責任あるダウンの調達への道のり
史上最も厳格な動物福祉の認証であるレスポンシブル・ダウン・スタンダードへと、厳しい教訓を生かして基準を高めるパタゴニアの道のり。
2020年12月、動物の権利を擁護するドイツの団体FOUR PAWS(フォー・ポーズ)が、パタゴニアが強制給餌や生きたまま羽毛採取が行われた鳥から供給されたダウンを使用していると告発し、私たちはこれに反論しました。しかしながらこの論議のなかでFOUR PAWSとの会話がはじまり、彼らの疑念はパタゴニアのフットプリントのウェブページに掲載されていた写真に基づいていたのだと教わりました。それはハイイロガン系のガチョウからのダウンを使用している写真で、この種のガチョウはハンガリーでは、一般的にフォアグラ用として肝臓を太らせるために強制給仕で飼育されていたからでした。論争の的となってきたその飼育方法はヨーロッパのほとんどの国と、アメリカのいくつかの州(カリフォルニアを含む)で禁止されています。しかしこの慣行は、フォアグラを珍味として重宝するフランス、そして私たちのダウンの供給元であるハンガリーでは禁止されていません。
FOUR PAWSが展開したオンラインキャンペーンの結果として、私たちはこの主題にまつわるメールを1か月のうちに約3万件も受け取りました。そこで現場調査を実施したパタゴニアのサプライチェーン責任チームはその開始後まもなく、ひとつの点においてFOUR PAWSが正しかったことを発見しました。それは、私たちのサプライチェーンのパートナーのうちの1か所で、フォアグラ生産のために強制給餌が行われていたという事実でした。また私たちは、ガチョウがまだ生きているうちにダウンとフェザーを体から引き抜くという羽毛採取の慣行についてもFOUR PAWSから学びました。その大部分はガチョウの雛を孵化して供給する親農場で行われ、のちに成鳥となったガチョウの肉は食品産業へ、ダウンはアパレルや家庭用品その他の産業へと出荷されます。私たちの調査では生きたままの羽毛採取の証拠は見られませんでしたが、責任あるダウンのサプライチェーンをもつためには、既存のものを全面的に見直し、新しい基準を定め、親農場を筆頭にサプライチェーン全体の監査をはじめなければならないと自覚しました。
FOUR PAWSと他の動物福祉の専門家たちの助けを借りて私たちは、トレーサブル・ダウン・スタンダード(TDS)と名づけた社内基準を開発しました。この基準をパタゴニアのサプライチェーンに導入するためには、数えきれないほどの出張、ミーティング、監査、電話、そして言うまでもなく時間と費用を要しました。この道のりで幸運にもパートナーとして見つかったのは、オハイオ州にあるダックダウンとグースダウンの加工業者、Downlite(ダウンライト)というサプライヤーでした。私たちが設けた基準に沿ってパタゴニアのサプライチェーンを評価するためには、第三者期間の監査人が農場、食肉加工場、ダウン加工場へと送られました。私たちはまた、この基準に関する教育をDownliteの幹部、そして影響を受ける農場とサプライヤーに提供しました。なぜなら彼らが賛同してくれなければ、基準を守ることの価値は見えないからです。そして私たちは、動物福祉における非常に高いレベルの監査専門知識を求めました。品質、環境、その他の分野の監査人では、動物の福祉を効果的に評価することはできないということがはっきりしたからです。
これと同時期に、数社の大手アウトドアブランドがテキスタイル・エクスチェンジと協働で、レスポンシブル・ダウン・スタンダード(RDS)と呼ばれる業界基準の草案作成をはじめました。当初のRDSは親農場の監査を要項に含まず、鳥は生きたままの羽毛採取の危険にさらされたままで、パタゴニアが十分とみなす基準には到っていませんでした。そこで私たちはそれを当時の状態で受け入れることはできないと判断し、TDSの高い基準を守りつづけるというみずからの道を選びました。他の衣料品ブランドの大半に参加してRDSの要項を満たす方が、より安易な選択であったにもかかわらず。
