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海が教えてくれた私の生き甲斐と、サーフィンが教えてくれた私の生き方

武知 実波  /  2017年8月18日  /  サーフィン, スポーツ

「生き甲斐」について考えてみる。国語辞典によると、「生き甲斐」とは、「生きるに値するもの。生きていくはりあいや喜び。」であるそうだ。私はこの「生き」る「甲斐」を、海に教わってきたように思う。1歩水に足を入れる。陸にいたときに、見栄や欲でできた鎧を背負っていたことに気づく。父が削ってくれた、私だけのボードに乗り、沖へ向かう。いったん海に入れば自身も自然の一部と化す。海は不要なものを私の体からおろしてくれて、そして教えてくれる。自分がどんなに無力であるか、そして自然との同調こそ最も人間的で自然的、そして合理的であるということを。

海と関わり合って生きていく。その過程で経験することのすべてが私の生き甲斐であり、きっとこれからもそう。海と私をつなげてくれたのは、大好きな両親。そして両親が海と関わる仲介役に選んだのが、「サーフィン」だった。徳島県阿南市で生まれ育った私は、幼少期から両親と弟と海に向かう日々を過ごした。契機は8歳のとき。いまでも覚えているのは、あるときパッと「サーフィンしたい」という文言が降りてきて父に宣言したこと。私のサーフィン人生はここからはじまった。中学2年生から世界ジュニアサーフィン選手権の日本代表を4年連続経験し、高校3年生のときに日本プロサーフィン連盟公認のプロサーファーとなり、同年ルーキーオブザイヤーを受賞した私は徳島大学に入学し、海外のツアーをおもに転戦する。たくさんの勝ち負けを経験してきたが、海外に出ることで試合の何十倍もの数の、新たな場所、人、文化、慣習、そして経験と出会うことができたことこそ最大の財産であり、それらがいまの私を形作っている。

そして、サーフィンに恩返しをする。「私に多くを経験させてくれて、さまざまな物事に対して考えるきっかけを与えてくれたサーフィンに恩返しをすること」 これがいまの私が掲げる目標のひとつだ。今日は私が考えるそのことについて、少しお話ししたいと思う。

2020年東京オリンピックでの追加種目としての開催が決定したサーフィン。業界にとっては本当に素晴らしく喜ばしいことで、私自身いちサーファーとして、サーフィンが他のメジャー競技と肩を並べる日が来ることを心から祝福している。サーフィンといっても、行い手によってその関わり方は十人十色。私は、「競技スポーツ」、「レジャースポーツ」、「生涯スポーツ」の3つの側面をもっていることが特徴だと考えている。私のように選手として試合に出場する競技スポーツの要素、家族や友人とイベントのような感覚でサーフィンスクールなどを通して経験するレジャースポーツの要素、そして一生を通じて健康、生活の質の向上のために行われる生涯スポーツの要素。サーフィンは各々が自分に合った付き合い方をすることができる、適応性の高いスポーツだ。

大学時代に友人たちとともに徳島大学で大学公認サークル「徳島大学サーフィン部」を立ち上げたのも、このようないくつもの利点のあるサーフィンの魅力をひとりでも多くの人びとに知ってもらい、興味をもってもらいたいという目的だった。徳島の魅力である自然をいちばん身近に感じられるサーフィンを通して、徳島、サーフィン、自然の魅力を共有したい。大学院生となったいまも、その魅力を部員皆で共有する日々を送っている。けれども私がサーフィン部を設立した目的は、サーフィンの魅力の発信の他に、もうひとつあった。それは教育現場へのサーフィンの導入である。徳島大学で英語教育を専門として学ぶ過程で、人を育む教育が他の分野においても重要であることを感じ、教育現場にサーフィンを導入することこそ、サーフィンの今後の発展に必要不可欠であるという考えにいたった。そして卒業研究として「サーフィン活動の学校教育への導入方法とその効果」を研究した。研究からはサーフィンを教育カリキュラムとして導入することで児童生徒の自己効力感は向上し、健全な発達に寄与する可能性をもつことが明らかになり、サーフィンを教育へ導入することの意義を再確認することができた。

