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「環境に投票を」2014:経済の成長と地球の限界

枝廣淳子  /  2014年12月8日  /  アクティビズム, 環境

by 枝廣淳子(幸せ経済社会研究所所長)

衆院選に向けての政策論争が展開されています。争点の柱は「経済成長戦略」です。「アベノミクスでデフレから脱却して経済成長できるのか否か」「経済成長のためには、もっと規制緩和を進めることが必要だ」「法人実効税率をどのくらい引き下げれば経済成長できるのか」といった議論が戦わされています。

そのたびに、ちょっと待てよ、と思います。みんな経済成長のための方法論の優劣の議論をしているけれど、経済成長そのものを問い直す時期に来ているのではないでしょうか、と。ちなみに、2パーセント、3パーセントといった経済成長率は小さく感じるかもしれませんが、成長率2パーセントなら36年後に、3パーセントなら24年後に、経済規模は2倍になります。

私たちが何とかしなくてはならないと考えている、地球温暖化も、生物多様性の危機も、水不足の問題も、そのほかの“環境問題”も、「身の丈を超えた経済成長をつづけることによって、地球1個ではとうてい支えきれないほど人間活動が拡大してきた」という問題が引き起こしている症状であり、本質的にはそれは“経済問題”だと私は理解しています。

私たちの経済は、資源の供給源・廃棄物の吸収源としての地球に依存しています。皆さんもよく耳にされたことがある「人間活動を支えるために地球が何個必要か?」を示すエコロジカル・フットプリントの現在の数値は1.5。つまり現在の世界の人間活動を支えるためには、世界全体で地球が1.5個必要なのです。そして日本だけだと2.4個が必要です。もちろん地球は1個しかありません。ですから私たちは過去の遺産を食いつぶし、未来から前借りをしながら、経済活動を営んでいるのです。

40数億年前に誕生してから、地球の大きさは1ミリも大きくなっていません。太陽光線は宇宙から降り注ぎますが、それ以外の資源は地球にあるものがすべてです。二酸化炭素や廃棄物を吸収できる量にも限界があります。この有限の地球から無限に資源やエネルギーを取り出し、無限に二酸化炭素や廃棄物を戻しつづけるのができないことであるのは、小さな子どもでもわかるでしょう。技術があるから、とよく言われますが、技術革新でできるのは生産単位当たりの資源量や二酸化炭素量を減らすことであり、技術をもってしても環境への負荷をゼロにすることは不可能です。技術が進歩しても、生産量が増えつづけるかぎり、地球への影響はやはり増えてしまうのです。

したがって、どこまでも経済成長を追求しながら環境は守るということはあり得ません。現在の政治家や政党が考えているのは、できるだけ経済成長の邪魔にならない範囲で環境を守りましょうということです。

先日、私の主宰する幸せ経済社会研究所で経済成長に関する世論調査を行いました。その結果、3人に1人が「経済成長をつづけることは必要だが、それは不可能だ」と考えていることがわかりました。理由として挙がっていたのは、人口減少や地球の限界などです。現在の社会保障や国の借金を考えると経済成長は必要だと思うが、しかし人口が減り、地球や資源の限界に直面している現在、経済成長をつづけることは不可能だと思う、という経済成長のジレンマを感じている人が少なからずいるのです。

経済成長についてどう考えればよいのか――その答えを求めて、「経済成長について100人に聞く」プロジェクトを展開しています。経済学者、哲学者、高校生、一般の社会人、地域の活動家、温暖化研究者、市長や元知事など、さまざまな人びとに「経済成長とは何ですか?」「それは必要なものですか?」「可能ですか?」「犠牲や私たちが失ってきたものがあるとしたら何でしょうか?」などの質問をし、それぞれの考えを聞かせてもらうことでより多くの人が考えるきっかけになれば、とウェブサイトにアップしています。

そのなかで、「経済成長の指標としてのGDPの限界」には多くの方が(GDPの数値を作成する研究所の方も含めて)言及しています。あるべき経済成長とは何か、経済成長はもう不要だ、必要だとしても不可能だ、いや、技術革新でつづけていける、地域の幸せには関係ない、成長から降りたとき個人の生き方は楽になる、などいろいろな考えを聞かせてもらっています。

「経済成長」は歴史的に見るとごく最近の、特殊な状況です。人類史のほとんどの期間、経済はほとんど成長していません。産業革命以降の経済成長のおかげでさまざまな恩恵があり、人びとが幸せになったことはたしかでしょう。しかし、だからといって、今後も経済成長が恩恵と幸せをもたらしつづけるのかどうかは、一考の余地があります。

何事も何かをすればプラス面とマイナス面が生じます。企業が製品を作れば、売って収益が上がりますが、一方コストが生じます。企業はプラス(限界便益)がマイナス(限界費用)を上回るあいだは生産を拡大しますが、マイナスがプラスを上回るようになったら、それ以上は生産を拡大しないはずです。「いまの経済成長は、すでに“不経済成長”になっている」と元世界銀行シニア・エコノミストのハーマン・デイリー氏は主張しています。企業が適正な生産規模を模索するのと同じように、限界費用と限界便益が等しくなる時点でGDPの成長を止める必要があるにもかかわらず、環境問題の深刻化などが示すように、現在の経済成長は経済成長の限界費用が限界便益よりも大きくなっており、それはつまり不経済な成長だ、と。

ハーマン・デイリー氏は「活発な経済活動が繰り広げられてはいても、その規模自体は拡大していかない経済、つまり“定常経済”へ移行していくべき」と考えています。私も持続可能な社会を作るのなら、それしかないと思っています(その考え方は岩波ブックレット『定常経済は可能だ!』にわかりやすく解説しました)。

世論調査の対象者の3割近くがうすうす感じていたように、経済は成長しつづけなくてはならないという集団思い込みからそろそろ脱却して、地球の限界や人口減少、そして経済成長が私たちの幸せを増やすどころか損ないつつある事実を直視する必要があるのではないでしょうか。そして、可能かどうかは関係ない。いまの社会の仕組みを保つために経済成長は必要なのだと思考停止するのではなく、必要だと思っても不可能なこともあることを受け入れて、経済成長に頼らなくても良い社会に向けて、社会保障をはじめとする社会や経済の仕組みを根本的に変革していくべきではないでしょうか。

本来は、「パイを大きくする」経済に対し、政治の役割は「パイの再分配をする」ことだったはずです。全体が大きくなれば分配を考えなくてもよいから、というのはもう通用しません。

「環境に投票をする」というのは、「経済成長をどう考えるか」「どういう経済を求めるのか」ということでもあります。公約を読んだり演説を聞いたりするとき、候補者たちは、経済成長をつづけることの問題や地球の限界、あるいは成長よりも大事な課題があることに気がついているだろうか?それとも、たった1個しかない地球の現状や未来に何の不安ももたず、それが壊れてしまってもなお経済成長を追求しようとしているのだろうか?と耳を澄ませてみてください。立候補者に尋ねてみてください。それが「環境に投票を」の1つの行動だと信じています。

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