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完全なる静寂を求めて

モニカ・プレレ  /  2022年11月16日  /  読み終えるまで7分  /  トレイルランニング

世の中に、そして心の中に、静けさを見つける方法を探索するひとりのランナー。

光の筋と音の気配。

全ての写真:Steven Gnam

早朝の森の小道で、霧に包まれた高い木々のあいだから太陽の光が差す。空気はしんとしている。落ち葉が敷かれたトレイルはやわらかく、雨上がりの地面はまだ湿っている。自然の音が奏でるコーラスを聴きながら、一歩ごとにゆっくりと、一日になじんでいく。虫が鳴き、蛙が歌い、鳥がさえずる。葉から落ちる水滴が林床をやさしく叩き、小川はゆるやかに流れて泡を立てる。私の心は鎮まっていく。だがすぐに、朝はその日の忙しさに取って代わり、世の中は目を覚ますにつれて、刻々と騒がしくなる。

私たちの生活は雑音に満ちている。窓の外では自動車のアラームが鳴り、エンジンが唸り、救急車が叫ぶ。手元ではEメールの着信音がピーンと響き、携帯電話が鳴る。たとえ気にしていなくても、雑音は積もり積もって大きな負担となる。私たちはノイズキャンセリングのヘッドフォンを付けて音楽を聴き、さらに音で音をかき消す。甲高い騒音がないときも、ブーンという低雑音はつねにある。世の中がうるさすぎると感じる人は少なくない。

完全なる静寂を求めて

静寂は減る傾向にあり、新しい世代はその前の世代よりも多くの雑音を耳にする。地球の人口が増えるにつれて人間の移動も増え、街道や高速道路や飛行機の数も増える。街から郊外に広がるスプロール現象は、まさに逃れたいという願いとともにある。世界保健機関によれば、騒音公害はストレスや不安や鬱の原因となり、また低周波騒音に長期間さらされると身体的にも精神的にも疲労困憊するという調査結果もある。しかし私たちの日常生活を妨害するのは騒音だけではない。私たちの思考、これもまた雑然としている。

ニュースの大半を占めるのは混沌だ。パンデミックは形を変えつづけ、気候変動は大惨事に次ぐ大惨事を引き起し、住居費は急騰。自分の体について決断を下す女性の権利は最近の米連邦最高裁の判決によって覆され、この記事を執筆している2022年前半の時点では、ロシア軍がウクライナの人びとを殺している。

私には、走ることだけがこうした雑音を静めてくれる。それが必要だと感じる。いや、それは必要なのだ。

自然の音は神経系の調節に役立つ。ワシントン州にあるオリンピック国立公園のホー・レインフォレストには、北米有数の非常に静かな自然の場所がある。音響生態学者であり自然の静けさの擁護者でもあるゴードン・ヘンプトンは、そこでの静寂を守るための活動に取り組んできた。

完全なる静寂を求めて
完全なる静寂を求めて

オリンピック国立公園は3,625平方キロメートル以上の面積を有し、その95パーセントが指定原生保護区域となっている。ホー・レインフォレストには米国本土最大級の原生林が群生し、ヒロハカエデ、ハンノキ、スギ、ベイトウヒ、ベイマツ、リコリスシダ、ヒカゲノカズラなど、そして草や低木に覆われている。公園内には1,200種の植物と300種以上の鳥類が生息し、15本の河川と200本の小川にはサーモンが遡上して産卵する川もある。

飛行機や人間の声や不自然な音に妨害されることなく自然の静寂を20分以上体験できる場所は、世界中にごくわずかしか残っていない、とヘンプトンは確信する。彼はホーの静寂を守るため、航空会社に飛行経路の変更を働きかけた。この公園には領域を分断する道はなく、遊覧飛行もない。ほんの数センチ四方でもこの自然の静けさを守ることにより、さらに周辺地域も恩恵を受けることを期待している。

しかし私たちが静けさを求める場所や、静かだろうと考える原生地域の環境にさえ、雑音はある。誰かが側を通り過ぎれば彼らの声が風に乗って聞こえ、駐車場では車のドアを開け閉めする音が響く。はるか彼方の自然ですら完全な静寂ではない。山岳氷河、熱帯雨林、湖沼、渓流もかなりの音を発生し得る。木々からは葉が落ち、雨や風や鳥なども静寂を破る。サハラの砂丘は微音を発することで知られている。ホー・レインフォレストでは苔から絶えず水が滴り、ハクトウワシの甲高い鳴き声が森を取り巻く音を切り裂き、一陣の風が梢の葉をざわつかせながら通り抜ける。

地球上最も静かな場所とは、世界の遠隔地でごくまれにしか見つけられない広大な空間だ。だから、私たちのほとんどは完全な無音状態を体験したことがない。

完全なる静寂を求めて

ワシントン州レッドモンドのマイクロソフト本社にある無響室は、世界で最も静かな場所と言われている。音響機器のテストに使われるこの部屋は背景雑音マイナス20.6デシベルで、音の反響がまったくない。しかし完璧に無音の場所でさえ人間の耳は非常に敏感であるため、聴覚の神経線維の自発活動の増幅が引き起こされる。『TheSoundBook』の著者トレヴァー・コックスによれば、人体は無響室ででさえ抑制できない内部音を立てる。私たちは自分の心臓が鼓動し、血液が循環し、食べ物を消化し、耳鳴りがするのを聞く。これはときに「耳をつんざく」ような体験だとも言われる。

そうして私は、真の静寂というものをどのように定義できるかを考えはじめた。それはおそらく音がない状態ではなく、雑念がない状態、つまり心を鎮めることではないだろうかと。これはサイレント・リトリートや日々の瞑想という形で数世紀にわたって実践されてきた。瞑想は平穏や身体的リラックスや精神バランス、また健康全般を向上させることが証明されている。どのような瞑想でも呼吸に集中し、内なる静寂を体験するために雑念を払う。私は走っているときにその感覚を得る。作家の村上春樹はそれを「空白の中を走る」と言う。

完全なる静寂を求めて

走りはじめはたいてい気が急いている。土は固く凍っていて、空気はピリッと冷たく新鮮だ。足の下で枯れ葉がパリパリと音を立てる。リズムができて調子が整う。数回深呼吸する。スギやモミやマツの香りが漂う。そして目覚めた瞬間のパニックやその日のやることリスト、自分自身を孤立させる状況などを解き放ちはじめる。走っているあいだも川は流れ、その流れとともに心の雑音が薄れていく。目まぐるしい世界は脳内の自然なしじまにかき消される。すべてはゆるやかに、一歩ごとに時のなかを漂う。これが完全なる静寂だ。私は何も考えない。何も考えないのは快い。たぶん、いつも無音である必要はない。たぶん、こんな静寂が必要なだけ。森はしんとしたまま。川と私だけが流れ、走る。


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