彼女の着地したところ
ジョーダン・リーズは皆に知ってもらいたい。彼女が生きていて、元気でいるということを。生後6か月の彼女がジョシュア・ツリーのタートル・ロックで家族と一緒に写っている写真がある。フカフカの紫色のジャンプスーツに身を包んだ赤ちゃんが、怖いぐらい開いた岩と岩のあいだで空中を飛んでいる写真だ(この子を投げているのは彼女の両親、ジェフとシェリーである)。
それはパタゴニアの1995年春カタログに掲載された写真で、それと同じものはリーズ(現在25歳)が育った家の廊下にも飾ってある。訪れる人がその写真についてときどきコメントすることはあった。だが彼女にはとくに気になることではなかった。4台分の駐車スペースのある自宅の巨大なガレージを父親がクライミングジムに改造し、彼やその友人たちによって岩の上で育てられた彼女にとっては、それは日常的なことだった。それに彼女自身もクライミングに夢中だった。
数年前、その写真がインターネット上で、不思議なことに2度目に日の目を見ることになったときは、さすがのリーズも驚いた。空飛ぶ赤ちゃんの画像は、アウトドアクライミングのフォーラムや他のソーシャルメディアで一気に拡散された。「空飛ぶ赤ちゃん」の彼女は、ありとあらゆる馬鹿げた場面にフォトショップで加工され、インターネット・ミームと化した。ホオジロザメの上を舞ったり、大砲から飛び出したり、アングリーバードのスリングショットに使われたり、宇宙をロケットのように突き進んだり。
人びとは彼女の両親の精神状態や、写真自体の信憑性を疑った。あの赤ちゃんは投げたバックパックの替わりにフォトショップで加工されたのでは?彼らが本当にクライミングをしていたのなら、そのギアはどこにある?彼が背中に担いでいるのはベビーキャリー?あの赤ちゃんがはいているのはリーボックのハイトップ?ひどい両親だったのでは?リーズはこれらのコメントが可笑しくて仕方なかった。ただ彼女は、写真は偽物ではないということを世間に知ってほしかった。「これは本当で、写っているのは私です。これが私の幼少時代でした」
現在、リーズはカリフォルニア州ハンティントン・ビーチに住み、フルタイムの学生として法廷速記者になるための勉強をしている。じつはクライミングと法定速記には似たような技能が必要だそうである。「私の指にはコントロールとスピード、それに精密さがある」と笑いながら言う彼女のタイピング速度は1分200ワードを超える。港を見下ろす自宅では、それまで使っていなかった天井までの高さ5メートルの部屋を、最近、壁3面のクライミングジムに改造した。現在60歳になる父親の力を借りて、彼女が幼かったころに実家のクライミングジムで使っていたホールドを再利用したものである。
リーズは1日に何時間もクライミングをして過ごす。彼女にとって、クライミングはアウトドアライフの頂点にあるといっても過言ではないが、彼女とボーイフレンドはウェイクボードにも長けている。年間30回ほどはスノーボードにも行くそうだ。レイク・タホが彼らのお気に入りの場所で、リーズはそこで家族と一緒に過ごした夏を思い出す。昼まではウェイクボード、午後はロッククライミングを楽しんだ夏を。
「いまでも父とクライミングに行きます」と語るリーズは、その彼と一緒にビッグ・ベアから帰ってきたところだ。「クライミングのおかげで、いい関係を保っています。私はいつも父に憧れていました。父や彼の友人たちのようにシャツを脱いで、彼らのようにクライミングをしたかった。60歳になった父がいまもこんなことができるなんて、とんでもないことです。大人になった私のクライミングジム作りを手伝ってもらえるなんて。子供のころに作ってもらったようなジムを」と、彼女は笑いながらつづける。「いつか自分の子供にも同じことをしてあげたい」