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ひとつの川を救う:減少するホー・リバーのスチールヘッド

コリン・ワイズマン  /  読み終えるまで12分  /  アクティビズム, フライフィッシング

エルワ・リバーは20年ものあいだダムがなかった。その一方で、オリンパス山の山腹からオリンピック半島の西端の太平洋まで流れるホー・リバーは、その大部分がオリンピック国立公園内を流れるため、州内でも数少ない流れの途切れない川のひとつだ。Photo: Colin Wiseman

“自然は無料で昼食を与えてくれる。私たちが欲望を抑えさえすれば”

—ウィリアム・ラッケルズハウス、米国環境保護庁初代長官

僕の小指ほどの小さなギンザケが静かに陰で漂っている。川床の砂と見分けがつかないくらいだが、プロ・スノーボーダーのマリー-フランス・ロイは、バックカントリーで1週間を過ごしたあとにようやく目にしたサーモンに目を光らせる。彼女は故郷であるブリティッシュコロンビアのユクルーレットで生息地改善作業のボランティアをしている。

マリーはしゃがんで稚魚を指差すと、「もっといるわ。すごく澄んだ水……」とささやく。

稚魚はワシントン州にあるホー・リバーの小さな淵の水深15センチほどのところで、僕たちの気配を感じながらも、冷静に振る舞っている。この野生魚は、ここオリンピック国立公園で生き残る方法を学び、やがて太平洋へと回遊する。うまくいけば、数年後には産卵のためにホー・リバーに戻ってくる。

これはマリーと、プロ・スノーボーダーのケール・マーティンと僕が8日間のマルチスポーツのアドベンチャーに出てから最初に目にした魚だ。僕たちは7日前の6月半ば、エルワ・リバー河口からオリンピック山脈山腹の豊かな氷河へとマウンテンバイクをこぎはじめた。氷河に着くとギアをスプリットボードに変え、しばらくトレイルを歩いてからシールを付けてハイクアップし、数日後にオリンピック山脈最高峰のオリンパス山の山頂(2432メートル)からホー氷河へとスノーボードで滑降した。回復中のエルワ・リバーを水源までたどり、山に登って下ったのち、健康なホー・リバーを太平洋までたどった。

ひとつの川を救う:減少するホー・リバーのスチールヘッド

オリンピック山脈での8日間のトラバースの7日目、ホー・リバー・トレイルの上流沿いを下るマリー-フランス・ロイとケール・マーティン。湿ったスノーボード・ブーツをやっと脱ぎ、乾いた靴に履き替えて温帯降雨林を歩いていると、夕日が原生林を金色に染めた。Photo: Colin Wiseman

僕たちの第1の目的は20014年に歴史的なダム撤去が完了したエルワ・リバーの回復状況を見ることだった。第2の目的はホー・リバーの現状の観察。オリンピック半島最大の群れが遡上する川ではないものの、ホー・リバー固有のスチールヘッドは、14キロにおよぶ大きさと強力な遺伝子で知られている。

しかしホー・リバー、とくに野生のスチールヘッドは攻勢のなかにあり、おもに大量捕獲や養殖魚との競争など、個体数は数々の問題に直面している。ホー・リバーは衰退する野生のスチールヘッドの個体数を救う闘いの中心地なのだ。

稚魚がいる場所から川下へマリーと向かっていくと、急な渓谷に白っぽい青色の水が流れ、やがて地形が緩やかになり、川幅が広がる。全長80キロの川には豊かな砂州があり、サケ科魚類は本流または593平方キロメートルの流域を取り囲む岩山から下る自然のままの広大な支流網にレッズ(サケ科魚類の産卵場所)を作る。流域の大半はオリンピック国立公園内にあり、連邦政府の保護下にあるこの922,650エーカーの原生温帯降雨林は年間最大3.6メートルの降雨量を記録する。

ひとつの川を救う:減少するホー・リバーのスチールヘッド

健康な川は気の向くままに流れ、川岸に水をみなぎらせ、流れを完全に変える。細く突き出た石の陸地は川を塞いでいるように見えるが、実際は水が移動するための空地である。Photo: Colin Wiseman

「国立公園はホー・リバー流域の58パーセントを保護している」とオリンピック国立公園の水産生物学者主任サム・ブレンクマンは言う。「生息地の観点から見ると、上流は最高の状態だ。野生のスチールヘッドはオリンピック国立公園だけでなく、その他の地域にとっても貴重な資源であり、また生態学的、文化的、そしてレクリエーションにおいても重要性が高い。遡河魚にとって国立公園は極めて重要な保護区になっている」

公園の外でさえ、ホー・リバーは驚くほど遠隔地にあり、川から最も近い人口約2万の町ポート・アンジェルスまで車で2時間かかる。そしていまのところホー・リバー流域には孵化場はない。

