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ケリー・コーデス  /  2018年10月3日  /  読み終えるまで9分  /  クライミング

ケアン・ゴーム山頂の岩に向かって進むサイモン。 Photo: Kelly Cordes

久しぶりのことだった。普段ならこんな天気では登らずに、暖かい部屋でコーヒーを飲むだろう。しかし、僕はホワイトアウトの中へ律儀に踏み出す。ケアン・ゴームの高地に向かい、コンパスを持ったサイモンについていく。彼はある岩を探していた。その岩から懸垂下降し、目指す壁に取り付くのだ。

僕が前回、ホワイトアウトの中でアルパインルートに取り付いたのは13年前(登っている最中にホワイトアウトに捕まったのではなく、だ 。この違いは大きい)。そのときもスコットランドだった。2005年のBMC(イギリス登山評議会)ウィンター・クライミング・ミートで、海外のクライマーが地元のクライマーとペアを組むことになっていた。米国から来たスティーブ・ハウスと私をホストしてくれたのは、僕の友人のイアン・パーネル。雪を吹き飛ばす横なぐりの強風の中を1時間も歩くと、一面、白いものに覆われた壁がホワイトアウトの切れ目に覗いた。「コンディションはいいね!」イアンは1メートルも先から僕に叫んだ。

スコットランドの伝説的なミックスクライミングについては、もちろん聞いたことがあった。雪のような白いもの、恐らく氷がへばりついている壁の写真も見たことがあった。

「すばらしい!」と僕は叫び返した。「あの雪みたいなのは使えるだろ?」

「残念! そんないいものじゃない。あれをかき落として岩を登るんだ」と、イアンは言い、風から顔をそむけながら基部へと向かった。

スコットランドへようこそ。

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スゴア・ルアド高地(スコットランド)に立つサイモン・リチャードソン。Photo: Kelly Cordes

2005年のクライマーズ・ミートで、僕はサイモン・リチャードソンに出会った。彼はスコットランドのミックスクライミングの達人で、国内で彼が初登したウィンタールートは約700本。ペアを組んで出かける前、彼は少しすまなさそうに「ベン・ネビスで未踏のラインを探ってみる気はないか」と尋ねた。そのルートが登れるという保証はない。状態が悪いかもしれないと心配しているのだ。彼はそのラインを過去8年も観察しているが、まだ登れていない。つまり、十分に白くなっていなければ、ルートは十分な冬の状態ではないので(冬の状態でなければ、もちろん冬季初登にはならない)、登れない(正式な法律でなければ、スコットランドクライミングの不文律か何かによって)。しかし彼は、今日こそ大丈夫ではないかと思ったらしい。8年を経て、ついに十分な氷をかき落としてベン・ネビスに新しいルートを作れるかもしれない。謝る必要なんてない。「よし」と僕は言った。「行ってみよう」

ベン・ネビスのその新しいラインに、アイススクリューを打ったかどうかははっきり覚えていない。しかし、ピツクをクラックにねじ込み、エッジに引っ掛け、チムニーを吹き下ろしてくる強風の中でフード越しに目を細め、渦巻く風の中で少しずつ前進していったことはよく覚えている。そして、どこかのピッチでサイモンがビレイ点まで登ってきて、「プロテクションはハンマーで叩き込んだ方がいい。ちゃんと決まっていなかった。落ちたら全部飛んでしまう」と僕に言った。

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実際、この白いやつも多少は支持力がある。スクリューを打てるようなところはめったになく、全体重を支えるには心もとないけれど、コロラドの乾いた砂とは違う。ばらばらの塊が凍ってくっつくのは良いが、霜の上で滑ることがあるからカムは慎重にセットしたほうがいい。ヘックスとナッツは、ハンマーで打ち込めば、十二分に信頼に足るプロテクションになる。最も重要なのは、強風、湿雪、凍って溶けてのサイクルがボマーターフスティックに向いたコンディションであること。ターフから泥と水分が染み出し、湿雪やみぞれと一緒に凍る。悲惨と言うしかない。

スコットランドでは、悪天候で登るか、一切登らないかのどちらかだ。

ここで、この2018年の旅の前日(後の苦労を知るよしもなく、週末はエディンバラ・マウンテン・フィルム・フェスティバルを楽しんだ)のことを思い出した。サイモンと、彼の友人でクライミングパートナーのロジャー・ウェッブ、そして僕の3人は、夜明け前の小雨と風の中を出発し、3時間歩いた(帰りは2時間)。スゴア・ルアドのレバーンズ・バットレスと呼ばれる北向きの壁を7時間かけて登るためだ。しかしコンディションは最悪で、もしそこに固定アンカーがあって、自分のクローンがいたら、逃げ帰っていただろう。しかしサイモンはいつものように、新ルートにトライしたいようだ。彼は57歳。家族を養って、最近エンジニアを退職し、新ルート開拓に熱中している(すでに700本以上)。未知の世界への冒険で、しかも見慣れたお気に入りの風景とくれば、行かないわけにはいかない。歩き始めてすぐ、彼は見上げ、立ち止まり、姿勢を整えたかと思うと、ガイドブックを出してくれと頼んだ。既成のラインを確認しようと言うのだ。ガイドブック?「道理でバックパックが重いはずだ」と、ロジャーがぼやきながら分厚い本を引っ張り出す。スゴア・ルアドは、サイモンが知り尽くしていない数少ない場所。だから本を入れていたのだ。