この研究を経て、大学でのサークル活動だけでなく、実際に徳島において教育現場にサーフィンを導入する取り組みをはじめる。小学校での講演では、海外遠征を経験して学んだことに関して、夢や目標をもつことの大切さについて、また小学校のプールでのサーフィンスクールでは、実際にボードを浮かべて、サーフィンの基本となるパドリングとテイクオフを体験してもらい、サーフィンの楽しさを実感する機会を提供している。毎回子どもたちの純粋無垢でキラキラした眼差しに可能性を感じ、子どもたちがサーフィンを通して人生を豊かにするためのヒントを何かひとつでも吸収してくれたらと思う。少しずつ、でも確実に、サーフィンを伝える土壌ができていくことを喜びつつ、たんなるイベントで終わらせるのではなく、継続させることではじめて意味があるのだと思いながら活動をしている。

次のステップでは、対象を教育から地域に移していきたいと考えている。現在、徳島大学大学院で「サーフィン・ツーリズムを活かした地域活性化策の課題」という題目のもと、サーフィンを用いた地域活性化のための具体的施策とその効果について研究している。サーフィンがもつ、人びとを波のある遠方まで引きつける求心力は、地域活性化の起爆剤となり得る。国内においては千葉県一宮町や宮崎県日向市等が先駆けとなり、行政が主となってサーフィンを取り入れた地域活性化策を考案し、実行している。今後は研究を通してサーフィンが地域活性化に影響することを明らかにし、多くの人がサーフィンを通してさまざまな形で自然の中でのスポーツを好きになり、そのことが地域活性に結びつく形を作っていきたい。もちろんその中には教育現場も含まれていて、子どもからお年寄りまで、サーフィンを受け入れる地域作りができれば最高だ。

サーフィンができる海岸は世界中に存在し、いまだ前人未踏のブレイクもあると予想される。オーストラリアやアメリカなどサーフィン先進国を含む世界各地で、サーファーはサーフィンを楽しみ、つねに生活の傍に置いている。でもサーフィン先進国であるそれらの国の海岸と日本の海岸とでは大きな違いがある。それはサーフィンがその地の文化であるか否かということ。サーフィンにとって重要なのは、ただサーフィン競技人口を増やすことだけではなく、サーフィンができる素晴らしい資源を有する地域に、サーフィンを文化として根付かせること。そしてそれに向かって私たちサーファーが努力をするということだ。それは一朝一夕に成せることではなく、その地域の人たちとサーファーとの歩み寄りがあってはじめて動き出す。海は地のものである。誰のものでもないが、明らかなのは、海がその地域の一部であるということだ。文化としてその地にサーフィンを受け入れてもらうためには、サーファーがその地を理解し、発展に関与し、相互理解を深めることが最重要かつ最優先事項なのである。そのために、いまの自分にできることをひとつずつやっていきたいと思う。

私が望むこと。それは、サーフィンが正しく、良いものとして普及し、サーフィンによって人生に幸せを見出す人がひとりでも増えること。そして「サーフィンへの恩返し」については、そのゴールにたどり着くためにこれまでに述べた活動だけに留まらず、もっともっとサーフィンと向き合い、方法を考え、実行していきたい。日々自問自答しながら、プロサーファーとして戦い、講演し、研究している。

人生を波に例えて言う言葉がある。「一度来た波は二度と来ない」 サーフィンも人生も同じで、一度過ぎると二度と戻ってくることはない。その貴重な一生、儚い一瞬に価値づけできる方法は人によってそれぞれだと思う。それを探すことが生きる意味なのかもしれないし、答えなんてないのかもしれない。私の場合はサーフィンが人生を彩ってくれている。生き甲斐を与えてくれて、目標までもたせてくれた。まだまだ長い人生、山も谷もそれ以外の困難もあると思うけれど、この言葉をしっかりと心に刻み、自分にできることを日々探し、これからもずっとお気に入りのボードを携えて、失敗しても何度でも沖に向かって波に乗りつづけようと思う。私はそのことに何よりも幸せを見出している。

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