失われたライン

ルカ・アルブリシ  /  読み終えるまで8分  /  スノー

イタリアの山々を通じて、スノースポーツの影響を追跡する。

スキーリフトではなく、スキントラックが続く。イタリアのコルティナ・ダンペッツォでは、2026年の冬季オリンピックに向けて、新しいリフトの建設がはじまり、スキー場のインフラは整備は進む。しかし、リフトを建設するために、この森を人工的に切り拓く必要がある。問題は、イタリアが実際にどれだけのスキーリフトを必要としているか。ということだ。

すべての写真:マッテオ・パバナ

ラインはどこにでもある。それらは地形や人類の痕跡を残し、境界とつながりの両方を定義する。

スキーやスノーボードの世界で、基本的なシンボルであるこのラインは、僕らの憧れの軌跡であり、僕らの夢を描いている。計画、登高、滑走するプロセスは、冬を愛する者の心を虜にする。

しかし、開発や気候変動などにより、そのラインは永久に失われてしまうことがあり、私たちは、手遅れになるまでその損失に気づかないことがよくある。

2021年初頭の数か月の間、消滅の危機にあるラインをたどるため、写真家のマッテオ・パバナと共に、イタリアンアルプスのドロミテとアペニン山脈へ旅にでた。雪上につかの間の痕跡を残し、僕らが得たものは、多くのラインが永遠に失われてしまう前に変化を促す必要があるという確信だった。

失われたライン

アルプス山脈の高山地帯は、気候変動とスキー場の拡張により危機に瀕している。抵抗にもさまざまなやり方がある。ただスキーをし、このような最後の野性地を楽しむことも1つのやり方だ。僕と友人は、イタリアのドロミテの最高峰マルモラーダを滑降する。

終焉:マルモラーダでの抵抗

寒さを逃れ、僕はトレンティーノ地方のピアン・デイ・フィアッコーニ山小屋の片隅にしゃがみこんでいた。正確には「小屋跡の片隅に」と言った方がいいかもしれない。今回の旅は、終焉の地からはじまる。この山小屋は、所有者のグイド・トレヴィザンとともに、イタリアでも有数の地形を有するマルモラーダの広大な山肌にロープーウェイを建設しようとする人々に対する抵抗のシンボルとして、何年も前から存在していた。

グイドは瓦礫をよけて中に入る。荒れたその両手は、ゆっくりとした山暮らしに捧げられた年月が表れている。グイドは、待ち合わせ場所として、あるいは、歓迎や交流の場として、この小屋を営んでいた。小屋に通じる立ち乗り式リフトが閉業した時でさえ、グイドは経済的な影響があるにもかかわらず、その再建に反対した。そして昨冬のはじめ、雪崩が小屋を襲い、わずかにその痕跡を残すのみとなった。

失われたライン

「混沌は自然の法則であり、秩序は人間の夢であった」―ヘンリー・アダムス。2020年12月、マルモラーダ氷河で夜間発生した雪崩の後のピアン・デイ・フィアッコーニ小屋。イタリア、トレンティーノ・アルト・アディジェ州。

グイドは梁をどかし、かつて壁にピンで留めてあった古い写真を拾い上げた。そこにはこのエリアで最初の着席式リフトが写っている。グイドは、雪崩のわずか数日後に新しい開発業者がヘリで現場を視察した時のことを話してくれた。業者はその少し前にロープーウェイの建設許可を買い取っており、雪崩の通り道の真ん中にそれを建設することに、安全上何の問題もないことを確認しようとしていたという。

失われたライン

ピアン・デイ・フィアッコーニ小屋のオーナー、グイド・トレヴィザン。グイドは、小屋主としての経済的な影響があるにもかかわらず、マルモラーダのようなヨーロッパ最後の生きた氷河にスキーリフトを建設させまいと戦っている。

僕らはグイドがかつて家と呼んだ暗い骨組みを後にし、雪に反射する陽光のまぶしさに目が慣れるのを待った。僕は振り返り、パウダースノーに恵まれた今日1日、友人らと共にたどってきたラインを見上げた。そしてこの氷河の上にロープーウェイが舞い降りて、新しい人工的なスキー場が造成される様子を想像しようとした。

グイドは小屋に背を向けて扉を閉め、僕に向かって微笑んだ。これで終わりにするつもりはないようだ。

失われたライン

客観的な危険性:気象変動とアダメッロ・ブレンタ自然公園セロドリ山下部の危険地帯。その両方をルカ・アルブリシは乗り越えようとする。

アウトドアの権利:セロドリでの気付きと行動

その日は2月中旬にしては異例の暖かさで、太陽にさらされた斜面が雪を吐きだす轟音が遠くで鳴り響いていた。僕は谷の反対側にあるマドンナ・ディ・キャンピグリオとブレンタ・ドロミテスを眺めながら、そこでスノーボードを教えていた頃のことを思い出す。当時は暇さえあれば、わずかな新雪を求めて森へ逃避行したものだ。