孵化場がなく、またスチールヘッドの個体数が比較的豊富なことから、ホー・リバーはまったく混じり気のない野生魚の回復力に関する有力なデータを収集する理想的な場所となりうる。かつてシアトルに拠点のある〈ワイルド・スチールヘッド・コーリション (WSC)〉の生物学者だったディック・バージは2010年の論文でそれを提言した。オリンピック半島は太平洋北西部に残された屈指のスチールヘッドの生息場所である、ということが同時に問題を招く。野生魚はますます増えるアングラーと闘いながらホー・リバーの産卵場所へと遡上しなければならず、冬のスチールヘッドの個体数は減少している。〈WSC〉によるとホー・リバーでの野生のスチールヘッドの遡上数は、1920年は推定35,000〜59,000匹だった。現在では、ワシントン州野生生物局(WDFW)のデータによれば通常4,000匹以下で、2016〜2017年は冬のスチールヘッド数は2,300匹以下に落ち込んだ。産卵のチャンスは捕獲を逃れた魚だけにある。これは生物学者が「エスケープメント(遡上親サケ数)」と呼ぶ数字で、WDFWのホー・リバーにおけるエスケープメント目標は2,400と比較的低く設定されているが、それでもこの10年間で4年しか達成されていない。

ひとつの川を救う:減少するホー・リバーのスチールヘッド

2011年、オリンピック半島北端にあるワシントン州のエルワ・リバー・ダムは米国史上最大のダム撤去として注目を浴びた。3年後にはグラインズ・キャニオン・ダムが撤去され、遡河性の若魚は100年以上経ってついにエルワ・リバー全長を泳ぐことができた。Photo: Mark McInnis

「エスケープメント目標を更新するための科学は遅れている。スチールヘッドの生態に関するさまざまな向上や情報も見逃している」と〈トラウト・アンリミテッド〉の自然科学ディレクター、ジョン・マクミランは言う。同グループはWDFWと連携し、情報の更新に有効な超音波装置の購入を目指したものの、財政支援はわずか2年で中断された。「エスケープメントを見積もる科学的根拠に信頼性がないと、捕獲数の設定は非常に難しい」

さらに人の行動による可変要素が加わると、設定はより複雑になる。たとえばホー族は昔からホー・リバー河口で魚を捕獲してきた。それはこの地方に暮らす先住民である彼らの連邦権利であり、ホー・リバーのサケ科魚類は貧困に苦しむ地域社会の重要な収入源でもある。ホー族の漁師はおもに刺網を使って魚を捕獲するが、これは魚が網のなかで死に、捕獲の前に網から落ちる脱落死亡率が高く、しかもこの数は先住民族の割当量に含まれない。もっと効率の良い漁法を先住民族の漁場に導入することも可能だが、ホー族には連邦漁獲権があるため、厳しい制約を課すことはスポーツフィッシングに比べてむずかしい。そしてもちろん、スポーツフィッシングに問題がないわけではない。

「近年アングラーの数が増え、魚の個体数が減少している」とマクミランは言う。「アングラーが増えたのはピュジェット湾やその他の漁場でのスチールヘッド釣りが禁止されて、アングラーがここに集まるからだ。WDFW の推定では、2014年にホー・リバーを遡上して生き延びた魚はアングラーに平均1.4回釣られている」

〈WSC〉のディック・バージによると、キャッチ&リリースによる死亡率は10パーセントに上るという推計があり、その大半は釣り針や取り扱いによる怪我が原因となっている。さらに捕獲によるストレスや手あらいアングラーによる産卵床の破壊が重なり、その結果、魚の繁殖力が衰える。

「ホー・リバーは愛されすぎているんだ」と〈ワイルド・スチールヘッド・コーリション〉の創設メンバー、リッチ・シムズは言う。「僕自身生涯ずっとここで釣りをしてきたし、これからもときおり釣りをつづけるつもりだ。でもいずれ止めるべきときが来るだろう。問題は、アングラーが1匹の魚を釣っただけで満足できるかどうかだ。現状を覆すためにはスポーツフィッシングのアングラーの習慣と期待を変え、また先住民族の商業捕獲をより持続可能な選別法に変えなければならない」

ひとつの川を救う:減少するホー・リバーのスチールヘッド

エルワ・リバーから(つかの間の休止のあと)太平洋へ下る若魚。Photo: Mark McInnis

一方、孵化場の問題もある。ホー・リバーには孵化場はないが、この100年のあいだに州や連邦政府運営の孵化場が周辺河川に数百万匹の魚を放流してきた。それにともない養殖魚と野生魚の混在特有の問題が発生する。魚はかぎられた餌をめぐって争い、また野生魚と養殖魚の交配により養殖魚の遺伝子が流入し、遺伝子プールが傷つく。

養殖のスチールヘッドを一掃することはサケ科魚類の復元計画の一環として有望であることが、近年アメリカ西部の数々の川でわかってきた。かつてスチールヘッドの拠点だったピュージェット湾のスカジット・リバーでは2009年に冬の野生のスチールヘッドの遡上数が2,500以下に落ち込んだ。しかし同年からのスチールヘッド釣りの一時停止と、2014年の養殖魚の放流中断の訴訟、そして継続的な生息環境の改善努力により、現在では年間推定6,000〜8,800匹の野生魚が遡上するまでに回復した。それにともない2018年に一定区間でキャッチ&リリースの釣りが解禁となった。さらに養殖のスチールヘッドを川から取り除けば、サケ科魚類の回復に取り組む科学者により重要なデータを提供することになる。