2015年に私たちは、公衆衛生の認証、テスト、監査を提供する団体であるNSFインターナショナルとのパートナーを結成しました。それはパタゴニアのトレーサブル・ダウン・スタンダードを世界的に適用できる認証にし、他のブランドも参加することができるようにするためでした。そしてNSFインターナショナルだけでなく、FOUR PAWSやテキスタイル・エクスチェンジや欧州アウトドアグループを含む他の利害関係者とともに、この基準を完璧にするために取り組みました。ひとたびアドバンスト・グローバル TDSが承認されると、7か国にわたる数々の大きなサプライチェーン(350の農場と20の工場を含む)に厳しい認証監査が課され、毎年それに合格することが要求されました。私たちはダウンの洗浄と加工の施設、食肉加工場、農場を含め、これらの基準を導入してくれる素晴らしいパートナーたちを見つけました。世界中で出会った農家は皆、所有する家畜を可能なかぎり最善の方法で飼育したいと心から願ってきた人たちで、彼らの進歩を見守るのはとても満足のいく経験でした。飼育の方法に小さな変更を加えるだけでも、動物の日々の生活に有益となる大きな影響をもたらすことができるのです。
パタゴニアはみずからの道のりをアドバンスト・グローバル TDSで築き出したものの、基準改正に取り組むRDSの国際ワーキンググループの一員でもありつづけました。私たちは同基準の動物福祉に関する条件を強めるべく感化を与え、業界の連合(テキスタイル・エクスチェンジ、アウトドア産業協会、欧州アウトドアグループ)、ブランド、NGO(FOUR PAWS、ヒューメイン・ソサエティ・インターナショナル)に対してこの主題への継続的な関与を促しました。
私たちは他のブランドにもアドバンスト・グローバル TDS認証済みダウンを導入するよう唱道しつづけましたが、その努力の継続にもかかわらず、実施してくれた大手ブランドはありませんでした。他のバイヤーなくしては、アドバンスト・グローバル TDS認証済みのサプライヤーによって生産された素材すべての購入は、パタゴニア一社のみが負う責任となりました。このリスクを承知しながらもこの道を選んだのは、アドバンスト・グローバル TDSが導入可能であること、そして業界を鼓舞するために私たちが学んだことを利用できるということを証明したかったからでした。
2020年、パンデミックによるパタゴニアのビジネスとサプライヤーのビジネスへの経済的悪影響は甚大で、私たちはどうしたらダウンのサプライヤーを援助できるか、それと同時に農場での動物福祉に妥協がないことを保証できるかに際し、厳しい見直しを余儀なくされました。そしてパタゴニアの最終製品の工場はアドバンスト・グローバル TDSとRDSの両方の認証を長年取得してきたことから、そのような工場に対しては監査要項の一部を緩和することを決めました。これを適用したのは1年だけで、すでに導入されていた別のシステムが無効になる危険性はないと判断したからです。
それと同時に私たちは、RDSにおける前向きな発展を認めました。その最新版は親農場での状況審査のための段階を取り入れており、この基準における主要なマイルストーンとなりました。輸送、屠殺、解体に関するより多くの規制を含めることで、RDSは動物福祉の遵守という点において厳格さを増したものへと成長しました。
私たちは業界が一丸となってひとつの基準に従うことの重要性を理解し、RDSが動物福祉に関する条件を大幅に改善したことから、他のブランドに参加してすべてのダウン(リサイクル・ダウンを除く)にRDS認証を要求することを決意しました。2022年秋からは、アドバンスト・グローバル TDSにすでに加入していたハンガリーとポーランドのサプライチェーンが供給する100%RDS認証済みダウンのみの採用をはじめました。パタゴニアはアドバンスト・グローバル TDSで作った既存の製品の在庫を売り尽くしたため、現在ではRDSダウンを含む製品のみを提供しています。
この決定には、たくさんの熟考と広範囲にわたる議論がパタゴニア社内で要されました。私たちはRDSのみを使うという選択が、ダウンの供給元であるサプライチェーンでのガチョウの福祉に利点をもたらすと信じています。また現在では、外部から扇動する代わりに、RDS自体の内部から関与を促すことができます。私たちはテキスタイル・エクスチェンジ、動物福祉団体、サプライヤー、他のブランドなどと力を合わせ、RDSの条件を強める方法と同時に、その管理の仕組み(監査人のトレーニング、監査、認証機関からの監視プログラムなど)についても探りつづけます。
吟味された生活を率先することはパタゴニアの理念であり、それはダウンのサプライチェーンにも適用されます。私たちは過去10年間にアドバンスト・グローバル TDSを通して達成し、学んだことを誇りに思います。そして今後はRDSにおいて、他のブランドと取り組んでいくことを楽しみにしています。