数年後、別の谷へ移り住んでから、お気に入りだったスノーボードのラインを探しに、キャンピグリオを再訪したことがあった。しかし、そこで目にしたのは、記憶していた崖や木々の間の回廊ではなく、森を貫通する広々とした急こう配の整備された滑走コースだった。

セロドリ近くの谷を横切る。この辺りは、まだリフトの魔の手が及んでいない数少ない場所の1つだ。この場所の無垢な美しさは、アダメッロ・ブレンタ自然公園の一部を成し、冬も夏も大勢の人々がバックカントリーに訪れる。

現在進行中のリフト建設計画は、今のところ、地元のいくつかの活動家グループによって阻止されている。僕はその中の1つ「The Outdoor Manifesto」の立ち上げをサポートした。セロドリの山頂からふもとの湖へ滑り降りながら、この残された無垢な自然を新たなリフト建設から守るために、僕らひとりひとりがどれほど努力すべきかを感じている。

失われたライン

ルカ・アルブリシは、地元民がこの30年で最も寒いと言ったその日、イタリアのファナーノの近くのブナの森で神秘的な体験をした。最近では、これらのブナは2月下旬になるまで雪の毛布で覆われることがない。

凍結の中の融解:モデナ・アペニン山脈のはかないライン

ファナーノのバーでは、この冬の寒さがどれほど厳しいかが語られている。僕らは温暖化がアペニン山脈に及ぼしている急激な影響を記録するために南下した。しかし、ファナーノの冬を、ここに住むスプリットボード仲間のレッロは、この30年間で一番寒いという。短期的にはよい知らせだが、それは長期的な傾向を反映していない。

時系列的にみると、1961年以降に記録された最も暑かった年の10年のうち、8年がここ10年に集中しており、気温が平均よりも摂氏1.26~1.71℃も高くなっている。ファナーノでは、最も寒くなる数か月間の平均気温は2~7℃であり、降雪は次第に稀になっている。「この10年間に、人工雪でしか滑れない、あるいはそれさえも不可能な冬が、何度もあった」とレッロは言う。「もちろん初雪もどんどん遅くなっている。スプリットボードをやるのに2月末まで待たなければならない冬もあった」

僕らは今のこのコンディションを最大限に生かし、めったに滑れなくなったラインを再発見しようと決断し、地面の新雪と見分けがつかない濃霧の中を出発した。小川を横切り、雪化粧したブナの間をスキンで登高し、時おり立ち止まっては、それらのはかないラインの上でブナが風にそよぐ音に耳を傾けた。

翌朝、日の出とともに起き、リブロ・アペルトまでスキンでハイクした。その高く大きな山塊では、イタリア最大級のスキー場をオープンするために、無数の新たなロープーウェイが計画されている。この辺りの山頂では、しばしば刺すような風が吹きつけるが、今日も例外ではない。ブナ林を越えると、厚いクラスト層があった。僕は山頂を見上げ、ふと思った。これらのラインを僕らはもう長くは楽しめないかもしれない、それなのにこれほど大規模で、しかもそのほとんどが公的資金による投資を、どうしたら正当化できるというのか。

失われたライン

自宅があるチェレンティーノ(イタリア、ヴァル・ディ・ペイオ)の山中で、著者は立ち止まってこのエリアのほかの訪問者の足跡を観察する。彼らを邪魔し、冬のエネルギー貯蔵を妨げることは、その命を奪うことになりかねない。

はじまり:ステルヴィオ国立公園で動物の足跡に敬意を払う

ステルヴィオ国立公園のヴァル・ディ・ペイオにある自宅裏の森で、僕らは雪の中にしゃがんで足跡を調べていた。カモシカの一種シャモアのものだ。一緒に同行しているのは、この地域に詳しい山岳リーダーで公園ガイドのガブリエル・カネッラだ。パウダーを滑る僕たちのトレースは、人間と自然の関係性、サステナビリティ、土地管理をめぐる議論のきっかけになる。今日の議論は、この足跡によってはじまり、その多くはルートのはじまりにある。

人々が自然の中に残すスキーやスノーボードのラインは、何も影響を与えていないと思うかもしれないが、ガブリの説明によると、必ずしもそうではない。この冬は降雪量が多く、寒かったため、動物たちにとっては食料を見つけることが難しい。しかも厚い雪の吹きだまりの中を移動するため、より多くのエネルギーを消耗することになる。登るにせよ降りるにせよ、人間の行動により、動物が逃げだし、致命的な結果を招くことも少なくないという。

僕らは立ち上がった。これ以上は進むまい。時には、まったく痕跡を残さないことが、新しいラインのスタートになることだろう。

詳しくは、パタゴニア・ヨーロッパが2021年に制作したショートフィルム「Vanishing Lines」をご覧ください。この作品は、ヨーロッパアルプスの高山地帯を舞台に、開発業者がスキーリゾートやインフラを拡大するために残された氷河を侵害していく様子を描いています。気候による災害が顕著化する中、その全てが明らかになります。

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