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PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)からMVTR(水蒸気透過率)へ:防水性バリヤーと透湿性の物語

 /  2012年7月30日  /  デザイン

日本語版のクリーネストラインがスタートしたのは2010年10月のことですが、パタゴニア本社ではそのずいぶん前、2007年2月からクリーネストラインをスタートさせていました。この3年半のあいだの本社の投稿には興味深いものがたくさんあります。今日はそのなかから夏山シーズン真っ盛りの日本にぴったりの、パタゴニアのシェルの透湿性についてのストーリーをご紹介します。

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1974年、僕は友人と高校卒業を祝ってパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)をメキシコからカナダまでハイクした。当時の僕らは自分のギアに疑問など抱いていなかったが、いま考えるとその多くがいかに不適切なものであったかが信じられない。そのなかで最もひどいもののひとつはレインギアだった。ゴアテックスが登場する前のことを覚えている人には、体をドライに保つためのものといえばウレタン加工をしたナイロンくらいしかなかったことが信じがたいだろう(いやフォームバックというものがあった。だが、それはまったく別の話だ)。

探したもののなかでいちばん軽量だったという理由で、僕はトレイルワイズのアノラックを持参した(トレイルワイズを覚えている人は年齢がバレてしまう)。雨のなかをとぼとぼと歩きながら、脱いだ方がもっとドライでいられるのではないかとたびたび考えた。でもこれはキャプリーンはもちろん、ポリプロピレンすら登場する以前の話で、僕が着ていたのは1970年代のハイカーのユニフォームといえるもの、つまりコットンのTシャツとジーンズだった。それらを濡らしてしまうことは何としてでも避けるべきことだった。

そのわずか3年後の1977年、僕のPCTのパートナーのトニーと彼の弟のジョンはコンチネンタル・ディバイド・トレイルに挑戦した。彼らはゴアテックスのシェルの、おそらく最初のバージョンだったアーリー・ウィンターズ・ゴアテックス・ジャケットを持っていた。旅を終えたあと、彼らにこの目新しいゴアテックスへの感想を聞いた。

それは僕のアノラックよりははるかに優れたものではあったが、トニーとジョンは(いまでは第一世代のゴアテックスとして知られる)この初期のゴアテックスは、結果として人びとがアウトドアで着るものを変えることになった第一段階にすぎなかったことに同意した。彼らが経験した初期の問題は構造と素材そのものについてだった。これは工場で縫い目をシール処理する以前のもので、つまりは新しい雨具を買ったら、1〜2晩かけてすべての縫い目をシームシーラーのチューブで封じなければならなかったのだ。律儀にもジョンとトニーはありとあらゆる縫い目を処理したが、これは無駄だった。縫い目からはまるでザルのように水が浸透してきた。

もうひとつの問題はちょっとしたミステリーで、素材に関連したことだった。ゴアテックスは昔も今も発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE、テフロンを引き延ばしたようなもの)で出来ている。それがジャケットの外側のナイロンやポリエステルのような耐久性のより高い素材に貼られている。

第一世代のゴアテックスはラボでは素晴らしい製品だった。透湿性に優れ、完全防水だった。要するにバックパッカーの夢が実現したようなものだった。しかし野外で問題が起こりはじめた。それは誰も考えていなかったことで、PTFEのラミネートに体の油分と汗が接触すると、PTFEの防水性が失われてしまうという問題だった。WL ゴアは対策に取り組み、まもなく解決策を見いだした。PTFE層に油分と汗へのバリヤーとなる極薄のポリウレタン層を貼り合わせたのだ。これは成功した。ポリウレタン層により素材の透湿性は減少したものの、防水性を衰弱させる汗と油分からの汚染を防止するという、より大きな目標を達成した。1980年代初期には工場でシーム処理をすることにより、縫い目の水漏れの問題を解決。ゴアテックスは透湿性防水素材の代名詞となった。

30年後、ゴアテックスにはeVentHyventPreCip、そしてパタゴニアのH2Noなど、数多くの競合が存在する。もはやたんに「透湿性を備えている」だけでは十分でなくなり、多くの新しい素材が存在するなか、素材デザイナーはこれらの素材の透湿性を比較し、測定することが必要になってきた。そこで開発されたのが水蒸気透過率(Moisture Vapor Transfer Rate(MTVR))である。MVTRはオタクの人たちが好んで使う言葉だが、僕ら一般人にはまったく馴染みがない。けれどももしあなたが、あるジャケットにどれだけの透湿性が備わっているか尋ねたことがあるならば、実際には「このジャケットの素材のMVTRは?」と質問したことになる。これは重要な値であるが、測定は実際そう簡単ではない。

