「富を共有する」方法についての取り組み

富を共有する;母グマが貴重な命を子グマに与える。Photo: Larry Travis/www.raincoast.org
パタゴニアのカタログを読んでいただいている皆さんは、もうすでに『Holiday Favorites 2010』にも目を通していただいたかと思いますが、興味をそそる数々のウェアとともに特集されているのが、第11回草の根活動家のための「ツール会議」に参加した環境活動家たちの紹介です。今日の投稿はこのカタログで取り上げられた活動家、クリス・ダリモントから寄せられました。クリスはブリティッシュ・コロンビア沿岸の陸地/水域/野生動植物の保護を目的とした自然保護論者や研究者で構成された団体〈レインコースト・コンサベーション・ファウンデーション〉の研究者です。
5月のさわやかなある朝、グリズリーの親子が雪の降る高地の巣穴から滑り降りてきました。母グマの頭にあるのは、芽吹いてきた植物でお腹をいっぱいにすることだけ。最後にした食事は何か月も前で、産卵しにきたサケから得たそのカロリーはとっくに消費されてしまい、彼女と彼女の大切な娘を生かしておくためのエネルギーはもはや残っていません。ちょうどそのころ、私たちのチームは彼らのいる場所から300メートルほど下の斜面を登っていました。グリズリーについて学び、そして守るためでした。
私たちは「グレート・ベア・レインフォレスト」の中心にいました。そこはブリティッシュ・コロンビア沿岸の、グリズリーベアとサケの豊富な生息地を有する地球最後の地域のひとつです。この場所を守るため、〈レインコースト・コンサベーション〉は応用科学や倫理的価値観を用いて、いわゆる「インフォームド・アドボカシ−(情報の理解に基づいた権利の擁護)」という観念のもと、最も緊迫した保護問題に取り組むために熱心な研究者たちを集めてチームを構成しました。私たちが探し求めているのは「富を共有する」ための解決法でした。
「富を共有する」というのはグリズリーの健全な存続のために、彼らに十分なサケを分け与えるということです。なぜこれがむずかしいことなのでしょうか。なぜなら減少するサケの個体数と多種多様な脅威(産卵域の破壊や開放水域での謎、そしてサケの養殖やそれにまつわる病気など)といった現実にもかかわらず、産卵域に向かうサケは商業漁業によっていまだ大量に捕獲され、その結果人間はクマだけでなく、サケに頼るすべての食物網のエサを奪い取っています。
私たちは幼稚園で共有するということを学ばなかったでしょうか。人間はそれらを共有すべき生き物のなかで最も多くのサケを捕獲し、他の多くの生き物たちのエサを奪っているのです。
では私たち人間はどうすれば良いのでしょうか。〈レインコースト・コンサベーション〉ではクマやこの海岸の食物綱のために最良の情報、つまり自分たちで収集した情報を用いて、政治に働きかけています。あの朝設置しようとしていたのはヘアートラップ装置で、それはクマを襲うことなく彼らの毛を採取する装置です。毛はDNA情報を提供してくれるため、クマの個体数を確認したり、個体数の減少の前兆を早い時点でとらえたりすることができます。毛を化学分析することにより、個々のクマがどれだけのサケを消費しているか、あるいは彼らのストレスレベルや繁殖活動、そして可能性として飢餓の状態なども推定できるのです。
クマは毛やデータ以外のものも残していきます。私たちの遠隔装置カメラは彼らの妙な行動をとらえ、その画像は世界中で共有されています。

レインコーストに住むグリズリーの生活の稀な映像。Photo: Raincoast Conservation Foundation



研究結果は漁業経営関係者や一般に早急に共有しています。私たちはニュース番組にも出演し、政策会議や市民集会にも出席します。そこで自然界に対する人間たちの責任を頑固に指摘します。私たちには科学の力や法的手段、そしてあふれんばかりのエネルギーと情熱があります。世の中もこのことに気づき、同じものを求めはじめています。富を共有するときが来たのです。
あの朝、斜面を登りきった私たちは装置を設置する前に腹ごしらえをしていました。そこは理想的な場所、つまりエサが豊富なクマの移動場所でした。私たちには1、2頭のクマが私たちに出会うためにドシンドシンと降りてくる様子が容易に想像できました。
その想像はまさに現実のものとなりました。私たちの100メートルほど上で、立ち止まった母グマが匂いを嗅いでいました。何も知らない子グマは母グマのお尻に突っ込み、あともう少しのところで、私たちが腹ごしらえをしていた急斜面へと母グマを押し倒すところでした。母グマの強靭な肩と頑丈な爪により、幸運にも、そのシーズン最大となったであろう災難を回避したのでした。その代わりに親子グマは座って、奇妙にも、私たちが仕事をする様子を見守っていました。
私たちはそれ以上彼らの邪魔をすることは止め、慌ただしい作業のなかでできるだけ最善を尽くしました。そして私たちの仕事は素早く、完全なものでなくてはならないと同時に、関係者や一般を説得できるものでなければならないことをあらためて思い出しました。そうすればこのような素晴らしいクマたちに囲まれながら、ますます不確かなものとなっていく未来に向かって充実した人生を送るという恩恵に恵まれるのではないかと思うのです。
−クリス・ダリモント

「富を共有する」ための〈レインコースト・コンサベーション〉の提言についての詳細は、 NorthernView.comの共同編集による「Including Wildlife in Fisheries Management Just Makes Sense(漁業管理に野生動物を組み込むことは理にかなっている)」もご覧ください。