ひとつの川を救う:減少するホー・リバーのスチールヘッド

オリンピック半島、そしてここで釣りをするアングラーは、秘密の守り方を知っている。ワシントン州にある名もない川を産卵場へと向かうスチールヘッドの群れ。Photo: Jed Weingarten

しかしその実現には、より一層の努力が必要だ。マクミランと同じようにシムズも、有力なデータを手はじめに資金を費やして自然捕食率を計算し、超音波技術を用いてより正確な個体数を把握することを提言するが、これはさらに多くの資金を要する。可能な資金源のひとつはオリンピック半島のアングラーと釣りガイド、とくに大金を使って州外からやって来るアングラーやガイドに対する遊漁券の値上げだ。現在州外のスポーツフィッシング・ガイドの許可証はわずか760ドルで、1日のガイド料と大差がない。

「いまやオリンピック半島は州外からの釣りガイドやアングラーの人気の目的地である。カナダやその他の漁場にならって利用者に使用料を課すべきだ」とシムズは言う。「魚へのプレッシャーを緩和できるかどうかはわからないが、少なくともホー・リバーに超音波装置を配置してモニタリング技術を向上したり、法律執行を強化するなど、僕らがやろうとしている試みの資金集めにはなる」

こうした意見は往々にして地元経済支援をめぐる論議を呼ぶ。しかし魚がいなければ、そもそも釣りがもたらす経済など存在しない。著名な環境保護主義者デービッド・ブラワーが言うように、「死んだ地球でビジネスはできない」

「誰もが魚の回復を望んでいる。ただ、実際に自分たちの行動を変えるとなると、誰も犠牲を払いたがらない」とシムズは言う。

ひとつの川を救う:減少するホー・リバーのスチールヘッド

野生の川は野生的なことをする。エルワ・リバーの氾濫による道の崩壊を目にし、オリンパス山へ自転車で行くことの中断を検討するマリー-フランス・ロイとケール・マーティン。Photo: Colin Wiseman

現状では、ホー・リバーは太平洋北西部で野生のスチールヘッドの個体数を回復できる可能性の高い屈指の川で、これまでにさまざまな協力を得てきた。たとえば〈ウエスタン・リバーズ・コンサーバンシー〉は〈ホー・リバー・トラスト〉と〈ネイチャー・コンサーバンシー〉と米国魚類野生生物局と連携し、太平洋と比較的安全なオリンピック国立公園のあいだを移動する魚を保護するため、20年間にわたってホー・リバー下流域を囲む10,000エーカーの森林地を入手し、被害の拡大を防いできた。また、ホー族も居留地内の生息地の改善に多大な努力を注いできた。注意深い観察と効率的な漁法の導入、そしてスポーツフィッシングが与える負担を軽減することにより、適切な生息環境を備えたその他の場所でも、持続可能で、さらには復元可能な野生魚保護の雛形の強化を達成できるかもしれない。

マクミランは言う。「スチールヘッドのために自分の行動を変えられないとしたら、それは未来への悪い兆しだ。おそらくアングラーにとってはホー・リバーのスチールヘッドの個体数ほど重要なものはない。それにもかかわらずひとつの川さえ救えないとしたら、気候変動のようなはるかに大きな問題に私たちはどう対処できるのだろう?」

たしかに、地元レベルでの行動は広範におよぶ変化を引き起こす。ホー・リバーのスチールヘッドを救うことは、世界規模でのサケ科魚類の保護において、孵化場、捕獲、海況などのより大きな問題に関する対応の第一歩なのだ。

マリーとケールと一緒にホー・リバー沿いを下っていくと、公園のビジターセンターに近づくにつれて、ますます多くの人に会う。僕たちはいくつもの淵を横切り、冷たい水に漂うギンザケの若魚を見る。しかしスチールヘッドは1匹もいない。僕は広大なホー・リバー流域で自由に泳ぐスチールヘッドはいったい何匹いるのだろう、と思案する。

ひとつの川を救う:減少するホー・リバーのスチールヘッド

8日間で雪山、高山の牧草地、熱帯雨林を104キロメートル移動したのち、ホー・リバー・トレイルヘッドでギアを投げ出して祝杯をあげるマリー-フランス・ロイとケール・マーティン。Photo: Colin Wiseman

ホー・リバーをはじめ、危機にさらされた川と川を生息地とする野生魚を救うため、パタゴニアは長編映画『アーティフィッシャル』を制作しました。本映画では絶滅へと向かう野生のサーモン、魚の孵化場や養魚場がもたらす脅威、そして失われつづける私たちの自然への信仰について追求します。詳細はこちらをご覧ください。

オリンピック山脈でのコリン、マリー、ケールの旅についてはパタゴニアのウェブサイト「R1でデキたこと」をご覧ください。

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