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マラマ・ホヌア:ホクレアの希望の航海

ジェニファー・アレン&ジョン・ビルダーバック  /  2017年4月4日  /  読み終えるまで8分  /  コミュニティ

40年以上航海してきたホクレア号は、ポリネシア中の島のコミュニティで航海カヌーの再生を刺激してきた。Photo: John Bilderback

「ヘ・ワア・ヘ・モク、ヘ・モク・ヘ・ワア」はハワイの格言で、「カヌーは島であり、島はカヌーである」を意味する。

いまから数百年前、航海カヌーはポリネシア人が島々で生存するためのツールであり、それにより食料を探し、新たな土地に定住することができるようになった。カヌーでの生活は陸地での生活の縮図だった。生き延びるために人びとは互いをいたわり、カヌーを大切にする必要があった。今日この真理を最も明白に表しているのがハワイの双胴型航海カヌー、ホクレア号だ。

ホクレア号は近代計器を使わず、太陽、月、波、鳥、風、星という自然の指標だけを頼りに帆走する。これは純粋な持続可能性の実践のひとつであり、そのミッションはひらめきに満ちている。2014年5月にヒロで進水して以来、ホクレア号は3つの大洋と4つの海、11の異なる時間帯を横断し、50以上の港に寄港しながら、海の健康と私たちが共有する地球という島を大切にするコミュニティを結びつけてきた。この世界航海は「マラマ・ホヌア(地球を大切に)」として知られる。

いまから40年以上前ホクレア号は、ハワイ人が先住民の知恵に通じ、ハワイの島々が持続可能で独立していた時代に戻る手助けをする目的で建造された。1970年代初頭の時点では、学校ではフラが禁止され、海の歌はワイキキの観光客に合わせて書き換えられ、ハワイの母語はささやくようにしか話されなくなっていた。民族が踊りや歌や言語を失うと、民族全体の魂の一部である歴史や物語を失ってしまう恐れがある。そして 1973 年、アーティストで郷土史研究家のハーブ・カワイヌイ・カネ、熟練ウォーターマンのチャールズ・トミー・ホームズ、人類学者のベン・フィニーの 3 人が、「ポリネシア航海協会」を創設した。彼らはかつてポリネシア人が航海の達人で、意図的にハワイ諸島を発見、定住したことを証明したかった。ポリネシア人は潮の流れに乗って漂流しながら偶然ハワイにたどり着いた、という通説をくつがえしたかった。そして航海知識を取り戻し、植民地化によって弱められた文化をよみがえらせようとしたのだ。ポリネシア航海協会の望みは、ハワイ人が強さと知恵とスピリットを再発見する力になることだった。

そもそもの計画は航海カヌーの複製を建造し、貿易風を横断しながらタヒチへと帆走するというもので、ハワイで口述、文書、描画などの歴史的文献やペトログリフを頼りにカヌーと帆の形を研究。そして東ポリネシアの巨大な双胴型航海カヌーを徹底的に調査して数トンの人と物を輸送できるように設計し、ついにホクレア号を完成させた。それは合板とファイバーグラスと樹脂を使用した全長62フィート(約19メートル)の双胴型カヌーで、2本のマスト、クラブクロウセイル、はしご用の大櫂、6メートルの広いデッキを備え、すべて8本のクロスビームと8,000メートルの繋索で結び付けられていた。モーターの装備はなし。だが古代の航海を忠実に再現するためには、近代計器を使わずに帆走しなければならなかった。

そして、彼らを先導してくれる誰か、ホクレア号の船長ブルース・ブランケンフェルドが言うように、数世紀前に使われていたことをハワイ人がふたたび学べるよう「時のカーテンを開けることのできる誰か」が必要だった。

マラマ・ホヌア:ホクレアの希望の航海

すべての繋索の結び直しを含め、数か月間にわたってドライドックでさまざまな作業が施され、ホクレア号は来たる世界航海への準備に向けて海に戻る。Photo: John Bilderback

マラマ・ホヌア:ホクレアの希望の航海

Photo: John Bilderback

マラマ・ホヌア:ホクレアの希望の航海

故郷の海に再進水するホクレア号の横で肩を寄せ合う乗組員。オアフ島のマリン教育トレーニングセンターにて。Photo: John Bilderback

マラマ・ホヌア:ホクレアの希望の航海

世界航海を前にハワイでの最終港となるヒロへ向かってホノルルを発つホクレア号。Photo: John Bilderback

時のカーテンを開けるということは、ミクロネシアのカロリン諸島のサンゴ環礁、サタワル島へ行くことを意味した。そこにはポゥとして知られる熟練航法師のピウス・マウ・ピアイルックがいた。古代のウェイファインディング航法を理解しているのはほんのひと握りのミクロネシア人だけで、マウ本人以外の誰もがよそ者には教えたがらなかった。マウは現代の航海士がかつて見たことのない航海術を知っていた。当時23歳の乗組員だったナイノア・トンプソン船長は、これを学ぶことを切望した。

