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奇跡の海 – 上関の海と人に魅かれて

齊藤 知子  /  2013年4月22日  /  アクティビズム, 環境

山口県熊毛郡上関町。この町にある長島という島の先端の田ノ浦には、冬のとても短いあいだ海のなかに黄色いお花畑が広がる。『風の谷のナウシカ』に出てくる「金色の大地」のような景色だが、もしかすると今年かぎりで見られなくなってしまうかもしれない危うい状況に置かれている場所だという。パタゴニアの『Fall 2010』カタログのエッセイで目にした、スギモクという海草の写真。原子力発電所建設予定地になっているこの場所に広がる景色を実際に見てみたいと思った。

上関町にはこの長島や有名な祝島の他に、宇和島や鼻繰島など小さな島がたくさんある。静かな瀬戸内海に島々がぽっかり浮かんだような景色を船から見ると、なんだか心が安らぐ。国立公園である瀬戸内海では自然のまま残る海岸線が約20%だが、長島の海岸線は約70%が自然のまま残っている。田ノ浦のすぐそばにある鼻繰島は、夕暮れどきの島のシルエットがとてもきれいで、どことなくパタゴニアのロゴのフィッツロイにも似ている。また室津から少しはなれた八島は、船をつけた港のなかでもとくに透明度が高く、魚がたくさん見えた。宇和島には希少種の海鳥、オオミズナギドリが生息する。本来は餌を探して700キロも旅をする鳥なのに、宇和島のオオミズナギドリは短距離しか移動しない。それはこの海の豊かさの証でもある。天然記念物のカンムリウミスズメや30年前と比べると数が一割ほどにまで減ってしまったというスナメリも暮らすことのできる場所。瀬戸内海にわずかに残された鳥や魚や小さな生き物たちの命のゆりかごとも言われる場所。長島のまわりの海は「奇跡の海」と呼ばれている。島々の海岸線がそのまま海へ落ちる。そんな島が幾重にも重なる奇跡の海をはじめて見たとき、神々しいという言葉がぴったりだと思った。

奇跡の海に魅かれるのと同じくらい、そこで暮らす人びとにも魅かれているのだと思う。〈長島の自然を守る会〉の船、『希望』の船長の小浜さんは船の運転や海の知識はもちろんながら、ユーモアもあって魅力あふれる人だ。満月の夜に船に乗ったとき、小浜さんが「月が明るい夜は、海からはものがよく見えない」と話す。こんなに明るいのになんで見えないんだろうと不思議に思い、「どうしてですか?」と聞いてみると、「ちょっとこっちにきて」と呼ばれた。港の電灯のむこうに、小さな山がぼんやりと見える。ただ山のシルエットは夜空と同じ色で暗く、あまりはっきりとは見えなかった。「手で電灯を隠してみてください」と言われて、両手で2つの電灯を隠し、光が目に入らないようにしてもう一度山を見た。さっきは同じ色だった夜の空から、山のシルエットがくっきりと分かれて見えた。「言葉では説明できません。こうやって教える方法しか知らないから」と話す小浜さん。漁師が親から子どもへ継がれることが多いという意味がちょっと分かるような気がした。上関や室津や白浜の漁港には小ぶりな漁船が並んでいる。使う網の目の大きさで、狙う魚がちがうそうだ。漁港で漁師さんに見せてもらったとれたての鯖。背中の縞模様も色もちょっとぽってりとした流線型のからだの形も、本当に惚れ惚れする美しさだった。毎週日曜日、白浜と室津港で魚の朝市がある。あわび、さざえ、なまこ、たこ、さより、かさご、鯛、いろいろな季節の魚が年季の入った木箱に並ぶ。漁師さんが誇りをもって仕事がつづけられるよう、普段の買い物の際はその先にある場所のことを想像しようとあらためて思う。

そして、はじめて見たスギモクは田ノ浦特有の白い砂地に群落をつくり、ふわふわと黄色い花をゆらしていた。ちょうどその時期は田ノ浦で原発建設作業が進められようとしていて、陸の上も海の上もとても緊迫した雰囲気だったのだが、シュノーケルで潜った海の中はとても穏やかで、波に揺られるスギモクは静かに風にそよぐ金色の草原のようだった。しかし穏やかに見える海のなかで環境の変化の影響をまっさきに受けてしまうのは、まさにこんな小さな生き物たちだ。

低温の淡水が湧き出す田ノ浦は、瀬戸内海のなかでも透明度が高い場所である。船やカヤックがあれば、箱めがねでもスギモクの群落をみることができる。〈長島の自然を守る会〉では毎年、スギモク観察ツアーや上関周辺の季節を感じられるイベントを開催している。魅力的な自然と地域の人たちに会いに、ぜひ訪れてみてほしい。

〈長島の自然を守る会〉は、さまざまな研究者とともに調査活動を続け、科学的な根拠に基づいてこの地域の自然を守る必要性を長いあいだ訴えている。原発建設作業による環境への影響が確認された田ノ浦での調査結果を公表することで、建設工事を長期間中止させるなど、会の活動の成果は高い。ただ、その活動を支える調査に携わるメンバーは驚くほど少ない。そして、そのほとんどが私たちの親くらいの年代なのだ。会の人たちが抜群のチームワークや人脈を生かした方法で、突発的に起こるものごとを解決していく様子は見事としかいいようがなく、学ぶところがとても大きい。いろんな人が会を通じてつながることができるのは、いつも笑顔で迎えてくれるこのメンバーたちの魅力にあると思う。私たちのインターンシップ活動は、主に国の天然記念物であるカンムリウミスズメの生息調査のサポートである。まだ1年目でなかなか思うように進まず戸惑うこともあるが、スタッフそれぞれの得意分野を活かして会のサポートを楽しみながら続けている。

上関の人たちが長く押し付けられてきた上関原発建設の問題は、ここで暮らしていない私たちが賛成だとか反対だとか簡単に言えるものではないが、日本の抱える他の問題とも密接に関わっていると思う。私たちができることは地域をよくしたいという思いに応えて、この地域の魅力をよりたくさんの人に伝えることだと思う。今夏、シュノーケルを持ってまた遊びにこよう。

パタゴニアは環境保護に取り組む活動家たちに金銭的な援助だけでなく時間や労力も提供しています。そのひとつにパタゴニアの社員が有給で環境保護グループの活動に参加できる「インターンシップ・プログラム」があります。現在までに900人以上の社員がこのプログラムを通してボランティア活動をしていますが、2012年5月から2013年4月まで6回にわたってパタゴニア日本支社のダイレクトセールス部門の10名がグループで〈長島の自然を守る会〉の活動に参加してきました。

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