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瀬戸内海でオオミズナギドリの生態を追う

渡辺 伸一  /  2014年4月28日  /  アクティビズム, 環境

オオミズナギドリは、日本の海域で比較的よく観察できる海鳥だ。その繁殖地は世界で約60島が確認されているが、8割以上を日本列島が占めている。飛翔能力に優れ、1日で数百キロを移動できる。彼らの飛翔範囲を調べると、日本列島がすっぽりと収まることが分かる。

オオミズナギドリは、普段は海上で過ごし、小魚などを食べて暮らしている。子育ては陸地で行うため、3月になると繁殖地へ戻ってくる。産卵し雛が巣立つ10月まで、餌場となる海と繁殖地を行き来する。繁殖地は、北海道、本州、四国、九州のような大きな島にはなく、無人島や人口の少ない離島に限られる。大小約7千の島々がある日本列島のなかで、繁殖地に選ばれる島はわずか1%未満ということになる。はたしてどのような理由で、その島を選んでいるのだろうか。

オオミズナギドリの繁殖地は、伊豆諸島や三陸沖のように開けた海域で、豊かな漁場に面している。捕食者となるイタチなどの肉食動物が生息していない点も共通する。閉鎖海域であり、人間による活動の影響を強く受けてきた瀬戸内海には、オオミズナギドリの繁殖地はないとこれまで考えられてきた。しかし、2009年に鳥類学者の飯田知彦氏と市民団体〈上関の自然を守る会〉(〈長島の自然を守る会〉が2013年に名称変更)らの調査で、瀬戸内海西部の周防灘と伊予灘に面した山口県上関町長島の沖合5キロメートルにある無人島、宇和島にオオミズナギドリの繁殖地があることを確認した。福山大学海洋動物行動学研究室は翌年から、会とともにその生態調査に取り組んでいる。

8月上旬になると、ふ化した雛に餌を与えるため、オオミズナギドリの親鳥は海へ出かけて魚を捕り、夜間に繁殖地へ戻ってくる。調査の目的は、親鳥がどのくらいの範囲を飛び回って餌をとり、どのくらいの頻度で雛に餌を与え、その雛が成長するかという繁殖生態を明らかにすること。夜間に飛来する親鳥を捕まえて、小型のGPS記録計を取り付けて放し、飛翔する範囲を1週間ほど記録してから、装置を回収する。島でキャンプ生活をしながら、夜を徹して親鳥の帰りを待つ。無人島というと、楽しい雰囲気をイメージする人が多いが、現実は過酷だ。例えば、飲み水がない、平地がない、船で近付くことのできる穏やかな入り江がない。調査どころか、素人には上陸すら難しい場所だ。

そんな調査地で、私たちが頼りにしているのが地元のベテラン漁師、小浜治美さんだ。オオミズナギドリと同様、海を知り尽くしている。潮の流れや海底地形を把握し、海の怖さを知る小浜さん。わずかな天候の変化から危険を察知し、無理のある調査は決して許さない。そんな小浜さんの判断に守られて、私たちは無事に島へ上陸し、安全に調査を行うことができる。宇和島まで小型漁船で約40分。緊張感に包まれた船の上で、小浜さんが出してくれるサヨリやアジの干物は楽しみでもある。「鳥と同じものを食べてがんばれよ」というなんとも粋なはからいである。

なぜ動物の生態を調べる必要があるのか。その理由は、その動物の生活を詳しく知ることで、その環境をより深く理解することにつながるからだ。野生動物は我々よりも、ずっとその環境を理解し、そしてそれを巧みに利用している。我々の目に見えない環境の変化やその特徴を彼らの生活の様子から知ることができる。

