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酒に唄う

寺田 優  /  2022年3月9日  /  読み終えるまで7分  /  食品

昔ながらの醸造の伝統を生かしつづける。

酒母を作るために蒸米、麹米、井戸水を摺り合わせる寺田本家当主の寺田優(中央)と蔵人たち。木製の桶と櫂と蔵の壁は酒母を増やし、麹米の糖分を食べてアルコールと乳酸に変え、発酵を促進する微生物を養う。蔵人は摺り合わせのリズムをとるために唄を唄い、微生物が元気よく発酵するよう促す。写真提供:寺田本家

全ての写真提供:寺田本家

17世紀から千葉県で日本酒を醸造してきた寺田本家は、パタゴニアプロビジョンズの自然派ワインのプログラムの一環として、酒を造っています。24代目当主兼杜氏である寺田優が、目に見えない微生物と調和することについて、そしてそれがなぜ彼の人生を定義づけるのかについて語ります。

寺田本家で生まれ育った妻の聡美を介して、2003年に私はこの醸造所に入りました。義父の啓佐は諸手を挙げて私を歓迎してくれ、よく夕食後には発酵についてだけでなく、善良な心を養うこと、会社経営、そして目には見えない世界を感じとることの重要性などを、1時間ほどもかけて教えてくれました。

この家族の一員になろうと、私は寺田の姓を継ぎました。寺田本家では婿が仕事を受け継ぐ伝統があり、私の義父もその先代もそうしてきました。醸造所をつづけてこられた理由はいくつもありますが、婿が入ってきて新しいことをはじめたり、目に見えない微生物との対話を可能にする精神を培ってきたことが、その要因のひとつだと思います。

私たちは米の収穫後の冬、伝統的な手法、つまりみずからの手で酒を造ります。私たちの方法のひとつである生酛造りは、蔵に住んでいる微生物を酒母として利用します。この伝統は300年前に遡ると伝えられています。

生酛造りは農薬や化学肥料を一切使用せずに地元の田んぼで育てられた、光と土壌のエネルギーに満ちた米からはじまります。すでに精米されて半透明になった米をていねいに洗い、表面の糠をきれいに取り去り、米が白くなるまで水を吸わせます。水は樹齢数百年の森に囲まれた神崎神社の麓にある、寺田本家の井戸から汲み上げます。古代の木の根や菌類のネットワークを通って井戸へと沸き、醸造工程に不可欠な微生物やミネラルを運ぶ水です。

酒に唄う

酒造に使用される水はすべて、老齢樹の森に囲まれて何百年も前から在る神社の麓の醸造所の井戸からのもの。樹根と菌類のネットワークが、醸造工程に不可欠な微生物やミネラルでその水を涵養する。

私たちは蔵での機械の使用を制限しています。自分たちの手で触れて造ることで、発酵過程での日々の微妙な違いを、五感をフルに活用してよりよく理解することができるからです。ずっとそうやってきたわけではありません。第二次世界大戦では米不足から醸造アルコールを加えることが常態化し、それは原料費の削減にもなるため、戦後もつづきました。1985年ごろ、自身の病気をきっかけに腐敗と発酵の過程について考えた義父は、それらは似ているようでありながらいかに正反対のことであるか、という考えにいたりました。そして微生物と自然の力によって生命と活力に満ちた酒を造りたいと、伝統的な製法に戻ることに決めました。

私たちは朝早くに米を蒸します。蒸気が立ち上る大きな蒸し器に米を載せ、わずかなコシを残しながらも全体がふっくらとやわらかくなるまで蒸しあげます。米が蒸しあがると、その甘い香りとしっかりと火が入った証であるほのかな香ばしさが蔵中に漂います。その蒸米をスコップで掘り出し、麻布の上に広げて何度も手で揉みながら、朝の冷気に当てて冷まします。

酒に唄う

大きな木製の蒸し器から蒸気が立ち上り、米はそのなかでふっくらとコシのあるやわらかさに蒸しあげられる。この蒸し器では毎日1トン近くの米が蒸されるという。

酒に唄う

粗熱を取るために蒸しあがったばかりの米を広げる蔵人。寺田本家の醸造所における仕事の多くは、蔵人が五感をフルに活用して酒造の各工程を進められるよう、手作業で行われる。

