っぱる。
「それで、これが君にとっての楽しいことなの?」とジェイクが、おびえた様子で聞く。私たちは身を寄せ合い、金属には絶対に触れないようにしながら、怒り狂う空の下で自己の小ささと無力さを痛感する。稲妻が閃くたびに体はこわばり、そのあとにつづく雷の轟音に備えてふんばる。歯を食いしばったまま、理解を絶するほど強力な轟きのたびに、爪をふくらはぎに食い込ませる。
「これは最悪」と私はささやく。
「ムムム、何かの予兆かどうかわからないけど、君のペットのヤモリがたったいま船を放棄したよ!」と、ジェイクは目をまんまるにして報告し、両腕で私をしっかりと抱きしめる。独立心にひどくこだわる私の一部は彼の支えを欲しないものの、これが最期かもしれないのならいただくべきだわ!と受け入れる。恐怖に満ちた数分間が流れ、そして頭のすぐ上の空を3つの稲妻が切り裂く。
ガラガラガラッ! 何度も、何度も。
雷が内臓をえぐるような勢いで私たちの胸を突く。3つ目の稲妻が船の長さほどしか離れていないところで水面を打ち、虹の全色に彩られた白いしぶきの塔を炸裂させる。レーダーは真っ暗になり、海図プロッタが「?」マークを点滅させると、何も映らなくなる。
私は恐怖にうめき、ジェイクにしがみつく。無言の涙が頬を伝う。自然の力に、これほどまでに謙虚になったことはない。まるっきりそのままで、奔放で、予測不可能。直撃を覚悟するが、次の稲妻が光ったのはずっと北方だった。そして私たちは2人とも、嵐が散りはじめるまで長いあいだ、黙ったままでいた。
「船長、大丈夫かい?」
「気が変わったわ」と、私はどもりながら言う。「白い柵とゴールデンレトリバーが欲しい気がする」
このストーリーはリズ・クラークの新著書『スウェル:覚醒するサーファーのセーリング航海記(英語版)』からの抜粋です。リズの航海のストーリーを彼女自身の言葉で綴った本書は、孤独と驚きに満ちた大海原でのセーリングの物語、そして地球とのつながりを発見し、それと調和して暮らすことへの忠誠を共有します。