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野生の境界に腰を据えて

ティミー・オニール  /  2020年4月21日  /  クライミング, スポーツ

フィッツロイ山脈に目を向けると、空に歯を剥く顎の輪郭に見えることがある。別の時には、その歯が大望を砕くのではなく支える指となり、大切なものをそっと包み込む手のように見える。その違いは、嵐に見舞われている山を比較的安全なキャンプから見ているか、あるいは嵐の内側から見ているかによって変わる。

10代のころ僕は、パタゴニアのカタログから象徴的な写真を切り抜いては、ベッドの上の壁に貼っていた。東海岸部に住む労働者階級の家庭で9人兄弟の1人として育った僕には、フィッツロイに行ける可能性はとても低いと思われていた。

数十年後、エル・キャピタンの南東壁にある悪名高い「シー・オブ・ドリームス」を登るためにネイサン・マーティンとネバダの砂漠を車で横断している途中、ネイサンが来るパタゴニア遠征について話し始めた。ありきたりなマルチピッチのルートを延々と何年も登って経験を積んできた僕は、いよいよ世界屈指の山々を目指す準備が整ってきたと感じた。そこは、クライマーを手招きするギザギザのモノリスとしても、また不名誉で悲惨な失敗の数々でも知られる場所だった。

ネイサンは、伝説的クライマーのチャーリー・ファウラーと2度もパタゴニアを経験している26歳のベテランだった。一方の僕は新米な上、うっかりモレーンを転げ落ちて死にそうになり青あざだらけ、という前途多難なスタートを切って、このアルパインクライミングの先輩を心配させていた。パタゴニアのような不安定な環境では、ルートは厳しく、安全のマージンは小さい。それでも挑戦と失敗を何度も繰り返し、風雨や極度の疲労でひどい目にあわされた挙句に、僕たちはついに初登攀という勇敢な栄誉を手に入れた。

登ったルートは、フィッツロイ西壁を断ち割る一連のスプリッター。僕たちは必需品のロープとラックとバックパックを背負い、オフィズスと戦うための巨大なプロテクション2つを持っていった。初日の夜は、雪と砂利を削ってビバーク場所を確保し、薄いパッドの上で寝袋に潜り込んだ。

翌朝早く、「カリフォルニア・ルート」との合流点を示す、ベルグラに覆われたジャンダルムを慎重に越え、山頂へと登っていった。たまに遭遇する古いピトンにクリップしながら、もしかするとそれは元祖「飽くなき冒険者たち」の誰かが打ち込んだもので、僕は歴史のひとかけらにクリップしながら自分自身の歴史を作っているのかもしれない、と想像した。

山頂は快晴だった。僕たちはボロボロながらも有頂天だったが、それで終わりではなかった。

下降の途中、最近行方不明になった単独クライマーの孤独な遺体を見つけた。太陽の光で気温が上がりだすと、頭上の氷や岩が追いかけて来るかのように跳ね返りながらクーロアールを落下していった。その夜はオーバーハングの下の傾斜したレッジにうずくまり、やがていびきをかいて眠りに落ちた。もうひと晩ビバークしてからようやく人里離れた酒場の土間にたどり着くと、生き延びた疲れで呆然としたまま、のろのろと食べては飲んだ。

後になって僕は、重力や自然は誰が初登し、誰が無事に下山し、誰が山から帰ってこなかったかには無関心だということに気付いた。ネイサンと僕はおそらくこの先ずっと、それら3つのどれかであり続けるだろうということにも。僕たちは自分たちが拓いたルートを、スペイン語で「まぐれ」を意味する「トンタ・スエルテ」と名付けた。運よく好天周期に恵まれ、パタゴニアの手厳しい一撃を食らわずにすんだことに感謝して。

今から数シーズン前、実行可能なクライミングの機会がほとんどなく、特に失望させられた1年という長い停滞期の後で、僕はエル・チャルテンを再訪した。その時は、ヨセミテで才能を発揮した若きクライマー、ニールズ・ティーツェをパートナーとして臨んだが、再び打ちのめされてハイキャンプからすべてのギアを撤収し、町へ帰還することになった。僕たちが座ってボデガビールを飲んでいると、毛むくじゃらの野良犬が1匹、のっそりと歩いてきて足元にうずくまった。そこでは何もかもが身をすくめているかのようだった。

僕が最後に町を訪れて以来、舗装道路やマイクロブルワリー、多くの宿泊施設などで街の様子が変わってしまったと嘆く人もいる。けれども僕は、そんな町の発展の愚行とは対照的な、手なずけることのできない山々の獰猛な美しさに打たれた。あの花こう岩の巨兵たちは、僕たちに彼らの狭間を歩くことを許し、頂上につかの間立たせてくれさえもするが、けっして征服されることはない。無敵のように思われたニールズも、彼が愛したヨセミテの花こう岩で残念ながら最期を迎えることになった。変わりゆくのは僕たちクライマーであって、山々は不動のままだ。

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