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ホームマウンテン

遠藤 励  /  2021年11月10日  /  読み終えるまで7分  /  スノー

この土地でスノーボードと共に培った経験や雪への探求はより広い世界へと私を旅立たせた。2021年。写真:遠藤 励

「この山がやっぱり好きだ」。新雪の降った朝は少しソワソワしながらいつもの雪山に向かう。木崎湖の湖畔に始まり青木湖を見わたす道路を通ってトンネルを抜ける。佐野坂峠に広がる杉の森を過ぎるとそこに真っ平らに開けた雪原が広がる。

立ち込める朝靄と運転席側から差し込む朝の神々しい陽の光がその雪原に幻想的な陰影をもたらす。雪山へ向かうこのドライブが好きで、美しい雪景色は何度見ても心が洗われる。

ホームマウンテン

暮らしを通して自然を見つめる。里山文化、八百万の神々。本来日本人には自然を敬うアニミズムの精神が受け継がれていた。自宅から眺める冬の訪れ。 写真:遠藤 励

一つの山を生活と滑りの目線からじっくりと掘り下げてみる。シーズンの始まりから雪解けの4月下旬まで季節の変化とともにゲレンデからバックカントリーまで、時々のコンディションにも合わせながら雪山を愛しむ。

自分が暮らす長野県の安曇野地方はクリスマスまでには寒波が到来し、本格的な冬のシーズンが始まる。1月と2月の中旬頃まではグレーの分厚い雲に覆われ、その時期はハイシーズンと呼ぶに相応しく、気温も低いため良質な雪のセットが頻発し、フィールド的にも広範囲にアクセスが可能になる。

3月に入ると降雪頻度は減る代わりに晴天率が増し暖かくなる。通年なら様々なスノーイベントも開催され、コーンスノーに青い空という気持ちの良いスプリングシーズンに切り替わっていくのだ。

ホームマウンテン

美しい雪と共に私たちの創造力は無限に広がる。春のライディングイベント、2009年。 写真:遠藤 励

次の冬で白馬の山をホームに移してから25年目の冬を迎える。

同じ頃から写真を生業としてきた私は国内外様々なフィールドへと旅する事も多い。けれどカメラを持たない時はそのホームマウンテンを滑ることに充てている。

晩秋の冷たい風に冬への期待で心を躍らせ、シーズンが始まればいつもの雪山に足を運ぶスノーボーダーに還る。滑ること自体は仕事では無いけど、フィールドに出て感覚を鍛え続ける事や滑り手たちとのコミュニケーションがスノーボードフォトの分野で活動するためにとても重要なのだ。
私はコンセプチャルな取り組みを行うゆえ、気象や条件の整った環境に招かれ、スノーボーダーが繰り出すアクションをただ収めただけの写真に違和感を覚えることがある。またその逆も然り。そこには雪山に対する恐れや敬いと、決して安易ではないはずの世界で、滑り手と対等な立ち場から考察して臨みたいという思いがあるからだ。

信州に生まれ、幼少の雪遊びからスノーボードに惚れ込んだ私は年間100日以上雪上に立つというライフサイクルを17歳から今日まで続けてきた。そんなサイクルの中で磨き続けたスノーボードは子どもの頃から育んだ誇りとなり、カメラを持ってより広い世界に出るための共通言語としても役立っていった。

素晴らしい体験とは引き換えに、それだけ多くの時間を雪山に充て続けると、生活面ではそれなりに失うものもあった。しかし人生に限りがあり、あれこれ叶えることは出来ないことにも気がつき、この生き方から養われるアイデンティティーを大切にしながらさらなる探究を続けている。

ホームマウンテン

2000年頃は安曇野におけるバックカントリースノーボード創世記。未開の探検は私と仲間の雪山への興奮と学びをさらに高めていった。 写真:遠藤 励

90年代からスノーボードを通して時代の移り変わりを体感してきた。ハーフパイプ競技全盛の時代からレールやキッカージャンプが業界のメインストリームとなったパーク時代が到来、この頃までは「プロライダーになる」という夢をかなり多くのプレイヤーが目指し、業界も一緒に成長するかのような一体感があったように思う。

