集団的解決策
全ての写真:Jürgen Westermeyer
編集注記:2022年、パタゴニアはブレオの人々を紹介する連載を開始した。ブレオはパタゴニアのパートナーであり、南米沿岸で地元漁師が廃棄した漁網を回収し、パタゴニアのジャケットやシェル、帽子のつば、バギーズ・ショーツの生地に使用されるネットプラス素材に加工している。今回の記事では、非営利団体「フンダシオン・エル・アルボル」のエグゼクティブ・ディレクターであるダニエラ・コンチャ・エルナンデスに話を聞いた。フンダシオン・エル・アルボルは2012年に設立され、チリのビオビオ地域の環境保全を促進するとともに、気候危機問題の解決に取り組む地元の人々を紹介している。
ダニエラ・コンチャ・エルナンデスがアンドリュー・オライリーに語った言葉。
子供の頃、毎年夏になると、都会にある家の荷物をまとめ、家族で田舎の祖母の山小屋へ帰省していた。土間に薪ストーブがあり、近くの町までは数km離れていて、それは豪華な別荘と言えるものではなかった。しかし、夏を過ごす場所としては絶好の場所で、山小屋は原生林に囲まれ、近くには冷たく透明度の高い川が流れ、その川は太平洋に注いでいた。いたるところに野草が生い茂り、さまざまな野生生物が生息し、森の小道を進んで行くとそこには小さな農場があった。
その山小屋にいる間は、森と川を探検するのが日課だった。幼い頃から両親と祖母に、チリの自然を守ることの大切さを教えてもらい、この祖母の山小屋で、私は自然との繋がりを実感するようになっていった。私のような都会っ子にそれができたのだから、他の人にもきっと同じ事が起こるのでは?そう考えるようになった。
私はチリの水域を汚染物質から保護し、海洋や河川をきれいにするために、生物科学と環境微生物学を学んだ。しかし、チリの環境保護の解決策は研究や新たな技術ではなく、人にあることに気づかされたのは、フンダシオン・エル・アルボルで子供たちと活動するようになってからだった。コンセプシオンで子供たちの環境意識を高め、正しいリサイクルの方法や堆肥の作り方を教えたことは、私にとっても子供たちにとっても目から鱗が落ちる体験だった。最初は裸足で草むらを歩くことさえ嫌がっていた子も、すぐにアウトドアに魅了されていった。
このような教育や体験を、フンダシオン・エル・アルボルとブレオの活動を通じて、あらゆる年齢層のコミュニティの人々と一緒に展開しようとしている。漁業コミュニティの人たちは、汚染物質やプラスチックが海や川の問題であることを認識し、毎日、海岸や港で目の当たりにしているが、何をどのように実践すれば良いのか分からない。そこで、ブレオとフンダシオン・エル・アルボルの出番がやってくる。ブレオが使用済みの漁網を回収し、フンダシオンが持続可能な実践に関する教育に取り組むのだ。

ダニエラは、コンセプシオンの事務所で、同僚のパウリナ・ロメロ・ガジャルドとマリア・フェルナンダ・サグレド・エルナンデスとともにフンダシオン・エル・アルボルの活動計画を話し合う。フンダシオンでは、住民がごみの削減やリサイクルに取り組み、消費行動を見直すための地域活動を企画している。

フンダシオン・エル・アルボルが企画し、ブレオが出資する「トゥンベス・シン・プラスティコス」は、近くのトゥンベス半島のプラスチック問題に対象を絞った活動である。このプログラムでは、レストラン経営者などの地域住民に働きかけ、食品用の容器や袋などの使い捨てプラスチック製品から再生可能または生物分解性の製品への転換をサポートしている。

カレタ・トゥンベスの「プンタ・ノルテ」レストランで「トゥンベス・シン・プラスティコス」の進捗について話し合うオーナーのクラウディオ・アヴィレス、ダニエラ、同僚のニコル・メラド・トラップ。

カレタ・トゥンベスの波止場を歩くクラウディオとダニエラ。
フンダシオン・エル・アルボルの理念の1つに、集団的なプロジェクトが集団的な解決策を生み出すという考え方がある。例えば、ブレオの「ネット・ポジティバ・プログラム」では、漁村でコンポスト・プログラムをスタートさせた。多くの漁師の奥さんが、リサイクル材料を使ったコンポスト容器の作り方を教え、堆肥がコミュニティや土壌にもたらす効果を説明した。また、使い捨てのプラスチックの使用を止めさせるよう地元のレストランに呼びかけ、毎日捨てられている不要なプラスチックごみの量を大幅に削減した。
このようなプロジェクトは、チリの環境を改善するだけでなく、地域コミュニティに対して誇りを育むことへと繋がる。そして、地域コミュニティと生活の質が改善されるにつれ、その想いは大きくなっていく。その感情の変化は、祖母の山小屋を訪ねていた時、私に生じた感情とよく似ている。山小屋に行く前は、フンダシオンのプログラムに参加した子供と同様に、泥の中を靴を脱いで歩くことが怖かった。でも、一度チリの大自然を体験してしまえば大好きになり、それが生きる目的にさえなった。学生、レストラン経営者、漁師、地域の誰であれ、1人でも同じことができたなら、フンダシオン・エル・アルボルの活動が、本当の意味での変化をもたらしていると言えるのではないだろうか。