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マラマ・ホヌア:ホクレアの希望の航海 パート5 ホクレアよ永遠に

ジェニファー・アレン&ジョン・ビルダーバック  /  2017年5月1日  /  コミュニティ, カルチャー

風はなく、波は穏やかだ。双胴型航海カヌー「ホクレア」のまわりでさざ波を立てているのは、大きな円を描きながら子供たちが漕ぐパドルボードだけ。船首にはティリーフの花冠が掛けられ、帆は巻かれたままマストに結ばれている。ハワイの王のマントと同じ深紅に染められたこれらの帆は、強い風のなかでは 15 メートルにわたって広がる。

ホクレア号はすでに 1 週間ほど、ヒロの近くにある湧水の入り江パレカイに係留していた。商船、貨物コンテナ、石油タンクが溶岩石で囲まれた湾に並ぶなか、ホクレア号はまるで島のように、臆することなくしっかりと錨を下ろし、風が吹くのを待っている。

太陽が燦々と輝く雲ひとつない晴天に、水平線がくっきりと見える。ブルージーンズに裸足の船長は、ブームを回転させるラインを調整している。彼の名はチャールズ・ナイノア・トンプソン。ナイノアと呼ばれる彼は、人生の半分以上におよぶ 35 年間ホクレア号の舵を取ってきた。

「風に指示を出すわけじゃない」ナイノアは乗組員にそう言ってきた。「風がどうするかを教えてくれる」

そしていま、風は待てと言っている。

待つことは、忍耐を教える。そして忍耐は、3 年間の世界航海に臨む鍵となる。最初の寄港地は、2 つの風系と 2,500 海里の先にあるフランス領ポリネシアのツアモツ。ナイノアがたどるのは、これらの島々を探検して定住した数百年前のポリネシア人の航路。そして祖先たちと同じように、指標として頼りにするのは風、月、波、鳥、魚、星だけ。

ホクレア号は伝統的なウェイファインディング航法を使ってポリネシア、そしてゆくゆくはインド洋と大西洋を横断しながら、海と地球の健康を気遣う地域をつなげる。このミッションの名前にふさわしい 「マラマ・ホヌア」の意味は、「地球を大切に」すること。

「世界が共有する地球をいたわるのは、先祖代々ハワイの伝統」 母国についてナイノアはこう語る。「ホクレアはいわば花を集める針であり、ハワイはその花でレイを編み上げ、平和の印として地球に捧げるのだ」

ブルース・メアロハ・ブランケンフェルドは、タヒチまでホクレア号に伴走するヒキアナリア号の船長を務める。ホクレアはハワイの空の天頂に位置する星、アークトゥルスのハワイ名で、ホクレアに沿って昇るのが、スピカのハワイ名であるヒキアナリア。ヒキアナリアは伝統航法と近代計器を組み合わせたハイブリッドの航海カヌーで、古代航法で航行するものの、万一ホクレア号の曳航が必要になった場合にはモーターを稼働できるよう、16 枚のソーラーパネルを備えている。

II

そもそもホクレア号が建造された目的は、ハワイ人が彼らの生き方を見つける手助けとなることだった。航海カヌーの文化は 1970 年代まで 400 年以上にわたって「眠っていた」というのがブルースの口癖だ。

そして 1973 年、アーティストで郷土史研究家のハーブ・カワイヌイ・カネ、熟練ウォーターマンのチャールズ・トミー・ホームズ、人類学者のベン・フィニーの 3 人が、「ポリネシア航海協会」を創設した。彼らはかつてポリネシア人が航海の達人で、意図的にハワイ諸島を発見、定住したことを証明したかった。ポリネシア人は潮の流れに乗って漂流しながら偶然ハワイにたどり着いた、という通説をくつがえしたかった。そして航海知識を取り戻し、植民地化によって弱められた文化をよみがえらせようとしたのだ。学校ではフラが禁止され、海の歌はワイキキの観光客に合わせて書き換えられ、母語はささやくようにしか話されなくなっていた。民族が踊りや歌や言語を失うと、民族全体の魂の一部である歴史や物語を失ってしまう恐れがある。ポリネシア航海協会の望みは、ハワイ人が強さと知恵とスピリットを再発見する力になることだった。

計画は航海カヌーの複製を建造し、貿易風を横断しながらタヒチへと帆走するというもので、東ポリネシアの巨大な双胴型航海カヌーを徹底的に調査し、数トンの人と物を輸送できるように設計した。そしてハワイで口述、文書、描画、ペトログリフなどの歴史的文献を頼りにカヌーと帆の形を研究し、ついにホクレア号を完成させた。それは合板とファイバーグラスと樹脂を使用した全長 62 フィート(約19 メートル)のワア・カウルア(双胴型カヌー )で、2 本のマスト、クラブクロウセイル、はしご用の大櫂、6 メートルの広いデッキを備え、すべて 8 本のクロスビームと 8,000 メートルの繋索で結び付けられていた。モーターの装備はなし。だが古代の航海を忠実に再現するためには、近代計器を使わずに帆走しなければならなかった。彼らを先導してくれる誰か、ブルースが言うように、数世紀前に知られていたことをハワイ人がふたたび学べるよう「時のカーテンを開くことのできる誰か」が必要 だった。

