パタゴニア本社にてシチュー鍋抗議:「ダムのないパタゴニア」のために、いまこそ行動を

2011年5月19日、パタゴニア本社のあるカリフォルニア州ベンチュラにて。チリをはじめとするスペイン語圏では「カセロロサ」と呼ばれる、シチー鍋を叩いての抗議運動。Photo: Tim Davis
チリの原生地区であるアイセン地区に5つの巨大なダムを建設する計画に大きな反対を唱えるため、フライパンやキャセロール鍋などを装備したパタゴニアの世界中の社員約500人が集結。野生でかけがえのない土地の工業化に反対するために世界中で実施されている運動の一環として鍋を叩きました。この日は半期ごとに行われるセールス会議に参加するために、世界中から多くの社員がベンチュラ本社に来ていました。私たちは皆、パタゴニアの社名を背負うこの土地との繋がりを長年培ってきました。
パタゴニア本社でおこなわれた「カセロロサ」の様子。Video: Patagoniavideo
ハイドロ・アイセンと呼ばれる5つの水力発電ダムの建設計画は、チリのアイセン環境調査委員会がイタリアのエネルギー会社エネルとチリのパートナーのコルブンが推進する75億ドルのプロジェクトを5月9日に認可。この土地をコンクリートで永久に変化させてしまう計画の現実に一歩近づきました。反対派はこの環境調査レポートが隅々まで欠点のあるものであること、委員会のメンバーに深刻な利害の対立があることを訴えています。
ダムのプロジェクトによって破壊されてしまうのは、チリでもっとも野生の状態が残る地域のひとつであり、パタゴニアの社名の由来である土地そのものだけでなく、ビジネスを通して自然界を保護するという私たちの継続した努力のインスピレーションとなっている地域の姿をも完全に破壊してしまいます。チリ南部のこの地域は世界に残された最後の偉大な原生地域とされ、そのたぐいまれな動植物や氷河が削ったフィヨルド、あるいはほとんど工業開発されていない土地により、「エコ・ジェム(生態系の宝石)」と呼ばれています。

1968年、パタゴニアの創始者のイヴォン・シュイナードは友人のダグ・トンプキンスとディック・ドーワースとともに、あまり登られていなかったパタゴニアのセロ・フィッツロイの登攀に挑戦することにしました。けれどもそのためにはまず、カリフォルニアからおんぼろのバンで南アルゼンチンまで行かなければなりませんでした。私たちの会社名のインスピレーションともなったこの雄大な旅は、映画『Mountain of Storms』に収録されています。Image: Lito Tejada-Flores

アイセン、チリ。2010年2月15日。ハイドロ・アイセン・プロジェクトによって影響を受ける地域、リオ・バケルの河口を空から撮影したもの。Photo: Daniel Beltra
「これはヨセミテ渓谷の入り口にフーバー・ダムを建設するようなものだ」こう話すのはこの地域を熟知し、最近、映画『180° South』のためにこの地を訪れたばかりのパタゴニアの環境問題担当副社長、リック・リッジウェイです。「アメリカ各地でも野生の川にダムを建設し、同じような過ちを犯した。私たちはこの過ちから他の人びとが学んでくれることを望んでいる」

グレン・キャニオン・ダムのほとりに立つリオ・リブレスのアクティビスト、クレイグ・チャイルズ。これはアメリカにある推定75,000ものダムのひとつ。Photo: James Q Martin
チリの経済は急成長しており、ハイドロ・アイセン・プロジェクト支持者は新しいエネルギー源の確保の必要性を主張します。しかし、太陽光、地熱、潮といった比較的有害ではない代替エネルギーが豊富にあること、またこの壮大なアイセン地域の自然の威厳を守ることによって得られる大きな観光収入の可能性を、チリ政府は十分に理解していません。そしてチリ国民は明らかにこれを理解しています。全国のアンケート調査ではじつに74%がリオ・バケルおよびリオ・パスクワ、両川のダム、そして電気を北部の鉱山に送り込むための1500マイル(2400キロ)にもおよぶ送電線の建設に反対しています。
送電線は60メートルを超える高さのタワーによって支えられなければなりません。送電線のための幅120メートルにもおよぶ曲がりくねったコリドーのために1600キロの森林が完全に伐採され、残りのコリドーでも同じように森林の伐採が必要です。コリドーは64の地域と14の保護区を横断します。これによって、危機にさらされる森とチリの最も人気のある国立公園のいくつかが切断されることになります。またパタゴニアの北を流れる川を更なるダムの建設に開放することにも繋がります。本プロジェクトのこの部分の環境調査は12月にはじまる予定です。

アイセン、チリ。2010年2月17日。ハイドロ・アイセン・プロジェクトのための巨大なダムの一基の建設が予定されているリオ・バケルとリオ・ネフの合流点。Photo: Daniel Beltra
シチュー鍋(カセロロス)を叩いて抗議するスペイン語では「カセロロサ」として知られる私たちの平和的な反対運動は、この環境災害に反対するその他数多くの活動のひとつです。川をダムで堰き止めることに反対する運動のため、チリのサンチアゴには先週、推定3万〜4万人の抗議者が集まりました。
エネルギー、水、そしてその他の資源に製造を依存するアパレル製造者として、私たちはチリの資源の必要性を理解していないわけではありません。けれどもみずからの製品の製造工程を厳しく見直す製造業者として、私たちは環境への影響を緩和させる方法があることも知っています。そして多くのチリ人がこのことを同じように理解しています。私たちはチリ政府が国民の願いを受け入れることを期待しています。
リッジウェイはこう語ります。「私たちのこの活動は、北米の企業がチリ政府に何かを強制しようとするためのものではない。チリの民主的に選ばれた政府に対して何かもっと良い方法があるはずだと言うチリの国民の大多数の意見が取り入れられることを願っているのだ」

¡Sin Represas!(ダムはいらない)。Artwork: Shepard Fairey
5月20日と21日、チリ全土および世界中の街にて大規模なデモが行われました。ダムの建設に反対する皆さんのために〈International Rivers〉の友人たちがイベントを計画したものです。

パタゴニア日本支社の社員も5月20日フライパンや鍋を装備して集まり、チリの原生地区であるアイセン地区に5つの巨大なダムを建設する計画に大きな反対を唱えました。写真:パタゴニア日本支社