その後、ライディングにフォーカスした地形イベントが脚光を浴び始めたのがもう10年以上前で、現在のバックカントリーブームが始まるくらいから、スノーボードを取り巻くマーケットも急激に変わりはじめた。多様化が進み、ユーザーが主体的に参加するイベントが注目され始め、バンクドスラロームも日本で定着。近年ではカービングやグランドトリックのブームが再来し、様々なトレンドが生まれ続けている。

私は昔から特に変わらずアグレッシブに地形を滑る面白さに魅了され続けているが、それはホームの山がフリーライドの更なる探求を叶える魅力を持っていることも影響しているだろう。求めれば求める程に、山のさらに奥地や難所に足を踏み入れるのも自然な流れで、仲間と探索するその行為自体もいまだに好奇心は尽きなく、体力と経験に準じて自分の行動範囲もアップデートされている。

ホームマウンテン

写真家活動を始めた頃に。駆け出しの私がテリエ・ハーコンセンを捉えた思い入れの一枚。1999年。写真:遠藤 励

近年の白馬はインバウンドを意識したリゾート化が進み、国内のバックカントリーブームも相まってビジターや移住者で賑わいをみせていた。ひと昔前なら夢のような白馬全山共通シーズン券なんてものも一般発売されるようになり、ローカルの間でも白馬バレーに隣接するスキー場を自由に行き来するという新しい選択肢が生まれた。けれど自分はその流れと逆行するかのようにシンプルに一つの山の魅力を掘り下げることに喜びを感じている。

その理由はこの広いエリアで毎回旬な場所をあてにいく回遊スノーボードは楽しい反面でどこか落ち着かなかったこと。そしてもう一つは回遊と安全を毎回シェアできるコアな仲間ができにくいことだった。要するに「いつものアレ」が足りなかったのだ。その感覚は例えばバイキングであれもこれもかいつまんでみたところで、どこか満たされない感覚にも似ていた。また、これまでの旅の経験に置き換えても、地元に根ざしたローカルコミュニティーの中で遊ばしてもらった時の方が充実感は得られるものだった。さらに自分の好きなバックカントリーに踏み入れる際に、最低でも1週間を遡ったコンディションの把握か、本当に信頼できる情報を得られなければそこに立ち入ることはしない。それは、毎年起こる大規模な雪崩や自然の神秘と脅威とを幾度となくこの目で見てきたからだろう、私は山が好きで、山が怖い。

ホームマウンテン

白馬ブームの始まり。2014年くらいからワールドクラスのスノーボーダーが次々に白馬のバックカントリーを目当てに訪れるようになる。 セージ・コッツェンバーグ、2018年。写真:遠藤 励

ホームマウンテン

自然の営みに人は逆らうことはできない。雪崩もまた山の一部なのだ。写真:遠藤 励

安全管理の施された一つのスキー場でゲレンデベースに構え、良いコンディションの日も悪いコンディションの日も一つの山の中で楽しさを見出す。

いつもの山だからこそ見えてくる雪質やコンディションの変化。変わりゆく気候の変化も含めそこから蓄積されるリスク回避の知恵や安心感。いつもの景色、いつもの顔ぶれ。お気に入りの沢や秘密のポイント。ゴンドラの圧雪ルートは累計で何万回滑っただろうか。毎年見かけるリフト乗り場のスタッフ。そんな日々の中で巡り合うことのできるメモリアルな体験は自分にとってかけがえの無い財産だ。

遠く世界を巡っていても、自分はあそこに帰るんだっていうのが心の片隅にはある。「いつも」それがホームマウンテン。

山がたとえ小さくても心のウエイトとしては大きく、「また明日」とか「また遊びにおいでよ」と自然の中で人と繋がる場所が暮らしのサイクルにあることが大切に思えるようになったのだ。そして自分はずいぶん前にその存在に巡り合えていたことに感謝したい。

このホームマウンテンをベースに取り組んだ遠藤励のドキュメンタリー作品もあわせてご覧ください。

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