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NIYODO BLUE

高橋 宣之  /  2012年10月22日  /  アクティビズム, 環境

高知県はアジアモンスーン圏なのだとつくづく感じる。雨が多い。四国山脈にぶつかった分厚い雲は大量の雨となって森に降り、やがていく筋もの川の流れに姿を変えて太平洋を目指す。そのなかに仁淀川という高い透明度を持つ川がある。流路延長124キロ。四国では吉野川、四万十川に続く三番目に大きい川である。別段、風光明美な観光地があるわけではないが、それぞれの流域には古い風土の香りが漂っていて、少し大袈裟にいえば日本の原川をとどめた川なのである。高度成長期以前には全国どこにでも見られたごく普通の川だが、いまではこんな川はめっきり少なくなった。

仁淀川を撮影しはじめてからずいぶん年月が経ってしまった。それでも私は飽きることなくこの川に通い、カメラ片手にせっせと季節のかけらを拾いつづけている。飽きない理由は、多分取り巻く自然と季節の移ろいがあの手この手で私を楽しませてくれるからだろう。言い換えると、無数の小さな感動が流域のあちこちに散在しているからである。身震いするような神秘的な風景や、茫然と立ち尽くすほどの荘厳な光景などはめったにあるものではない。そんな深い感動は数年に一度あればいい方で、日常の撮影のなかでは皆無である。しかし小さな感動はどこにでもころがっていて、それが不意打ちのようにほぼ毎日現れるからおもしろくてしょうがない。森の奥のひそやかな場所で出会う花々。紺碧の滝壺。梢の向こうのオリオン。止水に映る雲。凄味をおびた稜線の月。ピーンと音のするような夜明けの大気。透き通った静寂や風の匂い。例をあげればきりがない。

私の仕事から見ると、めったに出会うことのない深い感動よりも、日々のなかの小さな感動がはるかに大切なのである。だいたい大きな感動を受けるときは、その場にいるすべての写真家が同じような写真を撮るもので、作品的には独自性に欠ける。一方小さな感動は人によってその対象が異なるので、結果的に個性的な作品を生むことが多い。独自の写真世界を表現したければやはり小さな感動がカギとなる。これは写真家に限ったことではない。アウトドアライフを豊かに過ごしたければ、この小さな感動の量が重要なのである。要は五感を総動員して自然を感じ、自然が放つかすかな言葉やメッセージに耳を傾けること。受信装置としての自らの感性に磨きをかけることが大切なのである。

それにしても仁淀川は美しい。流域には10万人ほどの人々が暮らし、家庭からは雑排水も流れ込んでいるはずだが、河口付近でも水の透明度はかなりの高さを保っている。いったいこの美しさはどこからきているのだろう。いくつか要因を挙げると、まず年間を通した降雨量の多さが考えられる。多少の水の汚れは豊富な水量によってすぐに希釈されてしまうのだ。2つめは源流点と海との高低差。西日本最高峰の石鎚山を源とする仁淀川は急流が多く、川は澱むことなく一気に海に向かって流れ込んでいく。ダムの存在を考えなければ、上流に降った雨は2日ほどで海に到達するといわれている。3つめは地質。上流部から中流域にかけて花こう岩、変成岩、堆積岩と比較的硬い岩石の層を見ることができる。どうやらそのおかげで水の濁りが少ないらしい。4つめは流域に暮らす人々の意識である。川は人々の心を映し出す鏡。川を愛する人が多いほど、川の流れは美しい。そして5つめに最も重要な森を上げることにする。幸いなことに仁淀川上流域には広大な原生林地帯があり、年中清冽な水が生まれつづけている。仁淀川の美しさはこの森のおかげといっても過言ではない。青く美しい水を探すと、いつも行き着くところは森になる。私にとって「水」と「森」は同義語のようなものなのである。

最後にこの川の岸辺で出会った小さな物語のひとつをご紹介したい。それは源流のわき水を見ようと沢を登りはじめたときのこと。突然1羽のミソサザイが私の行く手をさえぎるように枝に止まって鳴きはじめたのである。ミソサザイは体長10センチほどの小さな野鳥。しかしその体からは想像もできないほどの大声を発する鳥でもある。そんな鳥が手の届くほどの近くで、フルボリュームで鳴きだしたのだ。ギーギーと聞きなれない警戒音で何かを訴えているようすにも見える。そのうち、もう1羽のミソサザイもやってきて私の耳元で合唱しはじめたから大変である。何かがおかしい。鳥との距離があまりにも近すぎる。異変を感じて後ろを振り返り、そしてようやく彼らの不可解な行動の意味を知ることとなった。10メートルほど後方で1匹の蛇が彼らの巣を狙っているのが目にとまった。ミソサザイは大声で私に助けを求めているのだった。「雛があぶない」とっさに流木を手にした私は巣に向かって駆け出していた。それから蛇を木切れの先にからませてエイッとばかり下流の方に放り投げた。蛇はブーメランのように回りながら滝壺に落ちていった。蛇の行方を確かめようと滝の上の岩場に上がったが、その姿はどこにもなかった。気がつくと足元に2羽のミソサザイがちょこんととまって、私と同じように岩場から身を乗り出すように下方を眺めている。このときミソサザイと私は仲間のような、連帯感のような感覚で結ばれていたように思う。なんの警戒心も持たない彼らは、しばらくのあいだ私の登山靴の横から離れることがなかった。

森は再び静けさを取り戻し、私は上流に向かって歩きはじめた。野生の水脈は細くなり、流れはたおやかな樹林帯の一画に吸収されはじめていた。おなかをすかした蛇にすまないことをしたが、泳ぎの達者な蛇のこと、いまごろはきっと元気に森の中を動き回っているだろう。私は不思議な安らぎに似た気分で、岩肌を伝って落ちる流水を見つめていた。あの日の小さな出来事と、鈴の音のような水音を今でもはっきり覚えている。

高知県を流れる仁淀川。日本一の水質を誇るこの川は、そのあまりに美しい青の水を「仁淀ブルー」と称えられている。そんな仁淀川の表情を、四季を通じて何万通りも収め続けてきた高橋宣之氏のライフワークの結晶といえる一冊『NIYODO BLUE』(ブエノ・ブックス刊)。心打つ美しさとは言葉の説明もいらないことをアーティスティックに証明してくれる。

また、パタゴニア 東京・ゲートシティ大崎では高橋氏をゲストに招いて、氏が写し撮る美しい水の世界に触れながら、水の誕生から海へ流れ出るまでの物語をパタゴニアの環境キャンペーン 「アワ・コモン・ウォーターズ(共有の水)」の視点を交えてのトークイベントを開催します。

「NIYODO BLUE × OUR COMMON WATERS」
10月30日(火) 19:45~ (要予約:定員80名)
スピーカー: 高橋 宣之 (写真家)、篠 健司 (パタゴニア日本支社 環境担当)

お問い合わせ/ご予約はゲートシティ大崎ストアまで。

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