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『シンプル・フライフィッシング』訳者あとがき

東 知憲  /  2014年3月20日  /  読み終えるまで6分  /  フライフィッシング, コミュニティ, デザイン
『シンプル・フライフィッシング』訳者あとがき

カリフォルニアのハンボルト郡とメンドシーノ郡の海岸部はロストコースト(失われた海岸)と呼ばれる。100年ちかく前、あまりの交通の便の悪さによって人がほとんど住まなくなったからだ。カリフォルニアを縦断して人を運ぶハイウェイ1号線はイール川にぶつかって突然終わる。海岸線に出ようと思うなら、101号から別れるアップダウンのダートロードを強引にゆくしかない。打ち寄せる波は大きく、人はいない。

もう中年の域にきっちりと入ったフライフィッシャーの私が、決して会うことのできなかった師匠を3人選ぶとするなら、ホテリエのシャルル・リッツ、キャスティング・チャンプだったジョン・タランティーノ、そして伝説の釣り人ビル・シャッドとなる。

ビル・シャッド(スペリングは Schaadt だが、発音は『シャッド』=ニシンとまったく同じ)は北カリフォルニアのロシアン川沿い、モンテリオに住んでいたイラストレーター/看板屋だ。生涯をかけて追い続けた魚はサーモンとスティールヘッド。サンフランシスコを南端とし、そこから北に、ロストコースに向けて上がってゆくとグアララ、ガルシア、イール、スミス、といった川が次々と出てくる。川の流程はおおむね短く、遡上する魚たちは海の滋養をたっぷり蓄えて繁殖に備える。産卵場まで 200 キロの旅をしなくて良いので、産卵床までそのグラマラスな姿態を保っていられるわけだ。そして、シャッドはその地のサーモンとスティールヘッドを釣るために、すべてを犠牲にした。いや、違うな。「人生のすべてにおいて、論理的な優先順位付けをした」と言うべきか。結婚はしない。仕事はしすぎないようにする。年間に数週間だけ働き、その現金で最低限の暮らしをする。ものはできるだけ買わず、物々交換で生きる。彼がもっとも軽蔑したものとは「無駄な動き」である。フライキャスティングでも、食事を取るときでも、日常生活においても、彼は回り道や無駄を徹底的に排除しようとした。重視したのはシンプルさであり、彼の人生はきわめて単純で強力な指針をもとに設計されていた。一日も休みなしで釣りを続けた最長記録は何日かと聞かれ、シャッドは答えている。「2年半かな。それで金が底をついたから仕事をするはめになった」。(ビル・シャッドとそれを取り巻く人間たちの話、そして1940年代にピークを迎えゆるやかに死んでいったロストコースト周辺の川の姿を知るためには『Rivers of a Lost Coast』を見て欲しい。トレイラーはこちらから)。

シャッドにとって最大の理解者は、イヴォン・シュイナード/クレイグ・マシューズ/マウロ・マッツォの著作『シンプル・フライフィッシング』に序を寄せてくれているラッセル・チャザムである。彼はいまや風景画家/版画家として米国朦朧体とでもいうべきスタイルを確立してファンが多く、かつて住んでいた場所に近いモンタナ州ボーズマンの空港には彼の大作が数多く掲げられている。ジャック・ニコルソンは彼の絵のコレクターである。小説家ジム・ハリソンやウィリアム・ヒョーツバーグ、トム・マッグェインとは釣りとアウトドアでつながり、ブローティガンも生前はその輪に加わっていた。その彼が1974年『スポーツ・イラストレーテッド』に書いた記事「世界のベスト」で、ビル・シャッドの名前は全米に知られるようになる。噂が広がる。いわく、シャッドは魚のように考える男だ。その日サーモンが溜まっている場所は匂いでわかるらしい。生まれて1回もラインをからませたことがない腕利きだ。1本のボロい竿でサーモンを何千匹も釣ったらしいぜ。そんなフォークロア的な話は尾ひれがついて行くものだが、サンフランシスコに住み、彼の地に集った超一流フライフィッシャーたちを親しく知るチャザムが、ビルは最高の釣り人なだけでなく、最高のキャスターでもあったというなら、信じざるをえないだろう。彼の投げるラインは美しい形を描き、指でつまんで落とすようにポイントに入る。達人は、ムダのない動作でクリーンなラインを描くことができる。

フライボックスの中身やクローゼットにしまわれた竿の数も肥大傾向にある私たちを見て、ビル・シャッドだったらなんというだろうか。彼が手巻きするフライは拾い物、廃品、友達がくれたハリなどを使ってこしらえるもので、一見の派手やかさはない。しかし大事なのは、たったの1分でこしらえたフライであっても、うまく口の前に通すことができればサーモンは釣れるということなのだ。竿もラインも、一連の流れをうまく実現するための道具だ。竿は、ラインがパワフルにキャストでき、魚に負けないだけの背骨があるなら、ガイドは針金を曲げたものでも、グリップはビニールテープがぐるぐる巻きにしてあっても構わない。リールは魚を巻き取るための機械だから、機能さえ失われていなければエポキシを塗りたくって補強してあろうが、サビだらけだろうが関係ない。

私たちは釣りに、なにを求めるのか。その目標に対して、無駄な動きを排除しもっともクリーンなラインで到達するためには、なにが必要なのか。『シンプル・フライフィッシング』は、チャザムやシャッドが1970年代に求めた問いに、現代的かつ日本的なアプローチで迫るものである。

『シンプル・フライフィッシング』訳者あとがき

スティールヘッディング 訳者近影

東知憲は編集者、文筆業、翻訳者、フライキャスティング・インストラクター。国際フライフィッシャー連盟(IFFF)インストラクター認定プログラム運営委員。

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来る4月、パタゴニア・ブックスより『シンプル・フライフィッシング』(日本語版)が発行されます。著者はイヴォン・シュイナード、クレイグ・マシューズ、マウロ・マッツォ、イラストはジェームス・プロセック、訳者は東知憲。本書についての詳細と、ご自身のテンカラ・ロッドを手に入れる方法については、近日公開予定です。

あるいは4月を待ちきれず、いち早く『シンプル・フライフィッシング』を見たり、パタゴニアのテンカラ・ロッドを触ってみたい方は、明日3月21日(金・祝)から23日(日)まで、パシフィコ横浜展示ホールで開催される国際フィッシングショー「Japan Fishing Festival2014」のパタゴニアブース(小間番号3083)にぜひお越しください。

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ビデオ: ブックトレイラー『シンプル・フライフィッシング:テンカラが教えるテクニック』

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