「海が読めれば、決して迷うことはない」マウは言った。

マウは海のうねりの異なる8つのパターンを解読できた。船体に横たわり、船を打つさまざまな波を感じながら、風の方向とカヌーを進ませる方向を察知した。夜明けには水平線を見てその日の天気を、夕暮れには明朝の天気を予測した。強風に流されながら、あるいは嵐の夜、安全な港や陸地からはるか遠い沖合で、マウは新米航海士の心を落ち着かせた。マウは航海士の目をじっと見つめてこう言った。「おまえが灯りなのだ。家族を家に導く灯りは、おまえのなかにあるのだ」と。

これを魔術と呼ぶ者もいた。ブルースはこれを「マカアラ」、つまり「慎重で洞察力に鋭く、覚醒した状態」だと見なす。

マラマ・ホヌア:ホクレアの希望の航海

ヒロでマストのずっと上方にある月を見ながら、航海士たちは船を進水させて帆を広げる適時のサインを待つ。Photo: John Bilderback

マラマ・ホヌア:ホクレアの希望の航海

Photo: John Bilderback

砂に石や貝殻やヤシの葉を配置して、マウはナイノアのためにスター・コンパスを再現し、星が水平線から昇り、やがて水平線に沈むのを見ながら識別方法を教えた。マウは風系や雲の読み解き方、陸へ往復する海鳥を理解する方法を教えた。また、大洋の形の調べ方、波の「個性」の読み方を教えた。波に沿って走る太陽の進路のさまざまな幅と色相の識別方法も教えた。マウは彼が「海との会話」と呼ぶ航法師の言語を、ナイノアに伝授していた。

1980年、数シーズンにわたって研究に専念した末に、ナイノアはマウを乗せてホクレア号でタヒチへと航海した。こうしてナイノアは、14世紀以来ハワイからタヒチまで近代計器を用いずに航海した、初のハワイ人となった。

現存する5人のハワイ出身ポゥ航法師は、皆マウに任命された。それはナイノア・トンプソン、ブルース・ブランケンフェルド、チャド・オノヒ・パイション、ショーティ・バーテルマン、そしてカレパ・バイバイヤンである。

マラマ・ホヌア:ホクレアの希望の航海

トンガの険しい崖沿いを走るホクレア号。Photo: John Bilderback

マラマ・ホヌア:ホクレアの希望の航海

地元の子供たちにハワイのスター・コンパスの指針の原則を教える、ポゥ航法師チャド・オノヒ・パイションの妻ポマイ・バーテルマン。Photo: John Bilderback

マラマ・ホヌア:ホクレアの希望の航海

アオテアロア(ニュージーランド)のワイタンギでの到着式典に参加する、ポゥ航法師でありホクレア号の船長であるブルース・ブランケンフェルド、ナイノア・トンプソン、カレパ・バイバイヤン。Photo: John Bilderback

マラマ・ホヌア:ホクレアの希望の航海

アメリカ領サモアでストーリーや歌を共有し、学生に世界的な運動「マラマ・ホヌア」への参加を呼びかける乗組員。Photo: John Bilderback

マラマ・ホヌア:ホクレアの希望の航海

オーストラリアのケアンズで風を待つホクレア号。Photo: John Bilderback

「ポゥは生活の模範だ」とカレパは言う。ポゥであることは鳥、動物、魚、海、空気、地球、そしてすべての人間を含む、生きとし生けるものと深くつながっているということなのだ。

「マウの最大の教えは」とカレパは言う。「我々はひとつの民である、ということだ」

地球規模のオハナ(家族)の自覚こそが、地球の健康の鍵となる。アメリカ領サモアでオニヒトデ駆除の代替手段を探す若い海洋科学者、地震探査から海を守るために戦うマオリ族の首長、農薬やトラクターや燃料を使わずに地域社会に食料を提供する方法を学んだキューバの都市型農家など、ホクレア号の世界航海は、マラマ・ホヌアに仕える一家族として私たちを結びつける希望のストーリーを発見しつづけている。

「世界が共有する地球をいたわるのは、先祖代々ハワイの伝統」母国についてナイノアはこう語る。「ホクレアはいわば花を集める針であり、ハワイはその花でレイを縫い上げ、平和の印として地球に捧げるのだ」

『マラマ・ホヌア:ホクレア─希望の航海』(2017年パタゴニアより英語版刊行予定)から抜粋。

詳細はhokulea.com(英語)をご覧ください。

これから5回にわたり、『マラマ・ホヌア:ホクレア─希望の航海』(2017年パタゴニアより英語版刊行予定)からの抜粋をクリーネストラインにてご紹介していきます。

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