他の繁殖地では、オオミズナギドリの親は、雛へ給餌するための餌を探し、数百キロ以上を飛び回る。一方、宇和島のオオミズナギドリの親鳥が餌を捕る海域は、宇和島を中心とした半径約50キロメートルの狭い範囲であることが明らかになった。また、そこは豊富な漁場として知られる海域でもある。こうした餌場がそばにあることが、宇和島が繁殖地に選ばれたひとつの理由かもしれない。一方で課題も多く浮かんできた。他の繁殖地の多くは、数千羽を超える親鳥が繁殖するが、宇和島ではわずか100羽ほどしか繁殖していない。さらに他の繁殖地では生まれた雛の8割ほどが巣立つのに対し、宇和島では6割ほどの雛が成長の途中で死んでしまう。その理由を明らかにすることが、我々のつぎの課題である。

このようにオオミズナギドリの生態調査を通じて、上関の周辺海域の特徴や課題が徐々に明らかになってきた。こうした研究成果は、現地で活動を行う〈上関の自然を守る会〉の協力なくしては得られなかった。私はこれまで希少動物を研究対象として扱うことが多かったので、自然保護団体と交流することもあった。しかし、そうした方々と協力して生態研究を行うことは実際には難しい。自然保護を最優先の課題とした場合、活動に使える情報が早く欲しい。人為的な開発に伴う環境破壊は、恐ろしいほどの速度で進行するため、一刻の猶予も許さないと考えるためだ。一方、生態学者は、自然の仕組みを理解することを研究の目的とする。そのため、いかなる場合も客観的な視点で自然を見て、記述する必要がある。自然の仕組みを理解するには、地道な労力と長い時間を要する。専門家といいながらも、数年間調査したくらいでは将来起こる環境の変化については何も予測できない。私やさまざまな研究者との交流によって、〈上関の自然を守る会〉の方々はいかに自然環境を評価することが難しいか、そして継続した調査の重要性をよく理解してくれていると思う。私も単に自然科学を追求するだけでなく、そうした成果を社会へどう還元できるのか、その可能性を考えるきっかけにもなった。

2011年に広島で開催された国際シンポジウム「奇跡の海を守ろう」(〈上関の自然を守る会〉主催)は、国内外の研究者が演者となり、上関の自然の豊かさと課題が一般市民へわかりやすく伝えられるものとなった。私も演者を務めたが、いつも調査を見守ってくれていた漁師の小浜さんが話を聞いてくれ、研究内容を高く評価してくれたのは何よりもうれしかった。その後の研究成果と今後の課題について、2014年8月には、さらに発展した内容についての国際シンポジウムを〈上関の自然を守る会〉が計画している。このように専門家とともに現地の調査を継続しつつ、研究者や一般市民とともに情報を共有して、課題を検討する取り組みが今後も必要だといえる。

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福山大学海洋生物科学科『海洋動物行動学研究室』の活動や最新情報はホームページFacebookでご覧いただけます。

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山口県熊毛郡上関町周辺はワシントン条約保護動物スナメリをはじめ、世界的に希少な貝類ヤシマイシン近似種やナメクジウオ、また国際自然保護連合(ICUN)のレッドリストで絶滅危惧種に指定され、日本で最も緊急に保護が必要とされている海鳥のカンムリウミスズメといった希少生物の宝庫です。〈上関の自然を守る会〉はその瀬戸内海の健全な自然環境を保護するため、また上関原子力発電所予定地の生物多様性とそれに生かされた人々の暮らしを守るため、専門家と連携しながら経年的、多分野にわたって調査/研究を実施しています。

パタゴニアでは「インターンシップ・プログラム」を通して、日本支社のダイレクトセールス部門のスタッフがグループで、昨年度に引き続き2013年6月から2014年4月まで計6回にわたり〈上関の自然を守る会〉の活動に参加、また年間を通してブログやウェブサイトのサポートを行っています。

過去のエッセイも合わせてお読みください。

最後の場所 by 篠 健司 (パタゴニア日本支社 環境プログラム・ディレクター)
奇跡の海 – 上関の海と人に魅かれて by 齊藤 知子 (パタゴニア日本支社ダイレクトセールス)

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