遊びつづけるための2つの修理
年が明け、本格的なスノーシーズン真っ只中になりました。パタゴニア社内でも雪山に出かけたスタッフからのさまざまな体験を耳にする毎日です。同時にカスタマーサービスへもスノー製品の修理に関するお問い合わせが入ってくるようになり、パタゴニアの製品でスノースポーツをさまざまに楽しまれる皆様の様子を感じています。
そんな私はといえば、冬ももっぱらサーフィン。スキーやスノーボードをすることはありません。仲間の雪山でのストーリーには頷く程度ですが、愛着のある製品が傷ついてしまった話には、思わず身を乗り出してしまいます。使用しているサーフボードやウェットスーツが意図せず損傷してしまったときは、ギアとはわかっていながらも、とても落ち込みます。またそれらを修理に出し、その帰りを待っているあいだは、海に出られず、なんとももどかしい気持ちになります。プロの修理に出せば、その豊富な知識と技術で愛着あるギアの機能を完全に取り戻すことができ、ふたたび快適にサーフィンできます。しかしながら、それにはある程度の期間が必要です。サーフィンをはじめたばかりのころは、自分の技術や知識が未熟だったばかりにギアを壊してしまうことも多く、しょっちゅうギアをサーフショップへ修理に出していました。そしてその間に最高の波が立ち、海に入れず悔しい思いをしたことがよくありました。
いまでも忘れることのない6年前の冬、台風シーズンも終わり、乗りなれたロングボードを修理に出していたとき、最高に決まった波が湘南に訪れました。新たに挑戦していた短めの板を車に詰め込んでポイントに向かったものの、その波のサイズとその板を扱えるだけのスキルが足りず、眺めて満足する気持ちと、悔しい思いが入り混じったなんともいえない時間を過ごしました。当時良く入っていたポイントで、波の特徴も分かっていただけに、乗りなれていたそのボードだったら楽しめたはずでした。
そんな経験を重ねるうちに、サーフボードやウェットスーツはできる限り自分で修理できるようにしました。私がサーフボードの修理をするのは、日差しが強い春から秋にかけてです。波がないときに庭にサーフボードを出して、傷ついた部分を紙やすりで削って養生をし、傷口は樹脂とガラスクロスを用いて、日光にさらして硬化させます。硬化するまでは時間がかかるのでビールを飲みながら待ち、硬化したら紙やすりの番手を変えながらきれいに磨くと、ピカピカに仕上がります。ウェットスーツもフィンがあたって切れてしまうことがありましたが、接着剤を使用してふさぐことができます。ただ接着剤だけだとまた同じ箇所が破れてしまうこともあるため、慣れない手つきで縫製を施すこともありました。さらにいい波が立ったときはいつでも海に行けるよう、日々製品のメンテナンスも心がけるようになりました。
現在、パタゴニアのスノー製品でスキーやスノーボードを楽しんでいる皆様のなかにも、私と同じような体験や経験をお持ちの方が大勢いらっしゃるのではないでしょうか。
パタゴニアは丈夫で高機能で、部分的に擦り切れることのないウェアやギアを作ることを目指してはいますが、そうした製品でも使用を繰り返していれば、物理的な損傷を受けてしまうこともあります。バックカントリーでのツリーランで製品が木の枝に裂かれてしまうこともあるでしょう。長年の仕様でエッジガードが破れてしまうこともあるでしょう。焚き火の火の粉で穴をあけてしまうこともあるでしょう。私たちは破損した製品を修理します。機能性を取り戻すだけでなく、出来上がりの美しさも考慮して、お客様にふたたびフィールドで安心してご使用いただけるよう、あらゆる修理に応えます。
鎌倉の由比ガ浜のほど近くにあるパタゴニアのリペアサービスでは、プロの修理スタッフたちが、たとえば破損した部分に同じ、または類似の生地やパーツを用いて製品機能を回復するといった修理を、年間14,000件ほど承っています。スノー製品や、あるいは冬のあらゆる遊びで大活躍するダウンや化繊のインサレーション製品によくある修理は、破れや穴あき箇所のあて布修理などですが、インサレーション製品ではジッパー交換などもよくあります。一方、スノー製品に特有な修理には袖口のベルクロ交換などがあります。基本的には使用頻度や摩擦が多い部分の修理がほとんどで、お客様にはパタゴニア製品をギアとして、よくお使いいただいていることが伺えます。スノー製品の修理のご依頼は、他の製品と比べて決して多くはありません。もしも「こんな修理は無理だろう」と思われて、修理に出すのをためらっていらっしゃるのでしたら、まずはご相談ください。どうしても修理不可能なものもあります。けれども、私たちができることはすべてします。
