「ぐるぐる」しよう
少し前に『THRIVE』という映画を見た。宇宙やすべての生命は全部つながって「ぐるぐる」まわって調和しているのに、地球という惑星だけが、独自に作り上げた奇妙な一方通行のシステムに基づいて突きすすんでいる。それはまわりの環境と共存しないやり方である。じゃあどうやってほかの命とのつながりを取り戻し、自然から教えてもらった「ぐるぐるまわる暮らし」を実践できるのか?そんなことがテーマの映画だ。「大切なことは、宇宙人が教えてくれる」というぶっ飛んだ話の解釈は別にして、私にとってはいろいろな示唆を与えてくれる、興味深い映画だ(『THRIVE』は十カ国語に訳されていて、オンラインでも鑑賞できる)。
地球は太陽の周りを一年かけてぐるぐる回っている。さらに一日一周ぐるぐる自転している。月は地球の周りをひと月かけてぐるぐるしている。世の中はぐるぐる回っている。水も空気も自然界のなかにあるすべての命も、ただひたすらぐるぐる回っている。いままでそうやってやってきたし、これからもその先もそうするだけでいいのだと思う。
それなのに「モノ」の生産と消費の現場はなぜ「ぐるぐる」まわっておらず、自然界の法則とは真逆のアプローチを用いた流れになってしまったのか。「経済を成り立たせるため」や「消費者の欲を満たすため」など、言い訳はいろいろあるだろう。でも、自然にあらがって生きていけないことは、昔から誰にでも分かっていることである。人間のおごりはいますぐに改める必要がある。
ではどうやって?
道しるべとなるデザインのキーワードが「ぐるぐる」ではないか。社会のあらゆる場面を「ぐるぐる」とデザインし直そう。いろいろなものが有機的につながるように、無駄がないように、すべてが自然とひとつの輪の中にあるように。
〈xChange(エクスチェンジ)〉はまさに服を「ぐるぐる」回そうと、2007年から東京都内を中心に古着の交換パーティーを開催している。「おしゃれは楽しみたいけれど、環境にストレスをかけているならそんなのおしゃれじゃない。お金もつづかない。じゃあ、持ち寄って交換したらいいんじゃない?」そんなシンプルな気づきからはじまった。美容師やデザイナーなど、ファッションに敏感なクリエイティブ層にまず定着し、その後、学祭やカフェでの開催へと広まった。ここ数年は企業やNGOとのコラボ・イベントも手がけてきたが、小規模でアットホームな雰囲気は大切にしている。「xChange」というネーミングは、魚のように波とひとつになって海で泳いだあと、空からすっとおりてきた。それから5年……。世界経済がいよいよ傾き、環境問題の根本解決が求められているいま、「物々交換」という古くて新しい社会のしくみが注目され、全国各地で〈xChange〉の自主開催を試みる人たちが、ますます増えている。
〈xChange〉に限ったことではない。世界中、「トレード・マーケット」が盛んになり、インターネット上でも各種の物々交換のプラットフォームが機能しはじめている。以前住んでいた神奈川県鎌倉市では月に一度、物々交換市「くるくる」が開催され、服のほかにも食器や家電など、あらゆる日常品の交換マーケットになっていた。フランスのピレネーの街では”Trade Free Place”というマーケットが開かれ、地域の憩いの場になっているようだ。少しずつ「ぐるぐる」という音が、社会のいろいろな場所から聞こえるようになってきた。
私はいま、タイ北部のオーガニック・ファーム・コミュニティで暮らしている。服や日用品のほとんどは交換したり、シェアしたり、手作りしている。雨水は回収されて田畑にまかれ、濾過されて飲料水となる。森から切り出した竹は建材や食器に使われたあと、調理のための薪となり、灰は大地に還って、植物がまた育つ大切な栄養となる。そう、映画『THRIVE』で描かれていた「ぐるぐる」だ。「ぐるぐる」のデザインをコミュニティ生活の軸とし、自然の前で人間がいつも謙虚であれば、誰もが望むシンプルで充足感のある暮らしは可能なのだ。
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パタゴニアでは「コモンスレッズ・イニシアティブ」を通して、お客様が着古して使用不可能となったパタゴニア製品をリサイクル(再生)のために回収しています。それらは新しい繊維や生地となりますが、なかにはまだ着ることのできる状態の製品や、素材としての価値のあるものもあります。そうした状態の製品については、素材を生かしたリパーパスや古着として再利用(リユース)します。それはエネルギーなどを使ってリサイクル(再生)させるよりも環境負荷が少なくなります。その取り組みのひとつとして、国内循環古着専門店〈衣~ころも〉に販売し、その売り上げ金はすべて、古着の交換会を主宰する〈xChange〉へ寄付します。