MVTRの一般的な公式はXg/m2/24時間だ。Xは24時間中に素材1平方メートルのバリヤーを何グラムの水が通過するかの値。それはかなり単純なように聞こえるが、もしパタゴニアに電話をして僕らの素材のどれかについてのMVTR値(あるいは多分、透湿性について)尋ねたことがあれば、おそらくその数字は公表していませんと言われただろう。ある人はその数字は独占情報だと言われたかもしれない。僕らがその数字を公開しないことは事実だが、それが独占情報だからというわけでもない。事情はそれよりももっと複雑だ。そこでパタゴニアの品質保証の責任者のランディになぜその数字を公開していないのか、詳細な説明を聞きにいってみた。

そこで知ったのは、正確なMVTR値を手に入れるのは至難の業だということだ。パタゴニアが素材の透湿性テストすると決めたとき、僕らは世界中の6つのラボを選び、同じ一反からカットした繊維をそれぞれのラボに送った。結果が戻ってきたとき、それは失望させると同時に啓発的でもあった。6つの結果はすべて顕著に異なり、まるで6種の違う繊維をテストしたかのようだった。そこで品質チームはさらに一歩進めて、まったく同じ繊維をそれをテストしたラボにもう一度送り、再テストを依頼した。するとやはり2度目のテスト結果は最初のそれとは確実に合致していなかった。単独のラボが同じ繊維から類似の結果を得られないのであれば、異なる素材(そしてブランド)の比較は明らかに不可能だ。この相違がパタゴニアが揺るぎない数字を公開しない理由である。その他の素材と比較しても無意味なのだ。公開された数字に頼って製品を選ぶことは、お客様はマーケティング部と計り知れないラボを深く信頼するということになる。

最近では、新進のアウトドアウェア会社は看板を掲げないうちに、商品をせっせと勧めてくる繊維会社から営業攻撃を受ける。だがパタゴニアの創業初期にはアウトドア用の繊維は珍しく、入手できる唯一のものは往々にして既製の素材だった(初代のパタゴニアのパイル・ジャケットの素材はトイレのシートカバーとして売られていたものだった)。だから僕らはつねに自社の素材ラボで、みずからの繊維をテストしてきたのだ。

MVTRの商業テストの測定結果に失望したランディと彼のチームは、解決策を見いだした。それは独自の機械を作ることだった。ランディは僕にそれがどう作動するのかを教えてくれたが、じつをいうと覚えているのは送風機、湿度、サーモスタット、厳格な測定などが作用するいうことだけだ。この機械は正確で、さらに重要なことに他のラボを悩ませたテストの一貫性の問題を解消した。この結果に感銘を受けたのはパタゴニアのチームだけではなかった。私たちが最初に依頼したラボのうち数社は、どうやってパタゴニアがそれを成し遂げたのかを研究するため、ベンチュラの素材ラボにエンジニアを送ってきた。

今日、パタゴニアの素材ラボチームはこの機械を使って自社の繊維だけでなく、競合他社のそれもテストしている。僕らが使う(あるいは使わない)すべての素材はこのテスト、そしてその他の多くの厳しいテストを受けている。繰りかえしになるが、パタゴニアはそのMVTRの測定が正確であることに自信をもつ一方、この結果を他のラボの測定値と比較することは、ほぼ確実に無意味だと考えている。またパタゴニアは素材の選択にあたり、ラボのテストだけに頼ることはないということにも言及しておくべきだろう。パタゴニアには製品をテストし、新しい素材とデザインを真に試す包括的な公式(プロのテスターたち)および非公式(僕ら残りのものたち)のチームがある。これらの素材の防水性と透湿性は本当のところどうなのかを知るためだ。

パタゴニアはラボと現場のテストのコンビネーションにより、業界最高のパフォーマンスを達成していることに自信をもっている。けれどももっと重要なテストはお客様だ。ぜひ意見や感想を聞かせていただきたい。僕らの製品を試してもらったお客様からの意見を聞くのは大好きだし、耳を傾けたい。皆さんのコメントもパタゴニアの新製品や既存製品の改良に重要な役割を果たすのだ。

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