パタゴニア・ブックス刊『レスポンシブル・カンパニー』の序文で、著者のイヴォン・シュイナードとヴィンセント・スタンリーはこう書いています。
「パタゴニアは日本にも店舗を展開していますが、日本市場で成功するためには、品質の基準を高く設定し、それを守る必要があります。欧州の顧客や特に米国の顧客なら気にしない程度の妥協も、日本の顧客は許容してくれません。だからパタゴニアでは、昔から、「日本基準」を満たす構造と縫製にしなければならない、を合い言葉としてきたのです。」
そうした「日本基準」は私たちの修理技術にも確実に生かされています。修理を承ったお客様からは、「修理といっても、こんなに見た目よく、美しく直していただけるのですね。びっくりです」、「仕上がりがきれいで、ていねい。修理した製品の質や機能にも安心です」といったコメントをいただいてます。
送られてきた修理品に関しては、できるだけ迅速に対応するよう務めています。限られたシーズンをできる限り楽しんでいただきたいからです。国内においては、たとえば雪山を滑れるシーズンは限られています。けれどもシーズンのはじめに修理が必要な状況が発生することもあるかもしれません。なるべく早くお客様へ製品をお戻しし、愛着ある製品でシーズンを引き続き楽しんでいたけるようベストを尽くしたいと思うのは、アウトドアアクティビティを愛するパタゴニアのスタッフにも共通の思いです。しかしながら修理に出せば、いつやって来るかわからない「ザ・デイ」を逃してしまう可能性はゼロではありません。そうなったら、製品を傷つけることになってしまった状況も、修理に出したことも、後悔することでしょう。そして次からは、修理はせず、「買い換える」という選択をする方もいるかもしれません。
パタゴニアのスタッフのなかには、製品が損傷してしまったときの一時しのぎとして、ダクトテープや市販のリペアテープで処理を施す人も多くいます。それはお気に入りの製品でシーズンを最大限楽しむためのひとつの方法です。もちろんアウトドアアクティビティではウェアやギアが生命の危険に繋がることもあるので、その機能性はしっかりと考慮する必要があります。
パタゴニアのWorn Wearプログラムは着ることについてのストーリーを祝い、皆様にギアを長く使っていただき、修理不能になったパタゴニア製品を簡単にリサイクルするための方法を提供するプログラムです。ウェアやギアの損傷を防ぐためには、製品のメンテナンス方法を知り、普段からお手入れをすることも重要です。それにより機能性の低下や劣化速度を軽減することができます。きちんと適切なお手入れをしている製品とそうでない製品の寿命は数年ほども違ってきます。さらにパタゴニアはiFixitのエキスパートたちとパートナシップを組み、ご自身でできるパタゴニア製品の修理ガイドも公開しています。環境への意識が高まっているとはいえ、現在でも多くの 「モノ」が消費しては捨てられていますが、自身のライフスタイルやアクティビティを最高のものにしてくれる製品を思いやり、お手入れや簡易修理、またプロの修理などを通して、お気に入りの製品に思い出を刻み、長年連れ添って、アクティビティを楽しんでいただきたいのです。
「新品よりもずっといい」これは昨年実施したパタゴニア直営店でのWorn Wearイベントで再認識したことでした。パタゴニアのお客様のなかには、購入されてから10年以上愛用されている製品をお持ちの方も多くいらっしゃり、その製品とともに過ごした旅や経験した出来事などをお話いただく機会がたくさんありました。また修理にお持込いただいた製品が大切な方からの贈り物であるなど、お客様の思い出が製品に詰まっていること、さらにその大切な思い出を製品とともに大切にされていることを、あらためて知ることができました。同時に、私たちリペアサービスの面々が担っている重さを、ひしと感じることができた機会でした。
最後に、今シーズンもスノー・アクティビティを楽しむすべての方が安全で最高の時間を過ごせることを心から願っています。