酒に唄う

蒸しあがった米は薄く広げられ、蔵人たちが木板で返して冷ます。米が熱すぎると、何よりも重要な麹菌にとって好ましくない環境になる。

粗熱をとったあと、蒸米の一部を糀(米こうじ)を作る部屋へと引き込みます。そこで広げた米の上に麹菌をまぶすと、繊細な黄緑色の靄が漂います。3日かけて、その酵素は米の澱粉を糖分に分解します。完成した麹米はとても甘く、栗のような香りが広がります。

酒に唄う

閉めきられた特別な部屋で、冷めた米の上に麹菌がまぶされる。菌は米の澱粉を糖分に変え、甘い麹米を作る。

次は発酵を促すスターターである酒母を作ります。小さめの木の桶に蒸米、麹米、井戸水を入れ、柄の長い櫂で摺り合わせます。摺る時間は15分を3回ほど。1つの桶を蔵人2人が担当し、何百年も昔から櫂入れで唄われてきた「もと摺り唄」を唄いながら、そのリズムに乗って摺り合わせます。唄うことによって蔵人の心がひとつになり、チームワークが良くなります。微生物も唄を聞いてより元気に発酵してくれると、私は思っています。

摺り合わされて液状化した酒母は大きめの樽に移され、そこで約40~50日かけて空気中から乳酸菌と酵母菌を呼び込みます。これらの微生物は糖分を食べながら少しずつ温度を上げ、酵母菌はアルコールを、乳酸菌は乳酸を生成し、腐敗の原因となる微生物にとっては生きにくい環境を作り、その結果酒が悪くなるのを防ぎます。発酵が進むと樽の表面全体が泡立ち、耳を澄ますと、その泡が弾けたりガスが出たりする微かな音が聞こえてきます。完成した酒母はとても甘酸っぱく、1ミリグラムに2億以上の酵母菌を含むほど生き生きとしています。

最終工程ではそれをさらに大きなタンクに移し、そこにふたたび蒸米と麹米と水を足します。酒母がスターターとなり、加えられる餌を食べながら活発に増殖してさらにアルコールを生成します。アルコール分が17~20%ほどになって発酵が終わると、手動の圧搾機で完成した醪を搾ります。

搾った酒はすぐ味見をします。上手くいくと、その酒の味わいにつながる種まきから田植えや稲刈り、そして蔵の中での醸造工程までが、一連の景色のように立ち現れます。伝統的な手法で造られたこのような酒には、体の中から活力が生まれる酸味と旨味があります。

酒に唄う

新たに搾った黄金の酒を味見する。一般的に酒は、瓶詰めの前に色と「余計な」味を除去するため活性炭で濾過されるが、寺田本家は天然の味を保つため濾過工程を省く。この段階で酒は新鮮で生き生きとした発泡感と麹米独特の風味を備えている。

日本酒の世界では品評会で賞を取ることが成功だと、安易に理解されてしまいます。しかし寺田本家では微生物の世界は品評会ではなく共生の原理に基づいており、私たちはそのような品評会には出品しないという立場を取ってきました。その一方で、世界最高のレストランのひとつと称されるコペンハーゲンの「ノーマ」で、寺田本家の酒が思いもよらず採用されました。私たちの努力が最高を目指して励む他の人びとに認められたことを、とても嬉しく思いました。

酒を造るには、とくに菌の力を借りて造るなかでは、つねに失敗もあります。酸味が急に高まったり酵母が思いどおりに発酵してくれずアルコールを生成しなかったりなど、ときとして販売を断念しなければならないこともあります。これはビジネスの観点からは痛手ですが、そのような失敗を見ると、欲を出したり売り上げを伸ばそうとするときにそうしたことが起こりやすい気がします。微生物の声に耳を傾ければ、適切な生産量は見つかるのです。

杜氏としての私のおもな責任は、微生物と蔵人たちのために環境を整え、すべてが心地よく、そして幸せに発酵できる環境を作ることです。自然の発酵はいつも計画どおりにいくわけではありませんが、その経験は次の挑戦への独創性を培います。そして期待や想像を上回るような味わいになったとき、それは大きな喜びです。

酒に唄う

この朝できたての蒸米を見る当主兼杜氏の寺田優。麹菌の繁殖を促すためには、米が適切な水分とやわらかさを備えていることが重要。

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