時のカーテンを開くということは、ミクロネシアのカロリン諸島のサンゴ環礁、サタワル島へ行くことを意味した。そこにはポゥという熟練航法師のピウス・マウ・ピアイルックがいた。ウェイファインディング航法を理解しているのはほんのひと握りのミクロネシア人だけで、マウ本人以外の誰もがよそ者には教えたがらなかった。

マウは現代の航海士がかつて見たことのない航海術を知っていた。当時 23 歳の乗組員だったナイノアはこれを学ぶことを切望した。

「海が読めれば、決して迷うことはない」 マウは言った。

マウは海のうねりの異なる 8 つのパターンを解読できた。船体に横たわり、船を打つさまざまな波を感じながら、風の方向とカヌーを進ませる方向を察知した。夜明けには水平線を見てその日の天気を、夕暮れには明朝の天気を予測した。強風に流されながら、あるいは嵐の夜、安全な港や陸地からはるか遠い沖合で、マウは新米航海士の心を落ち着かせた。マウは航海士の目をじっと見つめてこう言った。「おまえが灯りなのだ。家族を家に導く灯りは、おまえのなかにあるのだ」と。

これを魔術と呼ぶ者もいた。

ブルースはこれを「マカアラ」、つまり「慎重で観察力に鋭く、覚醒した状態」だと見なす。

1976 年 5 月、マウはホクレア号を 31 日間で無事にタヒチまで導いた。パペーテに入港すると、人口の半数を越える17,000 以上のタヒチ人が「故郷」に戻ったカヌーとその乗組員を出迎えた。

III

空に雲が垂れ込めてきた。穏やかな風が素肌の肩にささやくように吹く。

カヌーは今日ヒロから出帆する予定だった。だがそれは、何か月も前に人が決めた日付にすぎなかった。

ナイノアは皆に伝えた。カヌーは今日、そして明日も明後日も出帆しないと。

船を出すには「風が悪い」と誰かが言うと、ナイノアはすばやく訂正する。「風が悪いということは決してない」そして「風は我々に時間を与えてくれているのだ。この旅に出る理由をより深く理解するための時間を」と説明する。「風はその時間を与えてくれている……」

ここパレカイに集まった人たち皆が理解を深める時間であることを、ナイノアは示唆している。ブルースはこのナイノアの言葉を、カ ヌーと乗組員の神聖な祝福を目にしようと集まった数百人の観衆に伝えた。

儀式は星が輝く夜明け前にはじまった。「癒しの島」として知られる、風雨から守られた小さな島モクオラから、乗組員が温かく浅い水のなかに歩いて行く。ここは戦いの前後にカメハメハ大王が清められ、力を増し、癒された場所だ。ここで乗組員は薬効のあるアヴァを分け合って飲んだ。

「さあ、時が来た。自分が誰に仕えるのかを明確にするときだ」ナイノアは言う。

それから数日後、マストにハワイの旗が掲げられた。風が到来し、その旗を波打たせ、パレカイの海を奮わせる。

いよいよ出帆だ。

湾の岩に数百人、そして海岸にはさらに大勢が並ぶ。果物や野菜を入れた木箱が手から手へと渡され、長い列の最後にいる乗組員を経て、ようやくカヌーに運び込まれる。

小型ディンギーが、最後の乗組員をカヌーに運ぶ。

「良い旅を!」と誰かが叫ぶ。

「ア・フイ・ホウ(また会いましょう)!」と別の誰かが叫ぶ。

この先、カヌーを太古の方法で導くナイノアとブルースの傍らで、見習い航海士たちはその航海術を学ぶ。

カヌーは容赦ないスコールに打たれるだろう。

「全員甲板に集合!」の号令が出るだろう。

船酔いもするだろう。

彼らは学ぶ。ある乗組員が言うように、自分がどこから来たのか、自分が何からつくられているのか、自分が何者であるのかを学ぶだろう。

そして 16 日後、フランス領ポリネシアのツアモツ諸島に到着する。

吹かれたプー(ホラ貝)の音は、しっかりと力強い。その音はホクレアの帆が風に解き放たれてからも、長いあいだ聞こえた。

Mālama Honua: Hōkūle‘a – A Voyage of Hope 』(英語版)(2017年秋パタゴニア・ブックスより刊行予定)から抜粋(日本語版発刊未定)。

2014 年 5 月にタヒチへ出航して以来、アフリカ、 オーストラリア、ニュージーランド、北アメリカ、南アメリカへと世界中をめぐりながら、持続可能性に対する国際的な認識を高めるというホクレア号の壮大なミッションを記録した美書。寄港地でのホクレアの体験記である本書は、航跡のない航路を導く航法の達人と乗組員の声、そして現代生活における環境的挑戦の数々を乗り越えるために努力を重ねながらホクレア号に心を動かされた科学者、教師、子供を含む地元の先駆者たちの声を織り交ぜ、ひとつの地球社会を築き上げることの必要性を語る。また互いを、そして自然の繊細かつ複雑なシステムを尊敬し、生態系のバランスを保つさまざまな方法で暮らしを営む先住民族固有の文化を紹介する。

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