みんなの海みんなで海
「アメリカに一緒に行こうよ!」。パラサーフィン世界選手権を控えた日本代表選手たちとの会話は、とてもエネルギーに満ち溢れ、思わず「応援に行きます!」と返してしまった。世界選手権に関わることによって、さらに世界が広がっていくからと私を誘ってくれたのだろう。「応援ではなく、アメリカに一緒に行こう」。そう話す彼らも、サポートの人間を必要としていた。メンバーの一人として私を誘ってくれたことが嬉しかった。
初めてパラサーフィン選手権へ参加した年には、選手同士がサポートし合っている場面を多く見かけた。試合に関わる部分だけでなく、生活面においても互いに助け合っていた。どんな時でも、困っている人がいたら手を差し伸べるのは当たり前。けれど、自分のヒートがある中でやりくりしている姿を見て、「これは私の出番だ!」と思った。介助犬は、アメリカ本国に連れていくことが難しい。もしも介助犬がいたら、そうするだろうと考えて、多くをしゃべることなく、その場に応じて臨機応変に役割を変えていった。選手たちが私の存在をチームJAPANに根付かせてくれた。
4年目の参加となる、昨年の世界選手権。11月のカリフォルニアは、朝晩はしっかりと冷え込むが、日中は日差しが降り注ぎ、気温も上昇する。その日のコンディションに合わせ、どの選手にどんなサポートが必要なのか算段を立て、声をかける。ビーチ用車いすに乗り換えると、自走ができなくなってしまうため、どのタイミングで砂浜に移動したいかを相談する。いつウエットスーツへ着替えるのか?ヒートが始まったらどうサポートすればいいのか?彼らとの小さな約束を果たしていく。
腹ばいでサーフボードに乗るプローン2クラスは、板を押すサポートと息を合わせることも大事なのだ。その時間帯の日本チームは、ピアへ向かっていく波で勝負することに決めたようだ。波に乗ってきた選手をキャッチするサポート選手と私は、波打ち際で待っていた。1本目、波に美しいラインを描きながら乗ってきて、ピアの手前で自ら減速。私を含めたサポート選手、それからライフセーバーたちもピアサイドに集まっている。そして3本目のライディング。同じく美しいラインを描いて波に乗ってくる。ギリギリまで攻め続け、ピアにぶつかりそうなほど近くまで乗ってきた。選手がライフセーバーにピックアップされている様子を確認して、私は慌ててサーフボードを守るために走った。セミファイナルでボードをクラッシュさせるわけにはいかない。すぐ隣でブラジルチームが私をサポートしてくれている。国を越えて助け合っている。その一体感が、私にとっての世界選手権の最高潮だった。このシーンは、今も深く心に刻まれている。
浮き輪にカバーをつけて浮力を増して海に浮かべると、寝息が聞こえてきた。
海に入った瞬間から、一日穏やかに過ごせた彼女。この日は、家族みんなの嬉しい思い出になったよう。
喉元を切開しているので、水が入ると落命してしまう。道具を組み合わせて海水浴を楽しんでもらった。
車いすのタイヤが砂浜に埋まることを防ぐ、通称「ビーチマット」。歩きやすく、暑さも軽減される。
海のコンディションによっては、普段は車いすを使用しない下肢障がいの選手たちの移動にビーチ用車いすを使用することもある。私は、その車いすを押して砂浜をダッシュする。体幹の強い彼らだから、できること。急いで彼らを海に戻して、ヒートの健闘を祈る。選手と共に戦いながら、海が心も体もつなげてくれることを実感する。その輪が広がり、誰もが海の懐に抱かれたらいいのにといつも思う。
私は、誰でも海を楽しんでもらいたいという思いで「その人に合った海水浴」を活動の柱としている。例えば、喉の気管を切開していて、その部分に水が入ると命を落としてしまうような人たちでも、道具を整え、海の状況やその日の天候をうまく選べば海水浴を楽しむことができる。タイヤが砂浜に埋まってしまうのを防ぐため“ビーチマット”を設置すれば、車いすを使っている人たちも波打ち際まで容易にいくことができる。私たちは、彼らを海とつなげることはできるけれど、気持ちよさ、心地よさをくれるのは海そのもの。
『Oceans Journal 2026』より転載
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