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サイモン。Photo: Cordes collection

僕は横目でロジャーの反応を見た。変化なし。まったく普通。雪が空に舞い上がり、ここへ来るまでの夜道を思い出した。車の後部座席でうとうとしながら、サイモンとロジャーが議論するのを聞いていた。エンジニアと弁護士の対決。新ルートと既成ルートのバリエーションとはどう区別するか。眠かったので、誰が何を主張して、誰が勝ったのか(たぶん勝負はついてない)忘れたが、夏のロッククライミングのルートが冬のミックスクライミングのルートとかぶることがある、という話題は覚えている。「あれは、夏にも冬にも登った数少ないルートだよ」と、ロジャーは言った。「緑のぬるぬるが凍ってるから、冬のほうがずっと楽だ」

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「着いた」と、サイモンが突然言った。ケアン・ゴーム高地の頂上。僕には何も見えない。雪の中に岩が突き出ているだけ。

「高地のこの場所は地形上の特徴が少ないため、崖を踏み外さないよう注意が必要」と、サイモンは、このクラッグについて著書『Chasing the Ephemeral』に書いている。この本は昨年のバンフ・マウンテン・フェスティバルで最優秀ガイドブックに選ばれた。彼は巧みな構成で50本のルートを解説し、スコットランドの特色と不思議を伝えることで、読者を成功に導いている。「僕は上手なクライマーじゃないが、山を知り、理解している」とサイモンは言っていた。そのとおり。人工壁のボルダリングコンペから離れていくにつれ、単に難しいところを登れるだけが良いクライマーの条件ではなくなる。

何年も前、谷の反対側を歩いているときに、サイモンはこのケアン・ゴームのクラッグ、クリーガン・チャノを発見した。

一瞬、雲が切れ、壁が見えたので彼は驚いたという。過去に人が登った記録はない。誰も見たことがなかったからだろう。しかし、道を知っていて(または知っている人と一緒で)崖を踏み外さなければ、車を降りてたった1時間半のハイキングである。昨日からまだ足が痛むから、それがちょうど良かった。

僕たちは雪を掘り進み、岩に巻きつけたアンカースリングを見つけた。「なあサイモン、こんな場所がほかにいくつあると思う?近くに人がいるときに雲が切れなきゃ見つからないだろ」

彼はにやりと笑った。「いい質問だな」そして、ビレイデバイスにロープを通したかと思うと霧の中に消えた。

クラシックルートの基部まで、ロープを引きずりながら雪の壁を地道に越えていった。前日と同様、比較的やさしいクライミングだったが、スコットランドの冬のクライミングに、本当に簡単なことなどない。崖の高さはそれほどでもないが、どれもミニチュア版アルプスと言ってよく、挑戦的かつ個性的だ。たぶん、だから僕はクライミングについて詳しく書いてこなかったのだ。超絶テクニックなど関係ないから。石灰岩のポケットホールドでギリギリのムーブを繰り出すとか、ジムの上級課題をクリアするのとは違う。登っていく途中、僕は壁に顔を近づけたことがあった。霜に覆われた塊が、実は無数の氷のかけらでできていて、繊細で、美しくて、まるで広大な宇宙の中の惑星のようだった。僕は、うれしさと、自分のバカな発想に笑い、次の冷たい強風で再び身を縮めた。

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ジェンガ・バットレス(ケアン・ゴームのクリーガン・チャノ)の万年雪をかき落とすケリー・コーデス。Photo: Simon Richardson

翌日、やっと寒さから解放された。飛行機の中の固い椅子。濡れた重い層のような雪が降り、次にみぞれ混じりの雨が降り、除氷作業が終わるまで出発は遅れた。僕はしばらく窓の外を見た後、座って目を閉じた。頭の中では、極北の太陽が荒れ地を照らし、雲の切れ目から入り江が見えた。穏やかな静けさ。フードからのぞくサイモンの笑顔も思い出した。

エンジンがうなり始めた。次は太陽でいっぱいのスペイン。完璧な石灰岩の壁とボルト。天候は間違いなく良好だろう。しまった。どうせスペインまで行くのなら、一気にシウラナまで行きたい気分だ。だが、順序を守らなければ。

スコットランドの天気が悪いから、ではない。なんと言っても「緑のぬるぬる」を凍らせてくれるのだから。

この記事はkellycordes.comからの転載です。

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